第六話 麻衣、勝ち残り大作戦! ③
帰宅すると、まだ祐一は帰っていなかった。バイトがあったのだろうか?しかたなく一人で夕食を済ませて私は部屋に入った。
「はぁ・・・こんなんで本当大丈夫なのかなぁ・・・。」
ベッドに横になって、英語のテキストを適当に読む。しばらくしてドアの方でノックの音がした。
「祐一、何?」
「いや、別になんでもないけど?」
やけに変な雰囲気で祐一が部屋に入ってきた。
「・・・お酒飲んでない?」
私が訊ねると、指で『このくらい』的なサインを出す。当然私は怒った。
「未成年がお酒飲んじゃダメだよ!」
「まあまあ・・・それより、由真さんとはどうなったんだ?」
強引に話を切り替える祐一。
「・・・祐一には関係ないでしょ?」
ふてぶてしくそう言うと、祐一が反省したような態度を取る。
「あ~麻衣姉、悪かったって。」
「・・・教えないっ!私にだってプライバシーがあるしね。」
ぷいっと後ろを向く。それを見て祐一が微笑んだ。
「麻衣姉は由真さんと一緒にいて変わったよな。」
「えっ?」
「なんか、前より綺麗になった。」
そう言われて、さっきの熱がまだ抜けない顔がさらに熱くなった。
「そ、そうかな・・・。」
「今までは誰も手を出せない高嶺の花って感じだったのに・・・ほら・・・。」
私の頬に手を当てる祐一。
「今なら、俺でも麻衣姉に触れられる。」
「あう・・・・。」
私も急に触れられたので変な声が出てしまった。
「麻衣姉・・・・目、閉じて。」
「ん・・・・。」
言われるがままに目を閉じた。コレってまさか・・・。いやな予感が頭を過ぎる。しかし、私の予感は大きく外れ、何かが額にぶつかる感覚がして目を開けた。
「祐一、何してるの?」
「いや、○ート君の刑に。」
そう言われ、私は学校祭の悪夢がよみがえった。すぐに鏡を確認する。しかし、額には何もなかった。
「ゆ~う~い~ち~!」
「あ、やばい。麻衣姉、怒った?」
「お姉ちゃんを馬鹿にするな~!」
しばらくして、祐一が動かなくなった。
その後、お風呂に入り、私は居間でくつろいでいた。すぐ横で、祐一が寝床の準備(元祐一の部屋のベッドは私が取ってしまったので、祐一は居間に布団を敷いて寝ている)をしている。
「麻衣姉、今日は眠いんじゃなかったの?」
「え?何で?」
「だって、由真さんと一緒にプールだったって美鈴先輩が・・・。」
そう言って、ケータイを見せる。私がお風呂に入っているときにそんな連絡をしていたのだ。
「明日もやるんでしょ?いいねぇ楽しそうで」
「祐一~・・・お酒飲むとなんかキャラ違くない?」
「気にしない、気にしない。疲れただろ?マッサージでもしようか?」
ああ、自分がハミられたから拗ねてる・・・。と心の中で思いつつ、私は祐一の憎しみのたっぷりこもったマッサージを受けた。
「そういえば麻衣姉はくすぐり、弱かったよな。」
「えっ・・・やだよ・・・・止めてよ。」
「こちょこちょ~。」
「にゃはははは・・・止めて~!」
足をじたばたさせる。でも祐一は止めなかった。
「こちょこちょこちょ~っと・・・。」
「にゃはははははは・・・死ぬ、死んじゃう~!」
そんな感じで私たちの夜は更けていくのだった・・・。
「腹筋、痛い・・・・・。」
笑いすぎで筋肉痛になった。犯人である祐一は朝練があるからと私の復讐より先に出かけてしまった。そんなわけで私はいつものように学校へ向かう。
「はぁ・・・・どうしよう。今日は流石にやばいかも・・・。」
「お疲れモードの麻衣、はっけ~ん!」
後ろから美鈴ちゃんの元気な声。振り返ると美鈴ちゃんとさやかさんがいた。
「二人とも、おはよう。」
「おはようございます、先輩!昨日はお疲れ様でした。」
さやかさんも昨日のことを知っていた。当然言いふらすのは一人だけ。私は犯人に怒りの矛先を向けた。
「美鈴ちゃん!」
「わわっ!麻衣が怒った。」
「もう!ホントに恥ずかしい思いしたんだからね!」
「な、なんのこと?」
ぽかぽかと美鈴ちゃんを殴る私。それをカバンでガードする美鈴ちゃん。
「祐一に密告したでしょ?それのせいで、酷い目にあったんだから!」
「あはは、ごめんね」
美鈴ちゃんは手を合わせて謝る。でも、全く反省の色が見えなかった。
「もう、完全に怒ったんだからね!」
「ごめんごめん。今度、パフェ奢るから許して、ね?」
怒りの感情が一瞬揺らめいたが私はそれを理性でカバーする。
「もう、そんなんじゃ許さないんだからね」
「顔に出てる。」
私の顔は想像以上ににやけていた・・・。
学校の校門の近くまで来た時、不意に美鈴ちゃんがこんなことを言った。
「それじゃあ、今日は頑張ってね」
「何を?」
「い・ろ・い・ろ・と。じゃあね~」
そう言って美鈴ちゃんは先に行ってしまう。
「何のことだろう・・・わかる?さやかさん。」
「さぁ・・・でもお姉ちゃんの考えることだし・・・用心するに越したことは無いですよ。」
「そうだね・・・。」
授業中はずっと腹筋が痛かった。祐一へのリベンジを心に誓いながら、机に適当な落書きとかをしてみる。
「じゃあ、小野寺。問一の答えは?」
「は、はい!」
数学教師、木田先生。通称鬼の木田に指名される。今まで名前だけの存在だった人が今回はどんどん登場するなぁ・・・と心の中で思いつつ、問題に答えた。
「そうだな、この問題の場合は・・・」
正解していたようだった。ちょっとほっとしつつ後ろのほうを見た。
「・・・・ゆ、由真君・・・。」
「・・・ZZZ・・・。」
由真君は全力で寝ていた。・・・コレはやばいのでは?
「じゃあ、次の問題は川上。」
「・・・ZZZ・・・・・。」
「・・・由真君、起きなよ。」
しかし、由真君は起きなかった。そして木田先生に思い切り机を蹴られる。
「おい、今は何の時間だ?」
「皆の楽しい数学の時間です。」
「そうだな。じゃあ後で先生と一緒に楽しく反省しような?」
・・・当然、その後生徒指導室に監禁させられ、『楽しい教育的指導』を受ける羽目になってしまったとさ。
放課後、私は掃除当番。由真君もさっきの授業の罰として一緒に掃除当番をしている。
「ああ、もう・・・。麻衣も起こしてくれよ・・・。」
「起こしたよ~。でも起きなかったじゃない。」
呆れ顔で机を運ぶ私。由真君もそれを手伝ってくれた。
「あれ・・・麻衣の机、何か書いてある・・・。」
数学の授業の時に書いた落書きだ。
「なになに・・・『いつか殺してやる』・・・麻衣?」
「あ、それ無し!見なかったことにして!」
そう言って、ほうきを手渡す。由真君はそれを受け取った。
「この後、また練習すんの?」
「うん、付き合ってくれるかな?」
そう言うと、由真君は机のイラストから私のほうへ目を向けた。
「いいよ。どうせ暇だし。」
にっこり笑って、そう言った。私にはその笑顔の理由が分からなかったけど、なんだか嬉しくなった。




