第四話 由真、いろいろあります、いろいろやります ②
「なんか最近、学校行ってばっかりだな・・・。」
運動部がグラウンドで練習しているのを見ながらそうぼやく。
「あはは・・・ごめんね。私のせいだね・・・。」
「いいっていいって俺も麻衣と一緒なら楽しいし。」
「えっ?・・・あ、うえ・・・えっと・・・。」
俺のその台詞を聞いて、彼女の顔がポーっと赤くなった。それを見て俺は自分が何を言ったのか理解した。
「あっ・・・ふ、深い意味じゃなくて・・・あの、ほら・・・あれだよ。」
「・・・うん・・・うん・・・。」
彼女もすぐに頷いた。それを見ていたグラウンドの方にいる運動部の連中が殺気立った視線を送るのを適当に無視しつつ俺たちは校舎に入った。
祐一はバドミントン部に所属していて、今日は午前中からの練習だったので今頃はちょうど部活が終わって教室あたりで帰りのバスが来るまでの時間を待っている、と彼女は言った。その予想はぴったり的中し、本当に彼は自分の教室で一人、椅子に座ってボーっと本を見ていた。
「祐一。部活終わった?」
「麻衣姉、何で学校にいるんだよ?」
祐一は急いで本を隠す。・・・いかがわしい本でも読んでたのか?
「由真さんもいるし・・・。」
「俺がいて悪いのか?」
「いや、別に・・・。それより、なんか用?」
「うん。・・・実はね。」
麻衣はこれまでのいきさつを祐一に話した。
「なるほど・・・でも俺の家はまずいだろ?」
「何で?姉が弟の部屋に泊まるのは普通だと思うけど?」
「俺と麻衣姉の場合はそうはいかないの!」
祐一は顔を真っ赤にして拒否した。
「何でダメなんだ?義理でも姉弟だろ?」
「そうだけどさ・・・俺は・・・・だし・・・麻衣姉も・・・・だから。」
ごにょごにょと喋りだす。俺はその態度にいらっとした。
「がたがた言ってんじゃねぇ!」
「・・・はい?」
「何であろうと麻衣はお前の姉貴なんだろ?だったら問題ナシ!はい決定!」
俺は火でも吹かんばかりの勢いで祐一にそう言った。彼はとりあえず頷く。
「ゆ、由真君・・・どうしたの?・・・キャラ違うよ。」
「・・・あれ?俺今何してた?」
そう言って俺は元に戻る。まぁ、そんなわけで彼女はしばらくの間、祐一の家に泊まることになった。
「まったく・・・強引だな。由真さんは・・・・。」
「それが良いとこなんだよ。」
「ああそう・・・麻衣姉の趣味は分からないな・・・。」
俺との別れ際に二人はそんな会話をしていたのは、当然俺には聞こえていないわけで・・・・。
麻衣と別れ、俺は一人で帰宅する。・・・まったく、また親父と会うのか・・・。しかし家に帰るとその親父の姿はリビングにはなく、美鈴とさやかの二人だけだった。さやかはソファーに座ってテレビを見ている。美鈴はキッチンで昼食の支度をしていた。
「お帰り、ゆーちん。」
「あれ?親父は?」
そう言いながら親父の姿を探す。するとさやかが答えた。
「部屋で仕事してるよ。おじさん、忙しいのにわざわざ帰ってきたんだってさ。」
「なら帰ってくなんなよな・・・。」
あきれたものだ・・・・ホントに何しに来たんだ?そう思っていると、美鈴の動きが急に挙動不審になった。きょろきょろと辺りを見回し、そっと何かを覗き込む。その後、腕組みをして何かを考えていたと思ったら、突然言ってはいけない台詞を言ってしまう。
「・・・・わ。みすずちんぴんちっ!」
そして彼女は俺の方を見る。
「あはは・・・ごめん、由真君。ほっといてたら炭になっちゃった」
美鈴はそう言って、魚だったようなものを俺に見せる。さやかが呆れて笑い出す。
「おねえちゃん・・・ダメだなぁ・・・もぅ。」
「・・・大丈夫か?なんかあったのか?」
彼女らはぴくっとその言葉に反応するが、すぐに何事も無かったかのような顔になる。
「何も無いよ?何でそんな事聞くの?」
「そうだぞ、ゆーちん。」
「ああそう・・・。」
何か隠してるな・・・そう思い、俺は彼女らの行動に注意することにした。
昼食後、部屋に戻り一息つく。うるさいのから開放されたこの感じが俺は好きだ。窓の外を眺め、俺はにや~っと思い出し笑いをする。
「そういや・・・学校でまた言ったな・・・今度はどんな罰にしよう?」
考えているのは当然、麻衣のこと・・・誰だ?今、俺のこと妄想狂って言ったのは?
「そういや最近、女の子と話してばっかだな・・・。男友達と遊んだ記憶もないし・・・・。ハーレムってわけじゃないけど・・・なんか複雑な心境だなぁ・・・・。」
そう独り言をもらす。確かに最近は麻衣のことばっかりで自分の友達とかとつるんだりしている時間が無かった。というよりもクラスでハミられた俺に男友達はいないため時間以前に友達がいないのだった・・・・。そう考えると俺は今現在、麻衣を除けば本当に友達がいない・・・。
「結局俺も麻衣と同じになってたのか・・・。」
そう呟くと、ノックの音が聞こえた。俺がドアを開けるとそこにいたのは親父だった。
「親父・・・何の用だよ?」
「いやぁ、愛しき我が息子と語らおうと思ってさ。」
「よし、帰れ。」
そう言って、部屋のドアを閉めた。しかし、そこは親父のフィールド。どこぞのセールスマンのごとく早業でドアに足を引っ掛ける。
「いやいやいや、今回はお前と話をするために帰国したんだからちゃんと聞いてもらうぞ。」
「だったら電話にしろよ!」
「電話じゃ伝わりにくい内容だからな・・・。」
親父の表情が一瞬変化した。俺はそれを見逃さなかった。はぁ、とため息を一つして、ドアを開けた。
「・・・何だよ話って?」
ベッドに座って俺は親父にそう尋ねた。
「いや~日本はいいよな。あっちは寒くてかなわん。ああ、そうだお前、美鈴ちゃんとさやかちゃんに意地悪して無いだろうな?」
「親父・・・早く本題に・・・。」
「まあまあ落ち着け、それよりも向こうでの面白い話があるんだよ・・・」
「親父!」
俺はまじめに話そうとしない親父の態度に腹を立てた。それを見て親父もようやく本題に入る。
「・・・・離婚した。」
「は?」
「いや、だから俺と母さん離婚したから。」
・・・・一瞬何を言っているのかさっぱり意味が分からなかった。しかしゆっくりと親父が言ったことを理解し、沸々と怒りがこみ上げてくる。
「何言ってんだよ・・・冗談はやめろ。」
「冗談じゃないさ。」
「ふざけんな!なんで言ってくれなかったんだ!相談してくれなかったんだ!」
「お前に相談したところで何も変わらないだろう?」
「だからって・・・だからってこんなのありかよ!」
俺は親父を殴った。
「・・・・殴りたいなら、好きなだけ殴ればいい・・・俺は駄目な父親だ。」
「ああ、そうだよ!分かってんならさっさと何処か行っちまえよ!」
「・・・・ごめんな、由真。お前には迷惑をかけてばっかで。」
そう言って親父は部屋から出て行った。俺はそれを追いかけることなく、ただ呆然とその場に座っていた。
「・・・・畜生・・・あの馬鹿親父・・・・。」




