第五話 美鈴、学祭の夜に ①
長い夢を見ていたような錯覚に陥りながら・・・・私はただそれを見つめていた。物言わぬ、両親の死体を。さやかは泣いていた。でも私は泣かなかった。・・・涙が出なかった。
火葬場の煙突から上る煙・・・さやかは不意に訊ねる。
「お母さんはどこに行ったの?」
それに私は笑顔でこう答えた。
「お母さんは空の向こうに行ったんだよ。空の向こうのお星様になったんだよ。」
それからだ。私が天体観測をするようになったのは。お父さんが残した天体望遠鏡や星に関する資料を片手に星を見続けるようになったのは・・・。私が星を見る理由―――そう、私は空の向こうにいるお母さんを探しているんだ・・・・・。
――時は流れ、高校二年の九月のこと・・・・。
「え~・・・・一年三組のミュージカル『トゥウィンクルスマイル!』でした~。」
司会の人がそう言って、拍手した。今日は学祭初日、私たちの劇の本番の日である。私たちのクラス二年四組の出番は次。私たちは舞台の横で気合を入れていた。
「よし、頑張ろう!皆!」
私はそう言っていたが、内心ハラハラである。なぜなら。
「大丈夫だよ、由真君。ちゃんと台本どおりにやればいいんだから、ね?」
「由真さん、頑張ってください。昨日突然主役交代になったせいで昨日全力で台本を覚えたんでしょ?」
「・・・・ああ、何とかやってみるよ。」
・・・とまぁ、そんなわけである。井上さんが突然インフルエンザで倒れたらしく、昨日急遽由真君に主役が交代したのだ。
「え~・・・・それでは次は二年四組の『ナチュラル』です!」
会場の人たちが拍手する。
「じゃあ、いってきま~す。」
そう言って、麻衣は舞台に上がった。
『・・・・町にその青年がやってきたのです。』
由真君の出番になった。彼はすぐに舞台に上がる。そして勢いよくこけた。
「いって~。」
会場は大爆笑。
「だ、大丈夫ですか?」
「・・・・・ありがとう。」
麻衣はすぐに駆け寄って芝居に入る。・・・転んだのは演技じゃないのに強引に何事も無かった方向に持っていく気だ。




