第三話 美鈴、私の悪魔さん ⑤
みんなが寝静まった後、私は一人で天体観測をする。別に宇宙とかに興味があるわけじゃないけど、私は昔から星というものが大好きだった。空の向こうにある果てしない海を泳ぐ小さなヒカリ・・・目に見える限りでは小さなものだけれども、本当は私の手におさまらないくらいに大きい。そんなわけの分からないロマンを感じたりしてるのかな? お姉さんは。天体望遠鏡を覗いて見える星の名前を調べる。そんな行動を繰り返していると、下のほうから声が聞こえてきた。
「・・・すずちゃん。美鈴ちゃん・・・・何やってるの?」
窓を覗き込むと、下の窓から麻衣が顔を出していた。
「麻衣? まだ起きてたの?」
「うん・・・なんだか寝付けなくて・・・・。そっち行っても、いいかな?」
私は下に降りて麻衣を迎えに行った。彼女の顔はなんだか元気がない。何か嫌なことでもあったのかな?
「ありがとね・・・美鈴ちゃん。なんだか最近、夜が怖くて眠れなくなるんだ・・・・。」
私のベッドの上に座り、彼女は照れ笑いを浮かべつつそう言った。
「ふぅん・・・。」
そういう麻衣の表情・・・なんだか悲しそう・・・やっぱり今までのこと・・・引きずってるのかな?・・・・ここは慰めてあげないと。
「そういう時・・・私は空を見るんだ。」
「空?」
「うん。空を見てるとなんだかそういうのが紛れるからね・・・。麻衣は何でも自分の中に押し込めすぎなんだよ。」
「そうかな?」
「そうだよ・・・。人は一人じゃ生きていけないんだからね。たまにはお姉さんに頼りなさい♪」
彼女はうん、と一回だけゆっくり頷いた。
「麻衣は星、好き?」
「あまり見たりとかしたこと無いかな・・・でも嫌いじゃないよ。」
「私ね、昔から星を見るのが好きなんだ・・・。」
「ふぅん・・・。」
「星ってさ、ああやって光り輝いていて綺麗だけど実際はただの岩なんだよね・・・私だけかもしれないけど、それがなんだか切なく感じるんだ・・・・。」
「上辺だけの綺麗さは空しいだけってことかな?」
「うん・・・人だってそうだよ・・・外側ばっかり着飾ってても中身が汚かったらダメダメでしょ? だから麻衣にはそんな風になってほしくない。」
麻衣がうん、と頷く。私は一人で勝手に盛り上がっている。
「麻衣には外側じゃなくて中身を大切にしてほしい・・・夜に他からの光を受けて輝く星じゃなくて、昼に自分自身が輝く太陽のようになってほしいんだ・・・・由真君みたいに。」
自分でもよく分からないようなことを言って、私は一人で赤面した。
「美鈴ちゃんは?」
「えっ?」
「美鈴ちゃんは輝かないの?」
「私は・・・・・・。」
・・・どうなんだろう。自分でも分からない。
「私は・・・・星でいい・・・かな。」
自分は輝かなくていい・・・誰にも見られなくていい。そんな思いで私はそう言った。
「本当にいいの? それで・・・。」
「自分が輝いても・・・お姉さんは意味ないから・・・。」
「でも、由真君のこと・・・。」
「・・・・・由真君のことは関係ないでしょ?」
麻衣が首を横に振った。
「由真君のこと・・・好きなんだよね?」
「・・・・・・・・・・・。」
・・・・私は何も言えなかった。
昔々、好きな人に告って失敗したことがある。私が今までの人生において好きになった人はその人一人だけ・・・。そう、川上由真。麻衣の言うとおり私の心は十年近く由真君の方に向いたまま・・・。
「自分に素直に。」
「・・・・・好き、だよ。」
『痛み』が走った。今まで体験したこと無いくらいものすごい『痛み』・・・・。一瞬声が出そうになったけど、なんとか我慢した。
「・・・・・美鈴ちゃん。」
「な、なに?」
「・・・負けないからね?」
「・・・・・・・。」
ドクン、ドクンと、『痛み』が走る。私はそれに耐えながら、麻衣の宣戦布告を受けた。私もそれに対抗する。
「私も・・・・・私も負けないから・・・・。」
「ぐぅ・・・・・。」
麻衣の寝息が聞こえた。・・・・まさか、さっきの宣戦布告は寝言?
・・・呆れてものも言えないや。もう寝よう。
「・・・・ってあれ? じゃあ私はどこで寝るの?」
まあ、仕方ないよね。不可抗力と適当に理由をつけ麻衣と一緒のベッドに入る。・・・・別に何もしないけどね。




