最終話 由真、恋するココロ? ②
そのころ、麻衣は家で祐一と話をしていた。
「で?由真さんに渡せたの?プレゼント。」
「・・・無理だった。」
祐一はそれを聞いて溜息をつく。
「な、なに?そんなにいけなかった?」
「悪いわけじゃないけどさ。まぁ、明日渡せばいいわけだし。」
そう言い、壁の時計を見る。時刻は八時。
「あのさ、麻衣姉。その、今日のことなんだけどさ。」
「うん?なに?」
「都に聞いたよ。俺のために色々してくれてたって。」
「あ、だってそれは・・・。」
「いいって言ったのに。どうせもう学費払えないんだから。」
先日、祐一はバイトを辞めた。そのせいでもう学費が払えなくなっていたのだ。
「麻衣姉、この部屋ももう家賃払えないからさ・・・。」
「うん・・・お父さんの家、帰ろ?」
そう言うと、祐一は首を横に振った。
「麻衣姉は由真さんの家に行って欲しいんだ。」
「えっ!?」
「美鈴先輩達なら安心だし。それに・・・親父の所に・・・もう戻れないだろ?」
「・・・・・・・・。」
麻衣は何も言えなかった。
「親父は俺がどうにかするからさ・・・だから。」
「うん・・・。」
麻衣は静かに頷いた。
「麻衣姉・・・ありがとう。」
「でも、寂しいな・・・今までずっと祐一がいてくれたのに急にいなくなるのは・・・。」
麻衣がそう漏らすと、祐一は寂しげに床を見つめる。
「麻衣姉、あのさ・・・。俺、まだ諦めたわけじゃないから・・・。」
「・・・都さんの事?」
「いや、麻衣姉のこと。」
「・・・・・・・・。」
時計の音だけ、虚しく聞こえる。
「俺は麻衣姉のことが好きだ。それに嘘偽りはない。」
「・・・・冗談。祐一にはたくさんいるのに。」
「本気なんだ。俺が本当に好きなのは、麻衣姉、ただ一人なんだ。」
手を握る。真剣な祐一の表情。
「・・・だって、私には・・・・。私には・・・。」
「・・・・・って言えば、麻衣姉がちょっと悩むかな~?ってさ。」
祐一の言葉に疑問符な麻衣。
「麻衣姉はやっぱ由真さんの所に行くのがいい。」
「え?え?どういうこと?」
「冗談だったって事さ。俺は麻衣姉の事、一人の女として見た事ないから」
それを聞いた途端、ふるふると怒りに震える麻衣。
「やべ・・・怒った?」
「もう!知らない!」
そうしているうちに夜も更けて、時刻は十二時を回った。
「はぁ~楽しかった・・・。」
「十分に生を謳歌できた?由真君?」
まるでこれから俺を血祭りに上げるような言い様だ。
「美鈴、明日さ・・・。」
「ん?」
「麻衣、家に連れてくるから・・・。」
「なんで?そんなに誕生日のプレゼント貰えなかったのが悔しいの?」
冗談交じりに茶化す美鈴。
「そうじゃない。・・・実は明日、麻衣に・・・・。」
「いよいよなんだ。・・・いいねぇ、青春ですなぁ。」
そう言いながら糸目になって色々思い返している。
「長かったね・・・麻衣も待ちくたびれたんじゃない?」
「そうかな?でも、やっぱ友達だし・・・。」
俺のその言葉に美鈴が反応する。
「でも、いつまでも友達じゃいられないでしょ?だからがんばって!ね?」
「ああ、がんばってみるよ。」
俺のその言葉に笑顔になる美鈴。しかし俺は気付いていた。その後見せた彼女の悲しげな顔に・・・。
部屋に戻る。そして学祭の夜のことを思い返す。
『由真君、私ね・・・。由真君の事・・・ずっとずっと昔から好きだった。』
あれは冗談ではなかったのだろう。彼女はあくまで本気だったのだ。
「・・・どうやら自意識過剰じゃなかったみたいだな。」
俺は悩んでいた。美鈴と麻衣・・・。俺はどちらの悲しむ顔も見たくない。
「・・・あ~もう・・・・いつから俺は悩み多き高校生になったんだ?」
間違いなくつい先日までは、俺はただの高校生だった。だが、いつのまにやらラブコメの王道街道を突っ走っている。俺には決断する能力なんてなかった。
「麻衣・・・美鈴・・・・。」
そうしているうちに夜が明けた。




