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ナチュラル  作者: 犬兎
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第五話 美鈴、学祭の夜に ②



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「・・・この町に来たのは観光か何かですか?」


「・・・・いや、違う。俺は・・・親友を探しているんだ。」


「親友を?」


「ああ、十年も前にこの町で出会った俺の親友に会うためにこの町に来た。」


「そうなんですか・・・・。その人のお名前は?」


「分からない。けど、」


 そう言って一つのビーダマを取り出した。


「これと同じものを、持っているはずなんだ・・・・。」


「綺麗・・・・。」


「知らないか?」


「・・・ごめんなさい。分からないです。」


「そうか、すまない。」


 彼はその場を立ち去ろうとする、しかしすぐに倒れる。


「・・・どうしたんですか?」


「はら・・・減った・・・・。」


「ははは・・・。」


 彼女は愛想笑いをし、すぐに走り出す。


「何か食べるもの、持ってきますね~!」


「・・・・はぁ、なさけない。まさか見ず知らずの女の子に助けられるなんて。・・・・でも、もうこの旅も終わる。この町で、アイツに会えたら・・・・。」


「まだ生きてますか~。」


「ああ、何とか生きてるぞ。」


 彼は手を振り回して生きていることをアピールする。


「よかった・・・買って来る間に干からびてたらどうしようと思った。」


「大丈夫だ。人間はそんな簡単に死なない。」


 そう言って彼女が買って来たコンビニのパンを食べる。


「・・・親友を探して。ぶらり一人旅ですか・・・いいなぁ。」


「なんだよ、そんなに楽なものじゃないぞ。今みたいにあんたみたいな親切な人がいなかったら死んでしまうときもある。」


「それは計画性の無い証拠ですよ。普通は行き倒れたりしないです。」


「きっついな・・・ははは。」


 彼女はにこっと微笑む。


「そういえば、名前まだ聞いてませんでしたね。」


「ああ、そうだな。・・・俺は九十九(つくも)。」


「九十九さん・・・・私は一ノ瀬詩織・・・詩織って呼んでほしいな。」


「・・・・機会があればな。」


「うん。」


 そうこうしているうちに夕方になる。


「あっ・・・もう帰らないと・・・・。」


「悪いな、世話になった。」


「いいんですよ。・・・楽しかったです。本当に。」


「ああ・・・・?俺もだ。」


「じゃあ、また。」


「ああ、またな。」


 そう言って、詩織はその場を立ち去った。


「・・・・さて、どこに行くかな・・・・。」


 九十九もそこを離れる。


 場面が変わり、今度は夜の公園。九十九は舞台の真ん中に座っている。


「はぁ・・・・今日はここで野宿か・・・・。」


「・・・こんばんは。」


 そう言って後ろから現れたのは先ほどの少女。


「・・・・またあんたか。」


「泊まるとこないんですか?・・・良かったらうち・・・」


「いやいや、そこまで世話になるわけにはいかないよ。」


「そうですか?」


「・・・ここで何してるんだ?」


「ああ、ちょっと人を待ってるんですよ。」


「お前のこれか?」


 そう言って九十九は親指を立てる。


「違いますよ。こっちです。」


 詩織は小指を立てた。


「詩織~」


 その人の呼ぶ声がした。


「あっ!夕菜来た・・・。じゃあ九十九さん、私これで。」


「ああ。・・・・・・さてと、寝るかな。」


 九十九はその場に横になった。

 次の日、その町の商店街で九十九は親友を探した。しかし、それらしい人は見つからなかった。途方にくれ、彼は公園のベンチで昼寝をすることにした。


「起きてますかぁ!」


 突然耳元で叫ばれて、九十九は飛び起きる。


「し~お~り~!お前は何をするんじゃあ!」


「わわっ・・・ごめんなさい。もう死んじゃってるかなあって思ったんで・・・・。」


「まったく・・・このとおり生きてるぞ。」


「・・・こんにちはっ」


 詩織の隣にいた女の子が小さくお辞儀する。


「ああ、こんにちは。」


「・・・・あの、私の友人の佐々木夕菜です。」


「どうも、実は私、九十九さんの持ってるビーダマを見せてもらおうかと思って来たんです。」


「ああ、これか。」


 九十九がビーダマを取り出す。


「やっぱり・・・これって・・・・。」


「知ってるのか!?」


「えっ・・・・・?あ、し、知らないです。お役に立てなくて・・・ごめんなさい。」


「・・・・いや、いいんだ。」


 九十九はがっくりと肩を落とす。


「・・・あの、じゃあ・・・私たちと一緒にその人探しませんか?」


 詩織が人差し指をつき合わせながら言う。九十九は彼女の手を握った。


「本当か?本当に手伝ってくれるのか?」


「一人より三人で探しほうがいいし・・・ね、夕菜。」


「うん、じゃあ手分けして町中探しましょう!」


 三人が別れた。・・・・そして夕方になり皆が公園に帰ってくる。


「・・・駄目でした。」


「いないもんだね・・・・。」


「まぁ、気にすんな。ほら、もう十年も経ってるし、もうこの町にいないのかも。」


「いいえ、この町にいると思います!」


 夕菜が強くそう言った。二人は驚いてそれを見つめた。


「何でそんなことが分かるんだ?」


「・・・・・そんな気が、したんです。」


「ふうん・・・・。」



「もう夜になるし、今日はこれぐらいにしようか。」


 そう言って二人は帰った。


「あの子・・・本当はあいつの事、知ってるんじゃ・・・・?」


 九十九は走って彼女を追いかけた。

 場面は最初の道に戻る。九十九はそこで夕菜に追いつき、引き止める。


「夕菜さん!」


「・・・・九十九さん。一体どうしたの?」


「・・・・・本当はあいつの事、知ってるんじゃないのか?」


「・・・・いえ、知らないです。」


「嘘つくな!・・・本当の事、言ってくれ。」


「あのビーダマと同じ物を持っている人は・・・知ってる。けど、会わないほうがいい。」


「何でだよ?」


「・・・・・その人・・・もう死んじゃうから。」


「えっ?」


「この夏が終わる前に、その人は死んでしまう。本人はそのことをまだ知らないけど・・・いつか・・・・。」


「そっか・・・。」


「九十九さん・・・これだけ、思い出してくれないかな。」


「ん?」


「その子は、貴方にとってなんだったんですか?」


「・・・友達?だと思う・・・。」


「・・・・・・そうですか。なら・・・・大丈夫です。」


 それだけ聞いて、彼女はその場を離れる。

 そして舞台は次の日に移る。道端で暇そうにしている九十九のところに詩織がやってきた。


「こんにちは。」


「ああ、どうも・・・。」


「ビーダマの人、見つかりましたか?」


「いや・・・・。まだだ。」


「じゃあ、今日も手伝いますよ。」


「悪いな。俺のことで貴重な夏休み使わせて・・・。」


「いいんです。夕菜は今日、補習でいないんでちょうど暇だったんです。」


「そっか・・・・。じゃあ、商店街の方へ行こう。」


「はい!」


 二人は商店街の方へ向かう。・・・何人かの人にその人のことを尋ねるが誰もその人の事は知らなかった。・・・落ち込む九十九に詩織が駆け寄ってくる。


「ほら、九十九さん。元気出してこうよ」


「・・・・もう無理・・・どうせこの町にいないんだって。」


 九十九はその場に座る。


「十年後にここで待ってるって・・・約束したんだ・・・・でもあいつはもうそんな事、忘れたんだろうさ・・・。」


「そんな事無いって、その人は絶対覚えてるって・・・だからもうちょっと頑張ろうよ。」


「・・・・・分かった。もう少しだけな。」


 そう言って二人はまた歩き出した。

 夜になり、九十九は一人で商店街に戻ってくる。そこで夕菜に会った。


「やあ、九十九さん。元気?」


「・・・・昨日の話のことで、お前に聞きたい事がある。」


「・・・何ですか?」


「あいつはもう、助からないのか?」


「・・・・その人の病気はもう治らない。脳の病気だから。」


「・・・・・・・・。」


「記憶がどんどん欠けていってしまうの、その子は・・・・最近は記憶を無くすペースが遅くなってるみたいだけど・・・それも一時的なこと、いずれ全てを忘れ、物言わぬ人形になる。」


「・・・・・それって・・・。」


「一時的に無くした記憶をまるで思い出したかのように別の記憶で塗り替えてしまう。だから本人は病気じゃなくてただ自分が忘れっぽいだけだって・・・勘違いしてしまう。だからその人はまだ自分が病気だってことに気がついていないの。」


「・・・・だから。もう俺のことを忘れているのか?」


「・・・・・・恐らくは。だから、もうその人のことを探すのは止めてあげて・・・・もしも、会えたとしても。辛いだけだから。」


 夕菜は走って何処かへ行ってしまった。


「・・・・・俺は・・・・どうしたら・・・・。」


「・・・・・・・。」


 悩む九十九の前をパジャマ姿の詩織が通り過ぎた。


「あれ?・・・・詩織・・・・。」


「・・・・。」


「無視すんなよ。そんな格好でどこ行くんだ?」


「・・・・・・・・。」


「詩織・・・・?」


「詩織!詩織!どこ!?」


 詩織を探す夕菜の声・・・彼女は詩織を発見して近づいて来た。


「詩織!もう、ここにいたの?探したんだよ?」


「・・・・・お母さん・・・ごめんなさい。」


「・・・お母さん?」


「ほら、早く帰ろ?」


「お母さん、お腹空いた・・・・。」


「うん、帰ったらご飯にしよう。」


 二人は来た道を引き返していく。それを九十九はただ見ていた。


「お母さんって・・・なんだよ。夕菜は友達じゃなかったのか?」



+ + +



 舞台が暗転する。しばらく出番の無い麻衣が私のところにやって来た。


「はぁ~緊張した~。」


「お疲れ、麻衣。もう出番はラストだけだね。」


「うん。由真君すっごい上手だったね。」


「そりゃそうだよ。だって私のいとこだもの。」


 そう言って、私は彼女に飲み物を差し出した。麻衣はそれを受け取った。



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