表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナチュラル  作者: 犬兎
39/45

第六話 麻衣、勝ち残り大作戦! ⑤



 その後も色々悪戦苦闘しながら、ようやく問題集の一ページ目を終えた頃にはもう時刻は十一時を回っていた。『フェアリーサークル』を出て、由真君と別れる。そして井上さんと一緒にバス停のとこまで来たとき、私は衝撃的なことを知る事になる。


「・・・もうバス無いし・・・・。」


 私はバス停の前で途方にくれる。祐一の家はここから歩いて二時間くらいの所にある。今から徒歩で帰るのも厳しいものがあるし、大体、夜道を女の子一人で歩くのは危険だ。


「どうしよう、井上さん。」


 そう言って井上さんを見つめる。


「・・・そんな捨てられた子猫のような目で私を見るな。私の家はペット禁止だ。」


「・・・ペットじゃないよ。」


 当然しっぽも無ければ、首輪も無い。でも、井上さんは拒否した。


「だから、無理だって。」


「う~そんなぁ・・・。」


 仕方なく井上さんと別れて私はその辺をぶらぶらと歩いた。しばらくしてあることを思い出す。


「・・・そうだ、由真君の家に行こう。」


 考えついた答えはあまりにも簡単なものだった。走ってさっき来た道を戻り、由真君に追いつく。


「由真君!」


 後ろから大きな声で名前を呼んだ。それを聞いて、由真君は後ろを振り返る。


「麻衣?どうした?」


「今日、由真君の家に泊まっていいかな?」


「そりゃいいけど。・・・何で?」


 ここはなんて言えばいいんだろうか?正直にバスが無いって言えばいいのかな?それとも敢えてはぐらかしたほうが可愛いのかな?


「・・・いいじゃない、なんか急に泊まりたくなったの。」


 後者を選択した。・・・由真君はなんか照れてるようだ。


「いいのか?祐一が心配するだろ?」


 そう言っていたけど、私は敢えて答えなかった。

 由真君の家に着く。ここに来るのはなんか久しぶりだ。


「こうやって由真君と二人で帰ってくるのって初めて。」


「そうだっけ?」


「うん、いつもは美鈴ちゃんとかいるし・・・。」


 恥ずかしげに言う私。


「ああ、そうだ。今日は美鈴は家にいないからな。」


 思い出したかのようにさらりと問題発言をする由真君。


「じゃ、じゃあ、さやかさんは?」


「いない。二人で出かけるから留守を頼むって今日置き手紙が会ったし。」


 そう言われて、私は今日の朝の会話を思い出した。


『じゃあ、今日は頑張ってね』


『何を?』


『い・ろ・い・ろ・と。じゃあね~』


『何のことだろう?』


 これのことだったのか、と今更気付く。今までの変な展開は全てこれのためだったのか?とようやく理解した。


「ん?何やってんの麻衣?」


「う、ううん。何でも、何でもないよ。」


 様々な思いを乗せて、川上家の玄関のドアが開いた。今までこんなことなかったのに・・・。ついこの間まで普通に出入りしていた家なのに、何だか今までとは全く違うものに見えた。

・・・間が持たない。リビングで由真君と二人きり。まだ家に来てから二分ぐらいしか経ってないのに、もう私には五時間くらいに感じる。


「麻衣、何で小刻みに震えてんの?」


「し、知らないっ!」


 極度の緊張による手の震え。まるで変な薬をしてる人みたいだ。


「・・・そんな薬とかじゃないからね。」


「はい?」


 緊張の余り場違いなことを言ってしまった。私の顔がかあ~っと熱くなるのを感じる。これ以上ここにいたらなんか変なことになりそうだ。そう思い、あることを思い出す。


「あっ、お風呂・・・。」


「ん?」


「お風呂、入ってないや。」


 間を持たせようと苦しい会話をする。・・・選択ミスだった。それを聞いて由真君の顔まで赤くなった。


「あ、ああ・・・そうだったね。入ってきたら?」


「うん、じゃあお先に・・・。」


 そう言って、その場を離れた。・・・何とかなった、と心の中でほっと息をついた。


「・・・由真君も男の子だし・・・やっぱり、何も無いってわけにはいかないのかな?」


 入浴中、急にそんなことが心配になる。そんなことを悶々と考えているうちに、私はある雑誌のことを思い出す。『高校生アンケート!付き合い始めて何ヶ月でする?』そんな内容の他愛も無いアンケートだ。でも、私はそれの内容を真剣に思い出す。


「確か・・・『二ヶ月~三ヶ月が七十五パーセントで、一ヶ月以内は十五パーセント、それ以上は十パーセント』だっけ・・・。」


 その後、由真君と仲良くなった日を思い出す。


「えっと・・・確かあの日は新学期始まってすぐ、九月の始まりくらいで・・・今日は十月十七日だから・・・。」


 十五パーセント。それが答えだった。決して高いものではない。でも低いものと言い切れるものでもない。


「・・・大丈夫、由真君は結構紳士だった・・・。」


 そんなことを言って、気持ちを落ち着かせた。

 時刻は深夜一時。お風呂上りの由真君とまた二人きり、私たちは先ほどの世界史の続きをやっていた。


「・・・ふぁ~。」


「麻衣、眠いの?」


「え?ううん、そんな事無いよ?」


 私は由真君より先に眠るわけにはいかなかった。由真君を信用してないわけじゃないけど、万が一があるかもしれないからだ。


「まぁ、明日は学校無いしいいけどさ。」


「そういうこと、じゃあ続き。」


 そう言って、次の問題をやらせる。


「あのさ、麻衣?」


「ん?なに?」


「今更だけど・・・二人きりなんだよな?」


「うん。」


「・・・・・・。」


 由真君の様子がおかしい。・・・まさかこれは・・・。そう思い先制攻撃を仕掛ける。


「由真君、私と由真君って・・・一体どんな関係なのかな?」


 これでもし、由真君が『恋人』と答えてくれるなら・・・私は・・・・そう思いそう訊ねた。


「・・・・どんな関係って・・・。」


 ごくり、と唾を飲み込む。


「・・・・家族、じゃないのか?」


「はい?」


 私は変な声で聞き返していた。


「家族。ほら、この家に住む人は皆、俺の家族だから。」


 一瞬、何処かの芸人のようにずっこけそうになった。でも何とか持ち直す。


「・・・・・ああ、そうか。そうだったね。」


 嬉しいような、悲しいような変な気持ちになる。気がつけば涙目になっていた。


「麻衣、どうした?どっか痛いのか?」


「ちが・・・これは・・・・嬉し涙だよ。」


 私にもよく分からなかった。これは一体どんな気持ちで流した涙なんだろうか?


「きっと・・・由真君のおかげだよ。」


「???」


「私がこんなに嬉しいのも、悲しいのも。」


 由真君は私の言っていることが理解できてないのか、首をかしげていた。


「いいんだよ、由真君はわかんなくて」


 私はそのまま由真君に抱きついた。強く、強く由真君のことを抱き締めた。


「麻衣、昨日も同じこと言ったけど・・・・。」


「ごめん由真君、今日も手遅れ。」


 当然、その後由真君に散々叱られた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ