第一話 由真、恋の三角関係警報発令中! ④
何とかギリギリで学校に辿り着いた俺は、さやかと別れ、教室で封筒の中身を確認する。図書券かぁ・・・小野寺さんらしいプレゼントだな。そう思ってニヤニヤしていると、美鈴が声を掛けてくる。
「由真君? 今日は頑張ってよね。」
俺にはその言葉の意味が理解できなかった。
「何を頑張るんだよ?」
「それはねぇ・・・」
美鈴が自分の指を唇に当てながらそう言い始めた時、教卓の方から委員長の声がする。
「皆、座って! 今日は来月の学校祭の事について話し合いをしようと思うんだけど! ・・・ねぇ、ちょっと皆!聞いて~!」
しかしクラスの連中は全く話を聞こうとしない。それどころか教卓の方に向かって紙くずを投げる奴もいる。美鈴はそれを止めようとするが、誰も聞こうとしない。流石にその行動には俺も黙っていられなくなり。
「委員長の話を聞けっての!」
怒りながらそう叫んだ。普段から教室ではあまり目立っていない俺が怒ると、流石に皆は黙って椅子に座り始める。
「あ、ありがとう。川上君。」
そう小さく呟いて、彼女は本題の学校祭の話を始める。
「えっと・・・学校祭で出し物を一つやらなきゃいけないんだけど・・・。何がいいかな?」
しかし、誰も何も言わない。普段うるさいくせに・・・。
「じゃ、じゃあ挙手・・・挙手で誰か意見を言ってくれないかな?」
恐る恐る彼女がそう言うと、先ほど紙くずを投げつけた女子の一人、井上加奈が手を上げた。
「あっ! 井上さん!何か意見?」
「お前一人でなんかやればいいじゃん。いちいち他人を頼らないで下さい。」
そう言って加奈は教室を出て行こうとする。彼女はそれを引き止ようと、手を握った。
「井上さん! まだ話が・・・」
「触んな・・・・優等生気取り、嫌いなんだよ。お前ホントうざい。」
加奈は教室を離れた。それに続くようにクラスの皆が教室から出て行く。そして教室に残ったのは俺と委員長と美鈴の三人。
「・・・・う、うぅ・・・。」
委員長はさっきまで泣くのを堪えていたが、とうとう抑えきれずに涙を流す。美鈴はすぐに彼女の方へ向かい、抱きしめる。
「う・・・グスッ・・・美鈴ちゃん・・・・ごめん・・・ごめんね、いつも・・・。」
「いいのよ。麻衣は何も悪くなんか無いんだから・・・。」
二人の姿を見て、俺は憧れの人がクラスでどんな存在だったのかを理解した。
俺は彼女に何も言ってやれなかった。今まで俺はあいつらと同じことをしていたということに気付いたから・・・。俺は今まで何も言わず、ただ皆について行ってただけだった。それは俺も皆と同じように彼女を扱っていた事と同じだから・・・・そんな罪の意識が俺の頭を駆け巡り、俺、本当に彼女のことが好きだったのだろうか? という考えが頭を過った。昼休みになり、俺はいつもの友達と昼食を食べようと、いつもの場所に集まった。
「いや~朝のあれは面白かったな。」
友人Aがそんな事を言い出す。俺はそちらの方へ耳を傾けた。
「委員長暗いしなぁ・・・たまには加奈みたいに一発キッツイのお見舞いしてやんないと面白く無いもんな。」
「あははは。」
皆がそんな事を言って笑っている。でも俺は笑わなかった。
「由真どうした? ここは笑うところだろ?」
友人Bが俺にそんな事を言ってくる。でも俺はそんな話題で笑えるはずは無い。
「悪い・・・俺、保健室行って来る。」
そう言って、俺は教室から逃げ出した。
俺って今までこんな奴らと一緒にいたのか・・・。
そう思い、今まで自分のしてきた事を反省した。
保健室に行くというのは当然嘘で、俺は今彼女のいる図書室に向かっている。今まで自分のしてきた事・・・ いじめから守ってやれなかった事を謝らなきゃいけないと思ったからだ。
図書室のドアを開け、彼女の姿を探す。
「・・・小野寺さん。」
俺が声を掛けると、彼女はぴくっと反応し、振り返った。
「あ、川上君・・・・。あ、朝はごめんね。なんかカッコ悪いとこ見せちゃって・・・・。」
落ち込んだ様子も無く、元気そうに彼女はそう言った。
「いや・・・あれは小野寺さんが悪いわけじゃないだろ?」
俺がそう言うと、彼女は微笑んで俺の顔を見つめた。
「いい人だね・・・川上君は。・・・あ、お昼ご飯まだ食べてないよね?良かったら・・・もし良かったら、一緒に食べない?」
違う、俺はいい人なんかじゃない・・・俺はただの偽善者。
そう思いながらも声に出せず、俺は頷いた。
「・・・いつもお弁当は美鈴ちゃんが作ってくれてるんだよね?」
嬉しそうに彼女はそう尋ねてくる。
「何で知ってんの?」
「・・・美鈴ちゃんから川上君の話とか、たくさん聞いてるから。」
ニコニコ笑ってそう言う。俺はそんな彼女の顔を見て微笑んだ。
「いいよね・・・女の子と一つ屋根の下で暮らすって・・・なんだか本の中の世界みたい・・・・。」
彼女はうらやましそうに微笑んだ。俺はそんな彼女の憧れを否定する。
「あのさぁ・・・美鈴はただのいとこで別になんとも思ってないし。それにアイツの妹はうるさいし・・・」
そんなことをぶつぶつ呟きながら、俺は弁当のふたを取る。
「え?何これ・・・?」
そこに入っていたのは『お弁当は委員長のわけてもらって食べなさい。では色々とガンバレ♪ 美鈴』と書かれたメモ紙が一枚。
「美鈴・・・頑張るって何をだよ・・・・。」
「美鈴ちゃんもイジワルだねぇ・・・・ほら、私のお弁当あげるから元気出して・・・ね?」
苦笑いを浮かべ、彼女は俺に弁当を渡した。
「あ・・・ありがとう。」
そうして俺は当初の目的を忘れ、楽しく小野寺さんと昼食を取るのだった・・・。




