表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

1739年春1 ヴァルン

エストハルト帝国北部地域最大の都市、ヴァルン。街道の要所にあるこの町の酒場は、常に安酒の匂いと、荒事を生業とする者たちの熱気が充満していた。

その喧騒から隔絶されたように、カウンターの隅で一人大きなジョッキを傾けている男がいた。彼は名をアレン・リドリーという。彼は使い込まれた防具に身を包み、剣をカウンターに立てかけていた。顔には数多の傷が刻まれている。

アレンの隣に、場違いなほどにこわばった雰囲気を纏わせた一人の男が腰を下ろした。男は酒を頼んだ。しばらく酒を飲みながら、時折アレンの方に目を向けていた。アレンはその視線を気に留めず、前を見つめていた。やがて、男は意を決したようにアレンの方へ上体を向け、口を開いた。

「君か?魔獣を討伐してくれる冒険者とやらは」

「…そうだ」

アレンは視線を男の方に向けることなく、答えた。

「東の山、北部山脈でオークの群れが出たらしい。あの山には女子供も入るんだ。討伐してくれないか」

男の声には焦りがにじんでいる。相当追い詰められているようだ。アレンがようやく男の方に目を向けた。男の目の下には隈ができている。

「報酬は?」

アレンは口調を一切変えずに答えた。その言葉には感情が乗っていない。

「銀貨20枚」

男は唾をのんで答えた。目が揺らぎ、額に汗を浮かべている。

「乗った」

即答だった。男は安堵のため息をついた。そして、袋を取り出し、その中から銀貨を出して前金として銀貨10枚をアレンに渡した。

アレンはそれを受け取り、懐にしまった。そして、酒を一気に飲みほした後、酒場を去っていった。


翌朝。通りにまだ人がまばらな頃に、アレンは馬にまたがって東へと向かった。目指すは北部山脈の裾野である。標高が上がり、吐く息が白くなった。

アレンは、一つの立木に馬を止め、徒歩での探索に切り替えた。

森は静まり返っていた。時折、アレンのブーツが草や枝を踏みしめる音が静寂の中に響いている。アレンは一定のリズムで足を動かしながら、首を左右に小刻みに揺らす。周囲を警戒しているようだ。

やがて、アレンは足を止める。ある方向に顔を向けた後、目を細め、その方向を見つめた。そして、彼は走り出した。不思議と、彼の足元からは音が生まれない。

視界が開けた後、彼は5体のオークの群れを発見した。オークたちは、動物の死体をあさりながら、鳴き声を上げ、騒ぎまわっている。彼らはアレンには気づいていない様子だ。アレンは背中の弓を取り出し、矢をつがえ、弦を引いた。

彼は一点にオークを見つめている。彼の指は微動だにせず、静止している。

「ふぅ」

短く吐き出された息とともに矢を放った。

放たれた矢はきれいな放物線を描き、正確に中央にいたオークの頭を貫いた。断末魔を上げることなく、オークが崩れ落ちた。

仲間が倒れたことに驚き、オークたちが動きを止める。

その刹那、二本目の矢が放たれた。その矢は、未だパニックにすら陥れていない一匹のオークの喉を射抜いた。

残った三匹のオークが、別々の方向へと逃げ始めた。焦っているのか、走り方が不格好だ。

アレンは落ち着きを保ったまま、次の矢を放った。放たれた矢は、まっすぐにオークを射抜いた。

続けざまに矢を放ち、もう一匹のオークを射抜いた。最後のオークが、岩の裏に回り、アレンの死角に消えた。アレンは弓をしまい、オークが隠れた岩へと走り出しだした。

アレンが風を切る音を鳴らしながら走る。数十秒で岩へとたどり着いた。その瞬間、オークが公本を振り上げ岩から飛び出し、鬼の形相を浮かべ、アレンにとびかかる。アレンはその攻撃を横跳びでよけ、剣を引き抜いてオークに突き刺した。剣はオークの心臓を貫いた。

オークの群れを壊滅させたアレンは、討伐証明としてオークの耳をいくつか回収し、山を下りた。

酒場出会った男、ケイルは、山の近くの村、レルムに住んでいた。夕暮れ時、アレンはレルムへとたどり着いた。

レルム村は、小さな村だったが、何人かの人が外で畑仕事をしており、家からは時折笑い声が聞こえてきた。

アレンは、男が住んでいる家を訪ねた。そして、男にオークを討伐したことを知らせた。

「ありがとうございます…これで安心して山に入れる…」

ケイルは震える手で残りの報酬をアレンに渡した。すぐに家を飛び出し、オークが討伐されたことを村の住人に伝えてまわった。

村のはずれ。アレンは馬の手砂を握り、しばらくの間村の人々を見つめていた。村の人々は皆、その報告を喜び、晴れやかな笑顔を浮かべていた。

アレンは表情を動かさない。ただただ村を見つめるだけであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ