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虫人 - Insecter  作者: 虫人プロジェクト
森の魔女編
15/24

森の魔女編:5  報告と命令



《報告と命令》


東蟲機構・アルカディア支部——


後日、和服屋であるチナツから連絡が来たのだった。

ミオナはスマホを片手に、チナツから来たメッセージをそのまま読み上げた。


「読みますね。

 ——先日お話しした件ですが、本人も喜んで引き受けると言ってくれました。

 西の森については少しだけ行った程度であまり知らないみたいですが、入口への案内はできるみたいです。

 本日は特に予定もないそうですので、ご都合のよいときにご連絡いただければとのことでした。

 あと、給料の面も、だいぶ気にしていました。

 ——以上になります。」


「え、給料——?」


俺は思わずミオナの方を見て聞き返した。


「はい——多分、アルカディアに来て日も浅く、生活に困っているんだと思います——。」

「私は嫌よ。ブレードに使ったばかりだし、そういえばカフェの代金、まだもらってないわよ。」


ソファに寄り掛かったユミナが即答すると、物の序でに、カフェで立て替えた代金の話になる。


「あれ、お前が払ったんだっけ——?」

「いえ、私ですね。ユミナちゃん、ダメですよ。」


すかさず、ミオナが答える。


「ち、違うわ! 私はミオナがなかなか言い出さないから、だ、代弁しただけよ——!」

「ほんとかよ……。で、いくらなんだ——?」

「ユウジさんはネクトエナジーですので40ティアルで、ユミナちゃんはカプチーノの38ティアルです。」

「って、お前も払ってねぇのかよ——!」

「あれ? そうだっけ——?」


俺とユミナは財布の中で、アルカディアの貨幣——ティアルをじゃらじゃらと漁った。

二人はミオナの小さい手にそれぞれ置くと、ミオナからお釣りを受け取った。


「はい、ユウジさんとユミナちゃん——。」


戻って来た数枚のティアルに、絶望するユミナ。


「酷い——私、今月生活できないわ——」

「そんなカツカツな状態で、あのブレード買ったのかよお前……。」

「大丈夫ですよ。家賃払ってるユウジさんの方が、よっぽど苦しいはずですから——」

「え、俺? 払ってないぞ? ここ機構の持ち物だし——

 っていうか、もし払ってたとして、お前ら割り勘するとか考えてくれてたのかよ——?」


そんな質問に、二人はシラを切ったのだった。


「じゃあ、話を進めますね。返信についてですが、ひとまず午後からであれば可能とだけ送っておきますね。」

「午後? 午前は——?」

「はい。私たちはその前に、しなければいけないことがまだ残っていますよね。」

「しなければいけないこと——?」

「はい。西の森は先日話した通り、立ち入り禁止エリアですので、セルラさんとの決着があります——。」

「あー、あれか……。」

「やっとあの茶髪に、ぎゃふんと言わせられるわね。」

「なんだその言い方——。」

「はい。ただ、ぎゃふんではないですね。飽くまで、私たちは条件を揃え終わっただけですので、

 それを許可するのは、セルラさんの一存です——ダメでも、気を落とさないことですよ。」


ミオナはそう言うと、ソファ横にあったバックパックを背負い上げた。


「なんだそれ——?」

「これは遠征パックです。アルカディア軍に支給される戦時兵装で、ショルダーラインに当たります。

 ——簡単に言えば、携行用バックパックです。」


——これ、聞いた俺が馬鹿だったのか……?


恐らく軍事用語なのだろうが、そんな簡単な説明にも理解できない自分に、少しもどかしくなる。

少し装備について、調べる必要がありそうだ——。


「じゃあ、今から地下本部行くってことか——?」

「はい。そのつもりですが、都合悪いですか——?」

「えー、今から行くの? ——明日とか、せめて昼とかでしょ——?」


ソファに座ったユミナが、意味もなく駄々をこねる。


「ダメですよ、今からじゃないと。調整は早いに越したことはありませんから。

 行動が遅くなってしまいますし、ドロバチの件、急ぐんですよね。」

「ぅー……。」


ユミナは言葉にもならない唸りを発したのだった。






アルカディア・中心街——


朝日が照り付け、反射する白い地面が俺の眼に襲い掛かる。


「ぅー……いぎだぐない……。」


こういうときのコイツのメンタルは豆腐並みである。

と言っても、アルカディアに豆腐なんてあるのか、心底疑問ではあるのだが——。


「コイツ、こんな嫌がってんの珍しいな——。」

「そうですね——ユミナちゃんは、ああ見えてお利口さんですから、言われたことはやりますし、

 やるなと言われたことはやりません。十二戦士の言うことは、絶対ですから。」


「十二戦士——?」


「はい。アルカディアの建国に携わった、主要ガードたちです。

 セルラさんを含む十二人の戦士は、正直、ガードの中でも別格というか、歯向かうことすらできません——

 それはユミナちゃんにとっても、同じことです——。」


「ユミナにも、天敵とかいるんだな——てっきり、上司にも歯向かってるものかと……。」

「そんなことないですよ。陰ではあれこれ言ってますが、意外と忠実なガードなんですよ。」

「ほんと、意外だな——。」


後ろで蹲りながら歩くユミナを見ながら、俺は静かに呟いたのだった。










アルカディア・地下本部——


前に来た時と同様、地下本部の静けさは、アルカディアの地上からすると異質なのかもしれない。

延々と続く廊下、整然と一定の間隔で並ぶ扉——。

そこに書かれた居室、兵器庫、情報資料室——。

これらはすべて、ヒューマンスタイルに準じているものなのかもしれない。

人間世界の軍事施設を模した、巨大な地下軍事基地——。


廊下に並ぶポスターには、TEXSの構成リストや武器の操作説明、歩幅や敬礼と言った教練の数々——。

改めて見ると、アルカディアの地下本部は、想像以上に軍事基地を成していた。


初めて来たわけではないというのに、ここまでの道のりが複雑すぎて、毎回のように迷いそうになる。

もはや、ミオナの案内なしでは、絶対にたどり着けないと言っても過言ではない。


——ミオナは一体、どうやって司令部の位置を、正確に認知しているんだろう——。


もちろんそれはミオナだけの話ではなく、他のガードにとっても同じことが言える。

ただ同じような廊下が延々と続く中、地図もなく、ただ迷わず、真っすぐその場所にたどり着く——。

ガード、またはアリ型虫人特有の、何かがあるのだろうか。


そんな疑問の中、その一角——第一司令室の扉の前に到着する。


「入ります——。」


ミオナは静かに言うと、重厚な扉を両手で開け、三人は入り口のすぐそばに整列した。

相変わらず、その部屋は想像以上に司令部だ——。

複数のモニターに映し出された、何かのデータと、何かを意味するリスト——。

部屋の中央の会議テーブルに設けられた、ジオラマのようなアルカディアの立体地図——。


「来たな——。」


執務机の奥に座るセルラ。

両肘を机に付け、手を組みながら、続ける。


「例の魔女の件のことだな——。」


——魔女——? 誰が魔女だって——?


そんな疑問の中、ミオナが答える。


「はい。森の魔女——マヤさんの件で、話をしに来ました。」

「だろうな。——では話そう。まず、アルカディアとして最優先したいのは外交員の生命担保である。

 東蟲機構は世界平和のための機構——アルカディアの判断でその所属である外交員を死なすことは、

 絶対にあってはならない。——今回の行動については、以前話した通り——つまり、条件に沿う形式が必要だ。」

「はい。私たちも、それについて話に来ました——。」


その後、ミオナは淡々と話していった。

事の必要性と重要性、そしてその目的——マヤの情報と俺の生命安全——。

セルラの繰り返される質問に、ただ、淡々と答えるガードの一人——。

まるで、俺たちが蚊帳の外にいるかのように、話は進んで行ったのだった。


そして、話は一段落する。


「なるほど——であれば、そのサイチという者の身分証明を行ってもらいたい——

 と言いたいところだが、そちらにも話の折り合いをつける時間がある。

 また、私たちにも調べる手段はいくらでもある——。

 不備を見つけた場合は、準備期間内にすべての是正をせよ——。」


「——了解です。」


いつになく、異様に張り詰め出す空気——。

ミオナはただ、無言で敬礼をする。

否、ミオナだけではない。ユミナさえ姿勢を正し、ミオナの隣で敬礼している。


——何だこの空気……一体何が——……。


「明日十時、西方検問所を開放、西の大森林のマヤとの交渉を成功させ、

 アルカディア住民一名の生命を救出せよ——。」


セルラもまた、二人に対して敬礼を返す。


頼み込みでも、条件による交渉でもない。

アルカディア・ガードの正式な命令だった。

命令をしたということは、その行動すべてを、総司令代理のセルラが受け持つことを意味していた。


そして、ガードたちは敬礼した手を静かに戻す。

セルラは続ける。


「総司令代理セルラ・アルカディアが命ずる。護衛兵ミオナ・アルカディアが現場指揮を執れ。」

「了解です——!」

「護衛兵ユミナ・アルカディアは護衛チームを編成、外交員の生命安全を維持せよ。」

「了解です。」


冷静と言うべきか、気迫が抜けていると言うべきか。

ユミナのこんな姿は見たことがない。

いつも不真面目で退屈そうな彼女が、別人のような堂々とした出で立ちで佇んでいる。


俺は少し、内心嬉しくなってしまった。

こんな状況で思ってしまうのも良くない話なのだが、いつも話してどこかふざけてて——

だがそんな彼女たちは、立派なガードだったのだ。






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