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虫人 - Insecter  作者: 虫人プロジェクト
アルカディア編
7/27

第3話  専属の護衛!?

《コラム:TEXS》 Tactical Exoskeleton System = TEXS

戦術外殻システムとも。

虫人の外殻の上から装着する個人装備一式の呼称。

頭部シェルや胴部シェルなどの防護アーマー系から、バイザーシステムのような情報表示系のシステムなどで構成され、

服の内部に装着できるほか、任務に応じてモジュールを交換し、装備構成を変更することができる。

なお、外殻とは外骨格のことである。



東蟲機構・アルカディア支部——


夜——


大きなテーブルの真ん中に置かれたモニター。

俺は椅子に座ると、機構本部の回線を呼び出した。

まずは本部へ、到着の連絡だけでも入れておかなければならない——。


"東蟲機構本部へ発信しますか——?

    YES / NO        "


俺はマウスを軽く握ると、少し躊躇いながら YES を押した。


——この時間なら、まだ繋がるか……?


わずかな呼び出し音の後、モニターの画面が切り替わる。


「——あ、こんばんは。アルカディアの支部に無事、着いて何よりです。回線も問題なさそうですね。」


黄色髪の虫人女性——キミカからだった。

東蟲機構の専用回線を繋げたモニターは、インターネットは使えない。

ただ最低限のビデオ通話アプリと、USBポートがいくつか開いているだけの、簡易的な端末だ。


「えぇ、まぁ——。」


俺は少々、その回答に戸惑った。

無事というべきか、災難だったというべきか——。

今日は散々だった。

船内では商人にもまれ、降りたは降りたで、検問兵の二人に襲い掛かられ——。


「——えっとー、何かありました?」


「い、いえ! 別に——!」


「そうですか? ——電気系統と回線は既存のまま使えますので、電力会社への連絡はしなくて大丈夫ですよ。」


「わかりました。えっと電気代とか名義とかは——」


「心配ありませんよ。本部の方で受け持ってますから。」


「おぉ——!」


今日一嬉しい報告だった。

電気を使っても給料から天引きされない——こんな嬉しいことがあるだろうか——!


「——そういえば、ユウジくんの私物品の件ですが、昨日配送したと連絡がありました。明日には、アルカディアに到着するはずですよ。」


「わかりました、助かります。」


「それとー……」


「ん——?」


キミカは一瞬ためらった後、言いづらそうに目線を反らした。


「その——本当は、ユウジくんの側で色々教えることになっていたんですけど、こんな感じになってしまい、すみません——。」


「いいですって!全然!問題ありません! ——っていうか、くんはやめてくださいって。もう大人なんですよ?」


「あ、失礼しました。つい癖で——」


むしろ、この年で一人暮らしができるというのも、また嬉しい話である。


「まぁ、ユウジく——さんが気にしてないのであれば、いいんですけど——」


「はい! 問題ありません!——ところで、なんでキミカさんは、急に本部へ戻ることになったんですか——?」


「はい。実はその、先日までそれがよくわからなかったんですが——」


そう言うと、モニター越しのキミカは下を向き、白い板のようなものを取り出した。


「こういうことなんです。」


「"外交委員長:キミカ"……? ——って、え——?」


それは、机上に据え置くための、ネームプレートだった。

東蟲機構アルカディア支部勤務だったキミカは、本部へ突然呼び出されたかと思うと、外交委員長に任命されていたのだ。


「おめでとうございます——でいいんですか?これ。」


「ありがとうございます——? ……正直、まだ実感湧いてないんですけどね——。」


二人の間に、気まずい沈黙が落ちた。


「……ってことは、キミカさんは、その、俺の上司——ってことになるんですか——?」


「はい——。ユウジくんの、上司になってしまいました——。」


「えぇ——。」


勉強から何まで面倒を見てくれていたキミカが、気がけば俺の上司——。


「えっとじゃあ、本部から外交委員系統で仕事が来る場合は——」


「はい。私が、ユウジくんに指示を出す形になりますね——。」


ここは、本当は喜ぶべきなんだろう——。

しかし今は、非常に複雑な気持ちである。


「ん? ——っていうか、外交員って基本的に何をすればいいんですか?」


「一応、棚の資料にマニュアルを置いておきましたが——簡単に言うと、国や勢力からの依頼を受ける、橋渡し役になりますね。」


「橋渡し——?」


「はい。東蟲機構は"虫人の人権と安全を守る平和機構" ですので、私たちは、その働きかけをしてきた国家や勢力などを繋ぐ、橋渡しになります。」


「へぇー……。」


こんなこと言うのも恥ずかしいが、キミカの説明を受けてもなお、俺はいまいちピンと来ていなかった。


「ま、まぁとにかく、何かあればこちらから指示を出しますし、その——あんまり難しく考えないでくださいね——?」


「わ、わかりました——。」


「では、また——。」


そう言うと、通話は切断された。

"通話時間:四十五分"——だいぶ長い間、話をしてしまった。

正直、話したいことはいくらでもある。

しかし、キミカにも業務がある。外交委員長なら尚更だ。

俺は棚からマニュアルを数冊取り出すと、テーブルの上に置いた。



沈黙の中、ただひたすら、文字を読む。


「——モニターは、機構全員で共有すること。特に、安全保障委員会の連絡を優先し、国際平和上の——」


——いや、そもそも他の委員会の人員が派遣されることなんてあるのか……?


そんなことを考えながら、静かな空間で、ただ音読することしかできなかった。

ノートがあれば筆記できるものの、今は肝心の私物品すら、手元にない。


「——せめて、テレビさえあればなー……」


俺はあまりゲームをする立ちではない。

かと言って、筋トレを毎日するような人間でもない。

ただ椅子にもたれながら、ぼやくことしかできない——。


壁にかけられた時計は、午後八時を指していた。

通話が切れてから、わずか十五分——。

しかし、この十五分が、あまりにも長く感じられた——。


「——今日は、もうこのくらいにしておくか……。」


俺はマニュアルを閉じると、軽く伸びをして、二階の寝室へ向かった。

アルカディアでの一日目は、こうして静かに更けていったのだった。







翌朝——


俺は素早く制服に着替えると、階段を下りた。


ピンポーン——。


——誰だ? こんな朝早くに——。


俺は足早に玄関の方へ向かう。


「はーい! 今行きますー!」


家のお母さんのような口調で返事をしつつ、ドアを開けると、昨日の検問兵が二人、そこに立っていた。


「おはようございます——!」


ミオナが元気よく挨拶をする。

そして、そのすぐ側で、そっぽを向きながら立ち尽くすユミナの姿。


「えっとー、本日はどのようなご用件で——?」


「はい!——本日から護衛をすることになりました、ミオナ・アルカディアです。よろしくお願い致します——!」


「護衛? ——って、はぁ!?」


朝の静かな住宅街に、俺の声が響き渡ったのだった。








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