第四話 由真、いろいろあります、いろいろやります ③
一時間くらいして、俺は下に降りる。親父から状況を伝えられた美鈴がそこにいた。彼女はソファに座ってずっと俺を待っていたようだ。
「親父は?」
「今さやかと近所のスーパーに買い物行ってる。おじさん、由真君に悪いからって学校祭終わったら向こうに戻るって言ってた・・・。」
「ふうん・・・・ところで、お前は最初から聞いてたのか・・・?」
美鈴は一瞬ぴくりと反応し、その後ゆっくりと頷いた。
「・・・うん。由真君が麻衣と一緒に学校行ってたときに、全部聞いてた・・・。」
俺は冷蔵庫から缶ジュースを二つ取り出して彼女に渡し、その隣に座る。彼女はなんだか疲れているように見えた。
「そっか・・・。」
「・・・ごめんね・・・黙ってたりして・・・・。」
「気にすんなよ。言い出しにくかったんだろ?」
「うん・・・・・。」
俺は特に何も言わず、黙って缶の蓋を開け、ジュースを飲んだ。
「・・・ごめんね。」
「何言ってんだよ、お前は何も悪くないだろ?」
俺がそう言ったとき、美鈴が泣いているのに気付いた。
「・・・・・美鈴?」
「ごめん・・・ごめんね・・・ホントにごめんなさい。」
泣きながら俺に謝り続ける彼女・・・その姿を見て俺は昔のことをふっと思い出した。
・・・あれは美鈴とさやかの両親が亡くなってから一年半くらい経過した後の話だ。親戚の家を盥回しにされていた彼女らが俺の家に来たあの日のこと・・・。
「これからは一緒に住むことになった。由真、仲良くするんだぞ?」
親父に連れられてきたのは小学校三年生くらいまで夏休みや冬休みとかに会っていた、美鈴とさやか。
「うん。わかった。」
俺は何の迷いも無く、そう言った。あの時の彼女らの目はとても悲しげだったのを覚えている。・・・彼女らのことが近所の皆様方に知られるのに、そう時間はかからなかった。人殺しの両親の子供。復讐にあって殺された愚かな両親の子供・・・と近所ではそんな噂が立っていた。中学校でもそんな噂が立ち、当然彼女らに近づく人はいなかった。
そんなある日のことだ。学校で彼女らがいじめにあっていると言う話が俺の耳に届いた。俺はそれが本当なのか確かめるために、彼女らを問い詰めた。しかし、二人は何も無かった、そう答えた。俺もそれを信じた。
でも、現実は違った。俺はその日、美鈴がいじめにあっているのを目撃した。俺はそれを止めようとしたが、如何せん俺は喧嘩慣れしていなかった。一方的に殴られ、俺は倒れた。
保健室で目を覚ますと、彼女は泣いていた。あの時も彼女は自分は何も悪くないのに、ただ俺に謝り続けていた・・・・。
「美鈴・・・、もう泣くな。」
「だって・・・だって・・・・私、由真君に助けられてばっかなのに・・・由真君が苦しいときに私は何もしてあげられない・・・。」
「いいんだよ・・・。」
そう言って俺はジュースの最後の一口を飲み、彼女のほうを見た。
「美鈴がそばにいてくれるだけで・・・俺は十分助けられてる・・・だからもう泣くな。」
「・・・・由真君・・・・ありがとう・・・。」
涙でぐしゃぐしゃになった彼女の顔に笑顔が戻った。
「由真君は昔と変わんないね」
「そうかな?・・・自分では変わったつもりなんだけど。」
「ううん、何も変わってないよ。なんにも・・・。」
彼女が俺に抱きついてくる。一瞬ドキッとしたが俺は首を振って冷静にこう言った。
「何だよ?気持ち悪いなぁ・・・・。」
「酷いなあ・・・女の子が抱きついてきたら少しは喜ぶの!」
「へいへい・・・。」
こうして休む暇も無い休日は終わった。




