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虫人 - Insecter  作者: 虫人プロジェクト
ヴァーダントライン編
22/24

ヴァーダントライン編:3  迎え



《迎え》


アルカディア・北西検問所——


妹のサユキに連れられていくサイチ——。

俺たちはその惨めな姿を前に、ただ後をついていくことしかできなかった。


「なんか惨めね。」


ユミナが頭の後ろで腕を組みながら吐き捨てる。


そのまま北西検問所の方へ連れられ、見知った甲虫型女性の二人が現れる——。

黒い外殻をしたサイチの仲間——アヤカとサヤカだった。


どうやら、話に出ていたサユキの同僚というのは、この二人のことだったらしい。


サユキは二人と合流すると、検問所のガードに通行証を見せ、サイチを外へと連れ出していく——。

アルカディアを出入りする商人たちは、そんな様子を前に、何事かとただ見守っている。


「これじゃ公開処刑だな……。」


「……ちょっと、サイチさんが可哀想ですね……。」


「自業自得よ。」


心配そうに見つめるミオナに対し、ユミナは他人事のようにさらっとあしらった。

姉妹だというのに、二人の態度は相変わらず大違いだ。

それはサイチとサユキを見ても同じことが言える。


「まぁ、兄弟とか姉妹って、色々あるよな——」


「どういう意味よ。」


ユミナはすかさず、俺の言葉に突っ掛かった。


そんな俺たちの方へ、少女がそっと歩み寄ってくる。


「なにかあったんですか?」


少女の方を見ると、鎌をゆらゆらとさせながら、何やら興味深そうにこちらを見つめている。


「あ、ユリハちゃん!」


「やぁ、ミオナちゃん。偶然、近くを通りかかったものですから、来てみました。なにやら騒がしいようですね——」


ユリハはそう言うと、ミオナに優しく微笑みかける。

腕の鎌といい、枯葉のような体表といい、恐らくコカマキリ型か何かだろう。


「……あー、ちょっと内輪揉めというか、そんな感じで——」


「内輪揉め——?」


「はい。えっとー、家庭の事情みたいなものですかね。」


ユリハの疑問に、ミオナが言葉を繋げる。


「そう——なんですか?」


ユリハは連れていかれるサイチの姿を、ただじっと見つめていた。





街道沿いを少し歩いたところで、サユキは改めて、アヤカとサヤカの方へ向き直る。


「連絡と護衛の件、感謝する。」


畏まるサユキに、二人も少し動揺したように応える。


「いえ。……それに、護衛の件は飽くまで森閃組のご意向——ツバル様の指示に従ったまでです——。」

「連れ戻せなかった私たちの落ち度を、どうかお許しください。」


二人はそれぞれ言葉を並べる。


「気にしていない——こうして無事、連れ戻せただけでも、言ってもらった甲斐があるというもの——恩に着る。」


「滅相もございません。」


「同意です。」


そんなやり取りの中、終始、サイチは助けを求める視線を、こちらに向けていた。


「な、なぁユウジ、俺たち、友達だよな…? ほら、西の森で——……」

「サイチさん?」


ミオナの一言に、サイチはぐったりと俯く。


「と、とりあえず、東蟲機構の試験は後回しだな——そっちの決着がついたらで——……。」


サユキもまた、足を止めてこちらを振り向く。


「……この度は迷惑をかけてすまなかった。——領地へ戻ったら、改めて詫びを入れさせていただく——。」

「あ、はい。お願いします。ドアの件とか——……。」


そんなことを付け加えるが、サユキはすでに歩き出していた。

兄を引き連れ、森に囲まれた街道を進んでいく——。


「お、おい待て、まだ話は——!」


「黙って歩け——!」


「ぅぅ……。」


妹に連れられていく、兄の最後の姿——。


「——あいつ、あっちでもあんな感じなのか……? 総長って……。」


そんなことを呟きながら、遠くに消えていく一行を見送る——。


「自業自得よ。——それに、総長を誘拐しただなんて変な話が広まっても、こっちとしてはいい迷惑よ。」


「そ、それもそうだな——……。」


サイチは、最後まで諦めなかった。

ただ、総長という身分がありながら、アルカディアの街でほっつき歩かせるわけにはいかない。

それは向こうとしても、アルカディアとしても、そして外交員である俺としても同じである——。







東蟲機構・アルカディア支部——


数日後——


俺はキミカと繋がったモニターの前に座ると、今回起きたサイチの件を話していった。


「——……ってことがあって、その、ヴァーダントラインに一時的に帰っているというか——……。」


困ったように報告する俺に対し、キミカは微笑みながら言う。


「問題ありませんよ。実はこちらでも人事的な調査をしておりまして——

 総長のサイチさんを外交員として任用するというのは、機構としても認めることはできません——。

 まぁ、もしそれでもやりたいと言うのでしたら、まずは向こうの問題を解決してから、ですね。」


「まぁ、ですね——。」


キミカの言うことはいつだって正論だ。

外交委員長として、国や勢力の問題をないがしろにすることを、できるはずがない。

それは、事情を知ってしまった俺でもわかる——簡単な話ではあった。


話が一段落したところで、キミカが再び口を開く。


「そういえば、それとは別件で、ユウジさん宛てに先方から招待状が届いていますよ。」


「え、ヴァーダントラインから? 俺に?」


「はい。……サイチさんご本人ではございませんが、代理の者からでして——

 今回の件の謝礼と詫びを兼ねて、ぜひ一度、ヴァーダントラインへ出向いてほしいとのことです。」


「ヴァーダントラインかー……。うーん——。」


正直なところ、あまり乗り気になれるような話ではない。

支部の扉は、ユミナとミオナが応急的に修復した状態ではあるものの、完全に治ったわけではない——。


——あんなヤバい奴らがいる場所に行くのはちょっと気が引けるなー……。


考え込む俺の様子に、キミカが優しく語り掛ける。


「まぁ私的な招待状ですので、断ってもいいと思いますが——ユウジさんご自身が決めて良いと思いますよ。」


ヴァーダントライン——その名を聞くだけでも、今でもあの情景が、鮮明に思い浮かぶ。


けどあれから、サイチから連絡が来ることはなく、それはメッセージアプリのRhiNEでも同様だった。


一度護衛を務めてもらっただけの、役割上の関係——。

だが、サイチがあの後どうなったのか、気になる部分も、なくはない——。


「……まぁ、断る理由もないか——?」


俺はじっくり考え、決断した。


「でしたら、こちらから連絡しましょうか?」


「いえ、自分の方から連絡します。——細かい日付とかもありますし——」


「承知しました。では、日程が決まりましたら、また後ほど連絡をください。

 こちらでは出張扱いとさせていただきますので、向こうにいる間の連絡は不要です。それと——」


キミカは書類を手元に持ってくると、こちらに見えるよう、モニターに映し出した。


「——出張手当て——申請書——……?」


「はい。出張にかかった費用とそれに関する手当て金を、こちらで申請しておきますね。

 送金は後日になりますが——」


俺は思わず目を疑った。

そんなホワイトな制度があることを俺は初めて知ったのだ。

この一件に対する俺の見方が、決断へと一気に傾いていった。


だが同時に、疑問も残る。


「——でもこれ、私的招待ですから、訪問も私的な扱いですよね——?」


「はい。確かにヴァーダントラインから個人への、私的招待ではあります。

 ただ、これは外交員が加盟国へ出向く以上、我々とヴァーダントラインとの外交的なやり取りであるとも受け取れます。

 外交のためにいくのでしたら、それは出張ですよ。」


——キミカ様は神であらせられるのか——。


同時に、これで支部の扉の件は、ひとまず言わずに済む——。

もしあの件を話していれば、きっとキミカは出張を止めに来るだろう。

そして、扉が壊れた事実に悲しみを抱くだけでなく、外交的な問題へも発展する可能性があった——。


「では、くれぐれもお気をつけて。」

「は、はい!」


モニターが切れる——。


キミカはあの戦闘集団——ヴァーダントラインの恐ろしさを、きっと知らない。

ただの加盟国や加盟勢力ならまだしも、俺はそこだけは絶対に行きたくなかった。

だが、出張手当金が出るのであれば、話は別である。





後日、出張日程をショートメールで伝えると、俺は段ボールに入ったままだった小さな旅行バッグを取り出した。

着替えや歯ブラシなどを逐一詰め込んでいき、準備を進めていく。


そして当日——


「では、行きましょー!」

「おー!」


支部の前に停車する、大きな装甲車——。

その前に佇む、ユミナとミオナの姿——。


「って、なんでいるんだよ——。」


聞くまでもない。

護衛は、出張中も護衛である——これはきっと、アルカディアの判断だ。


乗り込む二人に続き、俺も装甲車の後部座席へ乗り込む。

唸るような大きなエンジン音が、アルカディアの街に響き渡る——。


俺たちは、ヴァーダントラインへ向け、前進したのだった——。






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― 新着の感想 ―
カブトマン……いや、カブトウーマンが好きですね。 ここまで魅力的なキャラがたくさん出てきましたが、現状の推しはサユキ一択です! バトル物かなと思って読み始めたのですが、思った以上にしっかりとストーリー…
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