最終話 由真、恋するココロ? ③
「俺は恋する乙女か・・・・?」
好きな人のことを考えていると夜眠れないと言うのは本当だった。俺は一睡も出来ず、とうとう決断の日になった。
「おはよう、ゆーちん。」
リビングには美鈴の姿はなく、代わりにさやかがいた。
「あれ?きょうはずいぶんと早いなさやか。」
「土曜日だしな、久しぶりに早起きしてみたんだよ。」
「そっか・・・美鈴は?」
「お姉ちゃんは朝早く出かけたぞ。なんか今日はお祝いだからって・・・。」
「なるほどな・・・嫌味か?」
「なんのことだよ?」
そう言うさやかを無視し、俺は朝飯を済ませ、家を出た。
「休日に学校行くもの久しぶりだな・・・。」
今日は祝日だ。たまの休みに学校へ行くのも癪だけど、麻衣を待たせると悪い、そう思い、俺は学校へと急いだ。
学校の校門前に、少女はいた。金色の長い髪を腰の辺りまで伸ばし、ポニーテールにした少女。美鈴だった。
「み、すず・・・?」
「由真君・・・。ごめん、決心揺らがせるようなことして・・・。」
彼女は買い物袋を持っている。買い物を済ませた後、ずっと俺が来るのを待っていたようだ。
「こんなことしちゃいけないって分かってる・・・。でも、でも・・・私だって・・・ずっと貴方のことが・・・!」
「分かってる・・・けど・・・俺は・・・・。」
俺は未だに迷っていた。だからその先の言葉が出なかった。
「・・・いい。・・・お姉さんは・・・やっぱ、舞台に上がるべき人じゃなかったね。・・・あはは・・・ごめん。ホント・・・・ごめんね。」
彼女は泣いていた。しかし俺には慰めることは出来ない。
「・・・ごめんなさい!」
走り去る美鈴。俺は引き止めなかった。
「・・・美鈴、ごめん。」
俺は図書室へ行った。まだ麻衣は来ていない。
「待つか・・・。」
一時間、二時間、三時間・・・待っても彼女は来なかった。時間を指定しなかったのはやはり間違いだったと後悔する。
時間があるとやはり色々と考えてしまう。美鈴のことやさやかのこと、冬の出来事・・・・そして何よりも麻衣のこと。
「・・・俺は一体何がしたいんだ?」
誰かの悲しい顔を見たくない。俺はまどかに誓ったのだ『もう誰も悲しませない』と・・・。それなのに、俺は・・・。
「悲しませない・・・そんなこと無理に決まってる・・・・。」
どちらか片方を取れば他方は悲しむ。そんなことは分かっている。けど、もう二人はこのままの関係じゃいられない。だから俺は決めなければならない。
俺は気がついていなかった。自分が優柔不断だったことに・・・。
「こんなとこでそれが露呈するとはな・・・。」
その後も二時間、三時間と時間は刻々と過ぎていく。しかし、麻衣は来ない。俺は諦めて一旦、昼食を取るために『フェアリーサークル』に行くことにした。
「はぁ・・・。」
溜息も出るさ、こんなに待たされてるんだから・・・。そう思い、重い足取りで歩いていく。
「・・・おじさーん、とりあえずコーヒー・・・・。」
店に入ると同時にそう言った。
「お、由真来たか。待ってたぞ。」
「なんでだよ?」
俺がそう言うと、おじさんは奥の席を指差す。そっちの方を向くと、麻衣がいた。
「由真に会う決心がつかなくて、ずっとここにいたんだよ。」
「なるほど・・・道理で来ないわけだ。」
麻衣はこっちに気付く。
「あ・・・・由真君・・・。」
「何やってんだよ。待ってたのに。」
そう言って、隣に座る。
「ごめん・・・なんか緊張しちゃって・・・。」
「まぁ、来ないよりかはマシだけどさ・・・・。」
そう言って、コーヒーを飲む。すると麻衣はこんなことを言い出した。
「美鈴ちゃんに会ったの・・・さっき、そこで。」
「・・・・で?」
「私も由真君の事が好きなんだって言ってた。」
「・・・で?」
「・・・・びっくりした。」
「・・・で?」
「もう無いよ!」
そんな会話をしつつ、三時ごろに学校に戻った。
「ここが始まりだったんだよね?」
「ああ、そうだよ。」
「男の子と話したりするの久しぶりだったからあの時は驚いたよ。」
微笑んでそんな思い出話をする彼女。
「・・・でさ、美鈴ちゃんがその手紙で怒っちゃってさ・・・。」
「ふぅん・・・。」
俺の知らないことを話している。しかし、そんな言葉は俺の耳には届いていなかった。
「書庫整理のことはホントごめん・・・だましたのは反省するけど、それでも私は悪くないからね。」
「ああ、そうかよ。」
楽しかったこと、悲しかったこと、嬉しかったこと、辛かったこと・・・それをずっと話し続ける麻衣。
「・・・もう、全部喋っちゃったね。」
「ああ。」
「じゃあ、後は由真君だけだよ。」
俺はその言葉を聴いて、一度溜息をつく。
「・・・麻衣、ごめん・・・。」
「え?」
「俺は・・・ホントダメな人間だよ・・・。未だに分かんないんだ。自分の気持ちが・・・・。」
「そんなこと無いよ、由真君はいい人だもん。」
そう言って、麻衣は俺との距離を開ける。机一個分くらい俺との距離を開け、もう暗くなり始めている外を見つめた。
「由真君、まだいいから・・・。無理しないで、自分の気持ちを決めてくるといいよ。」
そう言って、手を振る。
「麻衣・・・ありがとう。」
「私もね・・・実はまだ心の準備が出来てないんだ・・・。答えが見つからないの。だから、待ってるよ、ここで。」
それを聞き、俺は図書室を出た。昇降口を歩き意味も無く考える。俺は一体何がしたいのか、そんなことはもうすでに分かっていた。
「俺はみんなの幸せな笑顔が見たいんだよ・・・・。」
あんな作り笑いじゃない、本当の笑顔が見たいんだ。
「由真?何してんだ?」
後ろから声、振り返ると井上の姿。
「部活帰りか?」
「ああ、そんなトコ。お前は?」
「俺は、特に何も・・・。」
「何だよそれ・・・・。」
そう言いながら靴を履き替える井上。
「じゃあな。私帰るぞ。」
「ああ、また明日。」
そう言い、手を振る。そして二、三歩歩いて振り返る。
「どうでもいいけどさ。お前、何でも顔に出すぎだぞ。」
「は?」
「明日聞かせろよな。麻衣とどうなったか」
「井上・・・あのな。」
「違うのか?」
違わない。でもそんな事言えるはずが無い。
「まぁいいや。・・・なんにせよ、お前のそんな顔、私は見たくないぞ。笑えよ、由真。」
そう言い残し、去っていく井上。
「笑え・・・か。」
俺は忘れていた、自分の事を。他人のことを考えすぎて、自分の方まで頭が回っていなかったのだ。
「・・・よし、決めた。」
俺はもう迷わない。そう決心し、図書室へ戻った。




