第五話 美鈴、学祭の夜に ⑥
朝になる。私は夜明け前に由真君の部屋に忍び込んでいた。
「ありがとう・・・・由真君。」
そう呟いて頬にキスをする。そして私はすぐに一階に下りて、朝食の支度をする。
「これでいいんだよね?悪魔さん。」
そう言って、悪魔さんに確認を取る。うんうんと頷いていた。
・・・二時間半後。
「美鈴!何だこれは!?」
「あは、男前になったね♪」
由真君が起きてきた、おでこには先ほど私が書いた『にく』の文字がしっかりと書いてある。ただでは終わらないのが私なのだ。
「しかも油性で書いたな?落ちないし~。」
私は思わず笑顔になる。あれを見てもいつもと変わらず接してくれる由真君が私にとってとても暖かだった。
「いいじゃない?かっこいいよ♪」
「やだ!・・・こうなったら道連れだ・・・・美鈴!お前にも書いてやる!」
「えっ?コラ!ちょっと止めてよ~。」
そうして私たちは学際二日目をミー○君コンビですごす羽目となった・・・。
学校の中はいつもとはまるで違う空間になっている。私はこういう雰囲気が大好きだ。わくわくしながら歩き回る。・・・いろいろな人からのおでこへの視線は痛いけど・・・。
「うわっ!美鈴先輩。何ですかそのおでこ?」
「どうもどうも。来てみましたよ~」
「いや、それよりもその・・・まあ、いいか。」
ここは祐一君のクラスの展示『世界の駄菓子博物館』だ。個人的に気になっていたので祐一君に挨拶がてら来てみたのだ。
「あれ?美鈴先輩?・・・何そのおでこの・・・・?」
「細かいところは気にしない、気にしない」
都さんとの挨拶は適当にして、私は適当にその辺を見て回る。
「ふむ・・・フランス産の駄菓子はすごいなぁ・・・。」
「あ、あの・・・美鈴先輩?昨日のどうでした?」
後ろから祐一君がそんなことを聞いてくる。・・・今時、こんな野暮な人がいるとは・・・。
「このおでこで気付いてくれないかな~?」
「・・・・なるほど・・・そのおでこにはそんな意味が・・・。」
そういうことは察しが早いのか・・・。相変わらず祐一くんは不思議な人だ。
「じゃあ・・・・いざというときの保険・・・使ってみませんか?」
一瞬、時が止まる。
「・・・・はい?」
二、三秒黙った後、私は聞き返した。
「美鈴先輩・・・俺は・・・・ふぇあ!」
私はすぐに祐一君の口に指を入れて、横に引っ張った。
「ほれほれ、学級文庫言ってみ?学級文庫。」
「あ!ゆうに何してるんですか!?」
都さんがすぐに気付いてそれを止めさせる。
「美鈴先輩・・・。」
「それが答え。お姉さんを攻略するにはまだレベルが足りないよ」
そう言って、私はすぐにその場から離れた。
「祐一君は優しいし、由真君もいい人だし、麻衣はいいよねえ・・・。」
「な、何を突然言うのかと思ったら・・・そんな話なの?」
学校祭だというのにいつものように図書室にいた麻衣を見つけ、話し相手にする私。
「私は何かもう要らないのかなって・・・思えてくるよ。」
「そんな事無いよ?美鈴ちゃんは私の一番の親友だし・・・それに・・・・。」
「それに?」
「いじめられてる時、最初に助けてくれたのは美鈴ちゃんだもん。一番感謝してるんだよ?」
麻衣のその屈託の無い笑顔に私はかぁ~っと頬を赤らめた。
「あ、そ、そうかな・・・。」
頬を押さえ、全身で恥ずかしがる私。
「そうだよ。美鈴ちゃんとはいつまでも仲良くしていたいな。」
そう言う麻衣はもう抱きしめたいくらい可愛かった。
「ところでそのおでこには何か意味があるの?」
「・・・聞かないで・・・悲しくなるから。」
そう言って、それ以上の追求は止めさせた。
「お姉ちゃんはちょっと図々しいくらいでちょうどいいんだよ。」
「そうなのかな?」
今度はさやかの教室でコーヒーを飲んでいる。
「ところでさ・・・この趣向はお姉さん、いかがなものかと思うんだけど?」
『お帰りなさいませ!日本男児!』
後ろの方から応援団のような声が聞こえてきた。なんでもさやかが言うには『漢のメイド喫茶』というもので、日本男児のあるべき姿を見せ付けるものらしい。当然、女子入場不可だけど私はさやかの姉ということと、おでこに免じて入場を許可された。
「すごいよね、最初は本当にやるのか?って感じだったのに。」
「・・・・世も末だね。」
『お帰りなさいませ!日本男児!』
「ところでお姉ちゃん、ホントにおじさん帰っちゃうの?」
突然話題を変えるさやか。私はこくりと頷いた。
「そっかぁ・・・楽しかったのになぁ・・・・。」
「仕方ないでしょ?由真君があれじゃね・・・。」
「ホントだよ・・・。」
『いってらっしゃいませ!日本男児!』
「どうにかしてあげたいけどなぁ・・・。」
「どうにもならないんじゃないかなぁ・・・。大体こういうのは・・・・」
『女子は帰れ!この野郎!!』
「さやか・・・ちょっと場所変えようか?」
「え?うん・・・いいけど?どうしたの?」
「うざい・・・。この大和魂集団。」
場所を変えて、先ほどの話を続ける。
「大体こういうのは由真君の問題であって、私たちにどうにかできる問題じゃないんだよ。」
「そうだよねぇ・・・・でも、このままじゃあんまりだよ。」
するとその時、大和魂の瘴気にやられてボロボロになっていた悪魔さんが私に指令を送った。
「・・・・・ふむ、なるほど・・・。」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「いや、いい手を思いついたんだ」
「???」
首を傾げるさやかを不敵な笑みで見つめる悪魔さん。それを見ながら私はそれ以上に不敵な笑みを浮かべていた。
「あ、そういえばお姉ちゃん。そのおでこどうしたの?」
「やっぱり聞くんだね・・・。」




