最終話 由真、恋するココロ? ④
「麻衣・・・。」
「由真君、もう決めたの?」
「ああ、さっきそこで井上と会ってさ。もう迷わない。そう決めたんだ。」
麻衣は笑顔になる。しかしどこか悲しげだった。
「私、あの日・・・ホントはもう死んじゃおうかなって、思ってたんだ。でも・・・由真君が来て、一緒に話して、笑って、もう少し生きようって・・・そう思えたんだ。」
「・・・。」
「それで、たくさん楽しいことあって、いつの間にか死のうなんて考えてたのが馬鹿みたいに思えてきて・・・。生きることの喜び、私は由真君のおかげでここまで来れたんだよ。」
月明かりに照らされる彼女の姿、その表情はどこか寂しげで、そして悲しげだった。俺は不意に時計を見つめた。
「私・・・由真君がいたから・・・それに気付けたんだと思う。だから、やっぱり由真君は良い人だよ。」
現在時刻は午後七時、もう暗くなって辺りが見えにくくなった図書室で彼女はそう呟いた。
「・・・・由真君、どうしたの?・・・ん?」
俺の顔を覗き込み、彼女はにっと微笑んだ。
「麻衣・・・俺は・・・俺は・・・・。」
「・・・なぁに?」
彼女はいつもと同じ笑顔で俺を見つめている。
「俺は・・・君の事が・・・。」
「えっ・・・・?」
彼女の顔が一気に真剣になる。俺が何を言いたいのか悟ったのだろう。
「君が・・・。」
「・・・・・・。」
一瞬、全ての時が止まったかのような沈黙。そして彼女は・・・。
「・・・・ありがとう。」
そう一言、呟いた。
「・・・麻衣・・・。」
「でも、ごめんなさい・・・・。私、あなたの気持ちには答えられない。」
そう言って、麻衣は後ろを見た。しかし、俺にはわかっていた、彼女が泣いていることを。
「だって・・・あなたには・・・由真君には・・・。」
麻衣はこちらを向きなおす。
「美鈴ちゃんがいるじゃない・・・。」
「麻衣、美鈴のことは関係ないだろ?」
ふるふると首を横に振る。
「関係なくなんか無い。私のせいで美鈴ちゃんが悲しむなら、私はいないほうがいい・・・だから。お願い・・・もう、美鈴ちゃんのトコに行ってあげてよ。」
「麻衣・・・俺は。」
「行ってよ。私はいいから。」
彼女の目からは大粒の涙、月明かりに照らされてきらきら光っている。
「行ってよ・・・行けってば!」
今まで聴いたことの無いくらいの真剣な声。俺は黙って歩き始めた。
「さよなら・・・由真君。」
ドアのところまで来た時、一度振り返る。
「麻衣、それでも俺は麻衣と友達でいたい。・・・それはいいよな?」
彼女は頷いた。そして俺は走って家に向かった。
「あら、お帰り。早かったね。」
美鈴は家で夕飯の支度をしている途中だった。
「・・・美鈴。麻衣が・・・。」
「麻衣がどうかした?」
そして俺は今日のことを全て話す。関係の無い話も全て包み隠すことなく、それでも彼女は最後まで聞いてくれていた。
「・・・・・・・ってわけなんだけど。」
すべて話し終わったあと、美鈴は一回失笑し、俺を指差した。
「・・・・まったく、君はぜんぜん分かってない!」
「え?」
「自分の気持ちに正直に!ホラがんばれ、男の子!」
そう言って、私は彼のお尻を思いっきり叩いた。
「麻衣ならきっと待ってるから。早く迎えに行ってあげな?」
「・・・・美鈴・・・・・ああ、わかった。」
そうして俺はまた走り出した。彼女の待つ学校へ・・・。
「あ~あ。私もぜんぜん分かってないなぁ・・・。」
彼女のそう呟く声が聞こえた。さやかがいるから彼女は大丈夫だろう。そう思い、俺は走った。
学校に着く、そして急いで図書室に向かった。
「麻衣!」
しかし、そこに彼女の姿はなかった。書庫にも、教室も探したが、学校の中で彼女の姿を見つけることは出来なかった。
「くそっ!どこ行ったんだよ!」
そう呟き、麻衣を探して商店街を走った。
俺は走っている。いつもの道を・・・彼女に会うために。
「由真さん!」
突然声をかけられる。俺は後ろを見た。
「祐一・・・・麻衣はどこだ!」
「知らないっすよ!俺は由真さんなら知ってると思って・・・。」
俺は祐一の顔を見た。いつもと同じ、いやそれ以上に真っ直ぐな目つき・・・息が上がって苦しそうな彼の表情は真剣そのものだった。
「俺はもう一回、学校の方に行ってみる・・・祐一は一旦、俺の家に行ってくれないか?・・・・美鈴のこと、見ててくれ。」
彼は頷いた。俺はそれを見て走りだす。
「由真さん!」
祐一がまた俺を呼んだ。しかし俺は後ろを振り返らなかった。
「俺、まだ負けてないっすよ!諦めた訳じゃないっすからね!」
彼のその言葉を聴いて、俺は吹き出した。
「お前、シスコンもほどほどにしとけよ!」
彼にそう忠告し、もう一度、学校に向かった。
「麻衣!麻衣!何処だ!」
生徒のいない学校の中を警備員に見つからないように走る。
「あーもう・・・なんで何処にもいないんだよ・・・・・。」
そう呟いて、歩き出す。そしてその時思い出した。図書室の本棚のところは死角になっている。もしそこに彼女が隠れているとしたら・・・。そう思い、また走り出す。
ここは、最初に二人が出会った場所。
「迎えに来たよ・・・麻衣。・・・・帰ろう。」
俺は汗だく、肩で荒い息をしていた。
「・・・・由真君?・・・来てくれたんだ?」
俺の目の前にいるその少女の体は赤く染まっていた。
「あ・・・・・・。」
俺の視線の先にはナイフと手から流れ出る大量の血。
「もうちょっと・・・早く来てくれたら・・・・こんなことしなかったのにな・・・ちょっと後悔しちゃったな・・・・。」
そう言って倒れる少女。俺はそれを抱きかかえた。
「・・・・・麻衣!麻衣!」
何度も、何度も・・・彼女の名を呼んだ。
「死なないでくれ!麻衣!」
「ごめん・・・・・なさい。」
麻衣の顔は穏やかだった。その顔に俺の涙が伝わる。
「麻衣ぃぃぃ!!」
俺は彼女を抱きしめた。強く、強く・・・。




