第六話 麻衣、勝ち残り大作戦! ①
夢を見ている。私は上から過去の光景を見つめていた。
「麻衣!危ない!」
女の人が小さな女の子を突き飛ばす。私はその女性の方へ手を伸ばす、でも触れることは出来なかった。そうしているうちに、女性は車にぶつかった・・・。
「・・・お母さん?」
その子はそう呟き、女性の方へ駆け寄った。
「お母さん?・・・お母さん!」
女性の体を揺さぶる。でもその人は目を開けなかった。
「・・・・お母・・・さん。」
その子はその場に蹲ってそのまま泣いた。私はそれを見続けていた。
「・・・・・お母さん、ごめんね・・・。」
女の子が足元で泣いている。私はその場で小さく呟いた。
――時は流れ、高校二年の十月になる・・・。
私はいつものように目を覚ました。時刻は七時。部屋のカーテンを開け、うん、と伸びをする。
「はあ~今日もいい天気・・・・・じゃないね。」
今朝は曇りだった。
「麻衣姉、起きた?」
祐一が部屋に入ってくる。私は驚いて変な叫び声を上げ、後ろを振り返った。
「ノックしてよ・・・もう・・・。」
朝食を済ませ、学校へ向かう。
「麻衣姉、そういえばこの間の水泳・・・どうなった?」
突然、祐一はそんなことを聞いてくる。
私たちの通う学校には水泳競技用の温水のプールがある。そこで九月から十月にかけて体育の授業で水泳がある。私はそれが大の苦手だった。
「ああ、あれね・・・実はそれなんだけど・・・・・。」
「麻衣~♪」
後ろから、大きな声が聞こえた。振り返るとそこにいたのは美鈴ちゃんだった。
「美鈴ちゃん、おはよう。」
「おはよう、祐一君もおはよう!」
美鈴ちゃんが手を大きく振って、私たちに追いつく。
「由真君がさやかと一緒に先に行っちゃうんだもの。私、ほったらかしで・・・・。」
「相変わらずなんだね、由真君。」
「あれには困るよ。全く・・・。」
「・・・・水泳の話は・・・・?」
祐一が小さく呟いた。しかし、私たちには聞こえない。
学校に到着する。今日は遅刻じゃなかった。
「由真君、おはよう。」
「ああ、おはよう。」
由真君と挨拶し、自分の席に着く。そして、教室の中を眺めた。窓際の棚には学校祭の優勝トロフィーが飾られている。
「おっはよ~委員長!」
生徒の一人が私に挨拶した。私はそれに軽く一礼する。
学校祭の後、少しずつ皆の態度か変化していったような気がする。それも井上さんや美鈴ちゃんの協力があってのことだと思うけど、私はそれでも嬉しかった。
「・・・・少しずつ変わっていった・・・・これも皆・・・。」
「俺のおかげだろ?」
「うんうん・・・って由真君!今の聞いてた?」
「ああ、『学校祭の後、』ぐらいから聞いてた。」
「一部始終じゃない!・・・もう、いつから日本は独り言も満足に言えない社会になったの・・・?」
「麻衣の生まれる前だろうな。」
そう言われて、私はなんだか気分が悪くなる。
「もう、気持ちのいい朝が台無しだよ・・・。」
「どうせすぐに台無しになるだろ?・・・昨日、美鈴に聞いたぞ?」
「ふぇ・・・?」
私が頭に疑問符を浮かべたとき、始業のチャイムがなる。
「はいはい、HR始めるぞ~!」
今村先生が入ってきた。
「おお、今まで名前だけの人がついに登場したぞ。」
「由真!何言ってんだ!・・・早く席につけ。」
「はいはい・・・。」
そうして今日も一日が始まった。




