第三話 美鈴、私の悪魔さん ①
「あら、お帰り。早かったね。」
家で夕飯の支度をしている途中、由真君が家に帰ってきた。彼は顔を真っ赤にして息を荒くしている。・・・学校から走ってきたのだろうか?
「・・・美鈴。麻衣が・・・。」
「麻衣がどうかした?」
そんなことは聞くまでもない・・・私にはすべて分かっているから。でも、私はすべて聞いてあげた。うんうん、と頷きながら、いつもなら軽く聞き流すようなことを・・・・。
「・・・・・・・ってわけなんだけど。」
すべて聞き終わったあと、私は自分の心を締め付ける鎖のようなものを押し殺し、彼を指差した。
「・・・・まったく、君はぜんぜん分かってない!」
「え?」
「自分の気持ちに正直に! ホラがんばれ、男の子!」
そう言って、私は彼のお尻を思いっきり叩いた。
「麻衣ならきっと待ってるから。早く迎えに行ってあげな?」
「・・・・美鈴・・・・・ああ、わかった。」
彼はまた走り出した。彼女の待つ学校へ・・・。
「あ~あ。私もぜんぜん分かってないなぁ・・・。」
そう独り言をいい、夕飯作りを再開した。
――高校二年の九月からこの物語は始まる・・・。
夏の終わりに近づいていても、この町はまだまだうっとうしいくらいに暑い。どっかのギャルゲーのようなその言葉から私のお話はスタートする。
私は麻衣と一緒に学校から帰る途中だった。私は麻衣の荷物を重そうに抱えながら、罰ゲームを必死に考えている。それを見て、麻衣は不安そうな顔で私のほうを時々見つめている。やっぱ可愛いなぁ・・・。
「ふふっ、大丈夫だよ。そんなにひどい罰ゲームじゃないから。
」
「当たり前だよ。あんまりひどいのだったら、私怒るよ?」
彼女はちょっと膨れっ面で私を睨んだ。するとその時私の目の前にあるものが見えた。由真君がバイトをしている喫茶店『フェアリーサークル』・・・。これだと思い、罰ゲームを決定した。
「よし、罰ゲーム決定!」
「えっ? なになに。」
「んふふ・・・それはねぇ。」
私は重たいカバンを両手で抱えながら、その罰ゲームの内容を告げる。当然、拒否はさせなかった。
喫茶店のドアが開く、入ったのは麻衣一人。私はおじさんに協力してもらうため裏口からこっそりと潜入した。
「で、かくかくじかじかで・・・協力してもらえませんか?」
端折りつつ今までのいきさつをおじさんに説明する。
「事情は分かったけど・・・本当にいいのかい? それで。」
「もちろんですよ」
私は笑顔でそう言った。でもおじさんは笑わなかった。
「・・・・なら、いいんだけどさ。」
おじさんとそんな会話をしているとき、麻衣と由真君の会話はもうすでに始まっていた。私は実際見ていない場面なので会話だけでお楽しみ下さい。
「・・・・いらっしゃい。」
「こ、こんにちは。」
「もうこんばんはの時間だけどね。」
「あはは・・・そうだね。」
「怪我、どうしたの?」
「あ、これは・・・ちょっと女の戦いを・・・・。」
「ふぅん・・・で、何の用?」
「あ、うん・・・あの、その・・・・・」
だいたいそこまで会話が進んでいた。そこからは私もこっそりと覗いていたので、何をしていたのかはっきりと分かる。
「・・・由真君に、この前ひどい事言っちゃったから・・・・謝ろうと思って。・・・本当にごめんなさい!」
麻衣は頭を下げた。由真君はどうしていいのか分からず、ボー然としている。馬鹿だなぁ・・・そこでやさしく抱きしめるんだよ。
「あ、えっと。俺のほうこそ・・・無神経で、ごめん。」
「・・・仲直り、してくれますか?」
麻衣は由真の目をじっと見詰めた。その目からはじわっと涙が出かけているのが分かる。
「・・・・もちろんだよ。俺は小野寺さんの味方なんだから。」
「・・・・・ごめ」
そう言いかけた彼女を由真君は止める。
「違うだろ、そういう時は?」
「・・・・うん! 『ありがとう』だよね?」
もういいかな? そう思い、私は拍手する。当然それに気付き、由真君は叫ぶ。
「うわ! 美鈴、何でここに?」
「ふふふ。お姉さんは神出鬼没なのさ。『ごめんなさい撲滅運動実施中!』につき、由真君にもそれを適用しようと思ってね。」
私は由真君の頭をなでながら耳元でそう言った。由真君はすぐに私から距離をとる。
「なんだよそれ?」
「『由真君にちゃんと謝って仲直りすること』が罰ゲームだったから今回の麻衣のはセーフにしようか? でも由真君のごめんは罰ゲーム対象だな~。」
「だからなんだよそれ!」
由真君の言葉は完全に無視して私は麻衣と罰ゲームを考える。そして私は彼女に耳打ちし、彼女の許可をとった後、罰ゲームを決定した。
「じゃあ、『由真君は直ちに家に帰ってくること』と『今後一切、麻衣のこと小野寺さんとか委員長って呼ぶの禁止』の二つにします。」
「二つかよ! 普通こういう場合一つだろうが!」
「ダメダメ。幸せは一つに絞れないんだよ?」
「・・・それは意味が違うだろうが。」
違くないって。麻衣の幸せを考えたらこの二つは必須なのだよ、由真君。
「ささ、実践タイム。麻衣って呼んであげな?」
そう言われると、もう観念したのか一回深呼吸してからじっと彼女を見詰めた。
「・・・・・・麻衣?」
「・・・・はい!」
そう言って、二人で恥ずかしそうに笑った。
こうして由真君は家に帰ってくることになった。私としては嬉しいのか悲しいのかはよく分からない。萌え萌えの共同生活をとるか、麻衣の幸せをとるか・・・難しいところだなぁ・・・・。
夜の街はなかなか危険が多いらしい。特に街灯の少ない家までの道は特に危ないとか。でも、私は今までそんな危険な目にあったことはない。やっぱりそういう出来事に遭遇するためには麻衣のようなかわいさが必要なのだろうか・・・? そんなことを考えながら、私は暗い道を歩いている。もちろん、由真君も麻衣も一緒だ。
「由真君が帰ってくるんだから私はもう家に帰らないと・・・。」
帰り道の途中で麻衣はそんなことを口にしたので、私はその口に指二本入れてぐぐ~っと横に伸ばした。
「へわぁ! にゃにしゅるのっ!?」
「ほらほら、学級文庫言ってみ? 学級文庫?」
そう言ってると、由真君が私を引っ張った。
「何やってんだよ? 小学生。」
「フッ・・・体は大人、頭脳は子供、その名は・・・」
そこまで言って二人に殴られた。
「いだだだだ・・・・。」
頭を押さえる私をよそに、二人で話し始める。
「・・・あのさ、もし、麻衣がよかったら・・・まだ家にいてもいいんだからな?」
「えっ・・・?」
「麻衣は美鈴の『家族』なんだろ? だったら、俺も了承するし・・・。それに・・・それに・・・・・」
私が言おうとしてたこと先に言っちゃったよ、この人。
「それに、麻衣がいると楽しいし、ね。」
仕方なく、私は由真君の言おうとしていた一番ハズい部分を言った。
「あ・・・・・うん。ありがとう。」
そう言った彼女の表情、嬉しそうだった。私もそれを見てなんだか嬉しくなった。




