第三話 美鈴、私の悪魔さん ⑥
朝になると、隣に麻衣がいないことに気付く。もう起きたのかな?と思い、一階に降りるが下には誰もいない。リビングには私あての置手紙が一枚置いてあった。
『美鈴ちゃんへ、起こしても起きないのでもう行きます。 麻衣』
さあっと血の気の引く音。ケータイの時計はすでに十一時を指していた。
当然、副担任の今村さんにしかられた。・・・・最近毎日遅刻してるなぁ・・・どうにかしないと。
教室に入ると、もうお昼休みだった。私は麻衣のいる図書室に行く。図書室に行くと麻衣と由真君が昼食をとっていて、麻衣は私を発見すると嬉しそうに手を振って、こっちに来た。
「美鈴ちゃん!昨日の台本OKだったよ!」
「ホントに? クラスの連中よく麻衣の話聞いたね?」
「・・・やっぱり誰も聞いてくれなかったけどね。井上さんが何とかしてくれて・・・それでとりあえず採決だけは取れたんだ。」
「で? 賛成多数だったと?」
麻衣がそれに対して何も言わないでいると、由真君が会話に参加してきた。
「いや、正確には反対無し、といったとこだな。『じゃあ、反対の人は挙手で・・・』ってやったからな。」
「私のモノマネはしなくていいから!」
「でもなんで井上さんが・・・・。」
私の素朴な疑問を由真君が答えてくれた。
「朝に麻衣が『話聞いて~』とか『静かにして~』とかやってたらさ、あいつが『委員長の話を聞けっての!』って・・・。」
「だから私のモノマネはしないでいいの!」
「・・・・・あ~。なんかデジャヴるなぁ・・・。」
私のその言葉で会話が途切れ、一瞬の沈黙が流れたとき、図書室の戸をノックする音が聞こえる。
「あっ、はい! どうぞー!」
麻衣にそう言われて、入ってきたのは私がまったく知らない人。でもこの学校の制服を着ているからこの学校の生徒なのだろう。身長は私と同じくらい・・・つまり普通の男子高校生くらいで、顔はかなり美形。いわゆるジャニーズ系ってやつかな?
「麻衣姉・・・またここにいたのか?」
「・・・・・誰?」
由真君も知らない人のようだ。彼の方を指差しながら私の方を見てそう尋ねてくる。でも私も知らないのでとりあえず両手をぱっと開いて、さぁ? のポーズをとった。
「あっと・・・美鈴ちゃんも由真君も会うの始めてだよね・・・?」
麻衣がそう言って、彼のことを紹介してくれた。
「私の弟の小野寺祐一です・・・・。」
「はぁ?」
「うそ・・・・弟さん?」
いろいろツッコミたいとこがあるんですけど!? でもそんなときに限って私の悪魔さんは動いてくれないし・・・・あぁ~もう!
「祐一です。麻衣姉がお世話になってます。」
「はぁ・・・こちらこそ・・・。」
「お世話してます・・・。」
私がお辞儀をすると彼も同じように礼をする。なかなか礼儀正しい人だな・・・さすが麻衣の弟。
「昨日、親父から電話で言われたんだよ。麻衣姉、今家にいないんだって? どこで生活してんだよ?」
「えっと・・・・あの・・・。」
麻衣が答えに悩んでいるようなので、私が横から口を出す。
「私たちの家で共同生活中ですよ?」
「あんたらの?」
由真君が頷いた。祐一君が眉をひそめた。
「麻衣姉、家に戻るつもりはない?」
「・・・・うん。」
「・・・・・・・ああそう。じゃあいいよ。」
そう言って、彼はあっさりと図書室を後にした。・・・拍子抜けだった。普通こういう場合は「家にもどれ!」とか「やだ!絶対帰らない!」とかがあるんじゃないのかな?
「ずいぶん冷たい感じの人だな。」
「うん・・・祐一は昔からあんな感じ・・・・。高校に入学してからは家にも帰ってこないし・・・。バイトして一人で暮らしてるみたいだよ?」
麻衣は由真君にそんな説明をしている。
「でもさぁ・・・あんなふうに言われて、ムカつくとか思わないの?」
「う~ん。そんな風に思ったことはないなぁ・・・だって祐一は私のことなんかどうとも思ってないだけだし・・・・ねぇ、由真君?。」
「えっ? ・・・俺にそういう話を振るなよ。」
いじめられっ子はそういうことをさらっと言うんだな、と思い。私は愛想笑いをした。




