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虫人 - Insecter  作者: 虫人プロジェクト
プロローグ:世界と人間
1/24

プロローグ:1  とある田舎の研究者

《コラム:虫人とは—》


起源不明、正体不明——。

突如として地球に現れたそれは、全身に硬い外殻を持ち、大きな翅翼で空を自由に飛んでゆく——。

その外見から通称:虫人と呼ばれ、商業や流通、スポーツ、研究、そして戦争など、あらゆる分野で人間世界に影響を与えていった。



挿絵(By みてみん)



《とある田舎の研究者》


某所——

炎に包まれた街を、報道ヘリが旋回する。

夜空に黒煙が立ち昇り、建物の骨組みが火の中で軋む。

遠くでは、断続的に銃声が響いている。

モニターに映っていたのは、燃えさかる街中と、その中にただ一つ、異形怪人の存在。


——明らかに人間ではない。

しなやかに曲がる黒い尻尾。

無機質な光沢を放つ虫のような異形怪人は、ただ、冷たい眼差しをカメラに向けていた。


"怪人がまた、包囲網を突破したようです!

——現在、警察と国防軍の制圧部隊が展開中とのことですが、交戦している様子はありません!

引き続き、中継を継続します——。"


微かに見えた、辺りに倒れている人影は、恐らくその制圧部隊だった者たちだろう。

その後方で、盾を構える警察の制圧部隊——。


小崎裕太は、研究室の椅子に座ったまま、モニターに釘付けになっていた。

そして唇を噛みながら、小さくつぶやく。


「……あれが、虫人……。」


度重なる、怪人の暴動と、その制圧活動。


人類とは異なる知的生命体の存在に、恐怖とともに抱いたのは、果てしない興味——。

だが、目の前の映像は、遥かに想像を凌駕している。

ただの獣──否、虫と呼ぶべきか。

激しい銃撃の末、なおも立ちはだかり、出来上がったのは廃墟群だけだ。

行く先を阻める者などいない。

人間と変わらず、意志を持って行動している——そうでなければ、とっくにこの国など、滅んでいる——そうだったに違いない。


理解したい——。

あらゆる資料を読み漁った。

論文、目撃情報、世間に出回った動画や写真、考察——昆虫専門学者の推理や悪質な陰謀論——なんでもいい。

とにかく深く、確実に、虫人を知ろうとする自分がいた。


そして、いつしか虫人専門の研究機関を設立し、自らが最先端に立って活動するようになっていた。

生物学者、文化人類学者、言語学者、外交実務家——同じ志を持つ協力者を集めて創設された、人類史上初の虫人研究所。



同い年ぐらいだろう。最初に訪れてきた若い女性と軽く挨拶を交わす。


「初めまして、小崎裕太さんですね——私は考古学者のソフィアです。以前はマヤやアステカの研究ばかりしていました──」


「ようこそ。田舎の研究所には勿体ない人材だよ」


手を差し出すと、ソフィアは強く握り返した。


「えー、研究所の話はどこから?」


「虫人問題は今や、世界各地で話題に溢れかえっています——例えば、中央アメリカのあの事件、離島の革命軍や国連軍との衝突——

 猛烈な戦闘の末、彼女はそれらを、何もなかったかのように姿を消した。」


「彼女——?」


「あの怪人です。」


「なるほど——まさに"クリーチャー"だな。」


「えぇ。まぁ——。彼女はジャングルで何かを探していたようです。

 ——何だったのかは分かっていませんが、何かこう、彼女を本能的に引き寄せるものがあったのでしょう。」


「続けてくれ——。」


ソフィアの解説を聞きながら、重い箱を腕に抱え込む


「あ、えー……、手伝います。」



「すまない。そこの棚に上げる。——せーの!!」

二人がかりで、やっとのことで持ち上がる重い箱。

「中身は何です?」


「情報収集用のモニターだ。——現代社会において、テレビは必須だ。」


「なる……ほど……?」


「さっき、彼女に本能があるとか言ったな——それ少しは違う。彼女には強い意志がある。

 ——以前にも同じような行動パターンが、ネットにいくつも上げられている——この星で、何か重要な物を見つけたんだ……。」


「星? まさか、地球のことですか?」


「あー、いまのは忘れてくれ。——俺の勝手な思い込みだ。」


ソフィアが説明を求めるが、俺はそれ以上説明はしなかった。


「ですが、地球由来とも考えにくいです。——少なくともアメリカの陰謀論者は、そのように考察しています。」


「だから説明したくなかったんだ。」


その言葉に、俺は苦笑を隠し切れなかった。


会話は続く。


「それで——虫人にも意志が?」


「あぁ。詳しい話はデータを見てゆっくり──」


そう言いかけた瞬間だった。

研究所の角から一人の若者とぶつかりそうになる。


「あ、えっと初めまして! 自分はベネットと言います、生物学専門の──」


男性は、引っ張ってきたキャリーケースを立てると、身なりを整えた。


「裕太だ。よろしく。」


そして、いつも通りの握手を求める。


「あー、今ちょっと手汗が——」


「気にしないよ。どうぞ、手を。」


「すみません——あー、えっと、インターホンを押しても出なかったもので——」


「気にしないって。——お互い、人類の未来を背負うチームだ。よろしく頼む。」


「こちらこそ——。」


そう言うと、ベネットの手を強く握り返した。




外殻人類対策研究所——各分野のエキスパートたちが、次々に世界から寄せ集められていった。



「——アルカディア共生国——」


「共生? 共存とは違うんですか?」


「さぁ——ただ、彼らはそう名乗っている。——ここに怪物と俺らの、何か手がかりがあるかもしれない。」


アルカディア——古来ギリシアに築かれた、理想郷を意味する国家。

"人蟲共生都市"であるアルカディアもまた、その名を冠し、人類と異形が共棲するという、平和共存的な国家体制を築こうとしている。


アルカディアとの接触を図るため、チームはあらゆる手段を使った。

英語で書いた手紙、衛星通信、無線によるリアルタイム通信。


そんな中、アルカディア女王宛に送った手紙が、まさか国際郵便で返ってくるとは、誰もが思いもしなかった。


「——研究所の皆様へ。私たちは、人間と虫人とが共に暮らし、共に支え合う"共生社会"の実現──すなわち、

 平和と理解に基づく社会構築を志しております。——女王アルカ」


「……え、日本語?」


「だな。彼らにも言語学者がいるのか──このマークは——」


「さぁ——虫の顔のようですね——女王印とも呼ぶべきでしょうか?」



ここから、全てが動き始めようとしていた。

政府からは追加の研究助成が決定、一部の民間財団からも相次ぐ出資──全てが上手くいっていた。

俺たちはただ笑みを浮かべ、知らせがある度に、研究チームとその喜びを分かち合った。


「——これでようやく、まともなスタートラインに立てるな……」


誰よりも虫人を知りたい、そしてそれは、他の何のためでもない——人類の未来のためだった。


それは、静かな研究所の話だった。

世界の希望か、破滅か——。

虫人という存在が、我々に何をもたらすのか。

この研究所の名前が、世界にまだ知れ渡っていない頃の話だった——。






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― 新着の感想 ―
映画ぽく展開は、 興味津々ですね...... この虫人の設定も楽しそうです (╹▽╹)
虫人の展開が今後気になる導入ですね! 導入から世界観の見せ方がうまいです。炎上する街と“虫人”の異様さで一気に引き込みつつ、研究者視点に切り替えることで、怪物譚だけでなく知的好奇心も刺激してくれる。災…
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