最終話 由真、恋するココロ? ⑤
その後、俺は急いで救急車を呼んだ。出血量が多かったため、危険な状態らしい。病院の椅子に座り、俺はぼーっと目の前の壁を見つめていた。俺の選択ミスで彼女をまた危険な目に合わせたのだ。俺の優柔不断のせいで・・・。
人生とは一つのミスでもうやり直せなくなる。これがただ一つ、今回の俺に残された教訓なのかもしれない。そう思い、俺は家の天井を見ていた。
「由真君、ご飯食べなよ。」
「いい・・・。」
「食べないと死んじゃうってば。」
「三食抜いたくらいで死なないって。」
美鈴の声も、今は聞きたくなかった。俺は全てに無気力になっていた。
「ふむ・・・怖いんだね。自分のせいで人が傷ついていくのが。」
「・・・・・・・。」
「でもさ、人間ってそういうのを経て大人になるんじゃないかな?」
「・・・・・知るかよ。」
「私はヒッキーな由真君でもいいけど、でも由真君はもっと笑ってなきゃ」
そう言われて、立ち上がる。
「由真君?」
「・・・出かけてくるよ。」
そう言って、美鈴に微笑みかける。
「・・・・うん」
それにつられたのか、彼女も笑顔になった。
昨日と同じ空、昨日と同じ風、そして昨日と同じ場所。放課後の図書室は人気がなく、用務員のおじさんが掃除したのか血の跡は綺麗さっぱりなくなっていた。
「俺はなんで間違えたのだろうか?」
誰だって分かっただろう、あの時、彼女を一人にしてはいけないと。でも俺は美鈴のところに行ってしまった・・・。
「いつまでも俺の優柔不断さは治らない・・・か。」
そう言って床を見つめる。昨日そこに麻衣はいた。確かに、そこにいたのだ。
「ホント、たいした正義の味方だよな・・・俺は。」
自己嫌悪して、その場に座り込む。そして、もう戻らないあの日々を思い、枯れ果てたはずの涙がまた、頬を伝うのだった・・・。
「ホントだよね、人一人蘇らせちゃったんだから。」
そう言われ、振り返る。そこにいたのはいつもと変わらぬあの笑顔。
「由真君、私ね・・・夢見たんだ。」
俺は彼女を見つめていた。ずっと、ずっと・・・。
「・・・でさ、そこでスーパーマンの格好した由真君が颯爽と登場してね・・・・・。」
彼女の話を聞きながら俺は笑顔で相槌を打つ。そして彼女の話が終わり、最後にこう付け加える。
「由真君。・・・こんな可愛くなくて・・・・全然いい子じゃなくて・・・人とあんまり仲良く出来なくて・・・泣き虫で・・・面白い話も、人の役に立つ事も出来なくて・・・それどころかこんなに人に迷惑かけちゃって・・・処女じゃないし。それに手首に傷もあって・・・・・・それでも、それでも・・・由真君は、そんな私を愛してくれますか?」
もう答えは決まっていた。だから、もう、言える。
この思いを、迷わずに、真っ直ぐに、彼女に届けよう。
「麻衣。」
俺は麻衣の細い身体を抱きしめた。昨日とは違う暖かい彼女の身体・・・俺は昨日言えなかった思いを打ち明ける。
「ずっと・・・・・ずっと・・・一緒にいよう。」
「由真君・・・・。」
麻衣の手が俺の背中に回る。
「・・・・うん。大好きだよ・・・由真君。」
太陽がぽかぽかと俺たち二人を照らしている。そして俺はあることに気付く。
「麻衣、今までも言ったけど・・・・。」
「・・・ごめん。最後まで手遅れだよ。」
「――――!・・・ってもういいや、怒る気にもならないよ。」
「・・・じゃあ、帰ろっか?」
「ああ・・・・・。」
そう言い、ふたり、手をつなぐ。
「あ、そうだ由真君。昨日渡し忘れたんだけどね・・・。」
そう言い、麻衣が小さな袋を渡した。
「何これ?」
「キーホルダー。猫さんの。ちなみに私とおそろい。」
そうして、俺たちは歩いていく。
何度も、転びながら。何度も、間違えながら。
それでも、歩みを止めることなく進み続ける。
俺たちは歩き続けるのだ。
まだ見ぬ二人の未来に向かって・・・。




