第六話 麻衣、勝ち残り大作戦! ④
「そういえば、再来週は期末テストだったっけ?」
「うん?そうだけど。どうして?」
プールで昨日と同じようにバタ足の練習をしながら私たちはそんなことを話している。
「いや、全く勉強してないからさ・・・留年するかも。」
「え~!何でそんななの?」
「俺は勉強しない派だからな。」
「それってただのサボり癖・・・わぷっ!」
いたい所をつこうとしたら手を離された。当然、沈んでしまう。
「鼻に水が・・・・。」
「悪い、わざとだ。」
頬を膨らませて、拗ねる私。
「ごめん。後でパフェ奢るから。」
「・・・わかった。じゃあ、練習の後は私が勉強教えてあげる。」
「それは断る。」
即答だった。恐らく一秒も無かっただろう。
「・・・・てりゃ!」
素早く由真君の後ろに回り、首を絞めた。そしてそのまま水に沈めようとする。
「・・・・止めろ!溺れるって!」
「せっかく私が練習のお礼をするって言ってるんだから素直に受け取ってくれないのかな・・・・?」
「分かった!ありがとう小野寺麻衣様!・・・うわっ!」
ふたり同時に倒れる。由真君はすぐに起き上がったようだけど、私はそんなすぐには立ち上がれない。溺れる、そう思ったとき私の体がひょいと持ち上げられた。
「・・・お前ら、何やってるんだ?」
溺れかけた私をその声の主が助けてくれたのだ。
「・・・・井上、お前水泳部だったの?」
そこにいたのは井上さん。私と同じ水着姿だった。もう時刻は四時を回っていて、水泳部の生徒がもう数人入ってきていた。
「そうだよ、お前らに知れるのは恥ずかしいから教えてなかったけどな・・・。」
顔を赤くして、恥ずかしげにそう言う。
「そうなんだ・・・じゃあまた明日・・・。」
私は部活の練習を邪魔するのはあれなのでさっさと出て行くことにする。
「待てって。私が教えてやらなくもないぞ。」
井上さんはそう言いながら、私の首を掴んだ。
「井上さんが?・・・だってこの前やだって・・・。」
「そりゃあ、お前と一緒にいたらあれだから・・・。」
「あれって?」
井上さんが首を横に振る。それ以上詮索するな、と言いたいのだろう。それを理解し、私は笑顔で答えた。
「・・・じゃあ、よろしくお願いします!」
そうして、井上さんと由真君の二人による水泳指導が始まった。
・・・五分後。
「・・・はぁ~さすが麻衣。まさかここまで下手くそとは・・・。」
「・・・井上さん、酷いよ・・・・。」
そう言いながらも井上さんはちゃんと最後まで練習に付き合ってくれた。やっぱいい人だ。
練習の後は『フェアリーサークル』で由真君と井上さんにテスト勉強をさせる。
「なんで、私まで・・・。」
「この間のテスト、追試だったでしょ?それのための勉強。」
井上さんがやる気無さげにシャーペンを指で回している。それに引き換え由真君は真剣そのものだった。
「麻衣、この問題は?」
「ああ、これ?これは・・・・って、何でクロスワードパズルやってるの!?テスト勉強は?」
・・・前言撤回、やっぱり由真君は由真君だった。
「いやいや、めんどいじゃん?」
「めんどいとかめんどくないとかそういう問題じゃないの!」
「じゃあこっちの問題は?」
「えっとね、これは享保の改革で・・・こっちはサンフランシスコ平和条約で・・・って、『日本史クロスワードパズル』もダメ!テストは世界史!」
「ははは、楽しそうだな、由真。」
由真君のおじさんが笑いながらそう言ってくる。
「笑い事じゃないんです。進級がかかったテストなのに・・・。」
「美鈴はけちだから教えてくれないしな~。」
そう独り言をつぶやきつつ、由真君はようやく世界史のテキストを取り出した。
「麻衣、全然読めないんだけど。」
「・・・そりゃそうでしょ。教科書が逆さまだもの。」
呆れてものも言えないや・・・。この人はどうやって高校に入学したのだろう?
「麻衣。ここ分かるか?」
井上さんが聞いてきたので、私はそっちに向かう。
「えっと・・・こっちはあの鐘を鳴らすのはあなたで、こっちは上を向いて歩こう・・・でこっちは・・・・って『往年の名曲クロスワードパズル』をするな!」




