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よくある現象のその先で

作者: ペンタコン

 最初にパトカーを見かけたのは、信号待ちをしていたときだった。青に変わる直前、交差点の向こうから、サイレンを鳴らさない静かなパトカーが滑るように現れ、慎一の目の前を横切っていった。赤と青の回転灯は消えたまま、白と黒の車体だけが朝の光を反射している。何の変哲もない、ありふれた光景――のはずだった。

 十分後、会社の近くのコンビニから出てきたとき、二台目のパトカーが慎一の目の前を通り過ぎた。今度は助手席の警官と目が合った。警官は別にこちらを睨んだわけでも、会釈をしたわけでもない。ただ窓の外を見ていて、たまたま視線がぶつかっただけだろう。そう頭ではわかっていても、慎一の胸の中には、じわじわと何かが広がっていった。

(今日は、パトカーをよく見る日だな……)

 そう思った瞬間、「よく見る」と感じてしまった自分を可笑しく感じた。たった二度見ただけで、「よく見る」とは大げさじゃないか。そうツッコミを入れながらも、エレベーターを待つあいだ、彼はスマホを取り出して星占いアプリを開いた。

『本日の運勢:小吉 注意力散漫になりがち。足元をすくわれないように』

 足元をすくわれないように――その一文が、妙にパトカー二台と結びついていく。交通違反、事故、警察、取り締まり。大げさに連想を膨らませていることは自覚していたが、慎一はそういう「つながり」を見つけるのが昔から好きだった。星占い、血液型占い、タロット、姓名判断。科学的根拠が薄いと笑われるものでも、彼にとっては、世界を少しだけ意味づけしてくれる便利な道具だった。

 オフィスに着くと、フロアのテレビから朝の情報番組の音が聞こえてきた。スタジオの笑い声と、ニュースキャスターの落ち着いた声。パソコンの電源を入れながら、ふと何気なくそちらを見やると、画面には懐かしいタレントの顔が映っていた。

「あれ、この人、最近よく見るな……」

 昨夜も別の番組で見たばかりだ。バラエティ、ワイドショー、ドラマのゲスト。しばらくテレビで見かけなかったはずなのに、一度意識すると、急にそこら中に現れたような感覚になる。

(こういうの、何て言うんだっけ……)

 額を指先でつつきながら名前を思い出そうとするが、出てこない。何かの現象名があったはずだ。確率とか錯覚とか、そういうやつだ。夫婦の会話の中で、何度か妻が口にしていた。

「……バーダー、なんとか現象?」

 自信なく呟いたところで、後ろから声が飛んできた。

「お、今日も朝から占いチェックですか?」

 同じチームの後輩が、自席にコーヒーの缶を置きながらニヤリと笑う。

「違うよ。ニュース見てただけ」

「どうだか。慎一さん、昨日もタロットのアプリ引いてましたよね」

「いいだろ別に。無料なんだから」

 軽口を交わしながらも、どこか心の端で「占い」「警察」「足元をすくわれる」という言葉が絡まり合っていく。ふつうならすぐに忘れてしまう偶然を、慎一の脳は、意味ありげな前兆として俎上に乗せてしまうのだ。


 ◇


 夜、マンションに帰ると、キッチンから揚げ油のはじける音と、派手な電子音楽が聞こえてきた。リビングのテレビには、パチンコ店の情報番組が映っている。色とりどりの演出映像と、芸人の大げさなリアクション。その前で、エプロン姿の麻衣が、フライパンを振りながら真剣な顔で画面を見つめていた。

「ただいま」

「おかえり。ちょっと待ってね、今この機種のボーダーの話してるから」

 麻衣は画面の字幕を見逃すまいと、リモコンを握りしめたまま返事をする。カウンターの上には、びっしりと数字が書き込まれた小さなノートが開かれている。日付、ホール名、機種名、大当たり回数、総回転数、投資額、回収額。

「またノート増えた?」

「この前の新台のやつ。ほら、スペックが変則的だから、実戦データ集めないと期待値わかんないでしょ」

「……期待値」

 慎一は、その言葉を復唱しながらネクタイをゆるめた。彼の妻は専業主婦でありながら、パチンコに関してはちょっとしたプロだった。ホールに行くのは週に二、三回。だが、そのたびにデータを取り、確率と収支を管理している。負ける日もあるが、トータルではわずかにプラスを維持しているらしい。

「今日も行ってきたの?」

「ううん、今日は下見だけ。釘が渋くなっててさ。あの店、しばらくはダメだね」

「よくわかるねえ」

「数字をちゃんと見れば、だいたいわかるよ。ほら、これ見て」

 麻衣はノートを開き、色ペンで引いた線グラフを指さした。日ごとの大当たり確率、当たりまでの平均回転数。赤い線が理論値、青い線が実測値だという。

「この青い線がさ、ここでぐいっと下降してるでしょ? この週から急に、回らなくなってるの。ホールが釘を締めたってこと」

「ふうん……」

「だから、ここ以降は基本打たない。どうしても打ちたいなら、イベントの日だけ。そうすれば、そんなに大負けしない」

 慎一は、妻の指先がなぞる線を見ながら、同時に朝の自分を思い出していた。パトカーを二回見ただけで「今日はよくパトカーを見る」と感じた自分と、何十日分もの数字を集めてから「釘が締まった」と判断する麻衣。そこには、世界の見え方の根本的な違いがあった。

「ねえ、麻衣」

「ん?」

「バーダー……なんとか現象って、何だっけ」

 突然の質問に、麻衣はフライパンを火から下ろし、腕を組んだ。

「ああ、頻度錯覚ね。バーダー・マインホフ現象よ。あるものを一度意識すると、そのあと急に増えたように感じるやつ。さっきテレビで見たタレントを、今日一日ずっと見かけてる気がするとか」

「それそれ。今日まさに、それだった」

「ふふん。よくあるんだよ、人間の脳ってそうなってるから。数字を取らないと、実際に増えたのか、意識だけが過敏になってるのか、区別つかないの」

 彼女はそう言って、ノートをパタンと閉じた。

「だから、慎一が『最近パトカー多いな』って言っても、私は信じないよ。統計見せてくれたら別だけど」

「ひどいな」

「でもさ、そのおかげで占い師が儲かるんだよ。誰にでも当てはまることを、タイミングよく言ってあげると、『よく当たる』って錯覚する。あれも頻度錯覚みたいなもん」

 図星を刺されたようで、慎一は苦笑した。以前、二人で行った占いで、彼だけ妙に感激してしまったことを、麻衣は未だにネタにしている。

「まあ、慎一は占い信じてていいよ。可愛いから。でも、仕事のことは、占いよりちゃんとしたデータを信じてね」

「仕事のこと?」

「最近さ、帰ってきてからずっと元気ないでしょ」

 図らずも核心を突かれ、慎一は言葉に詰まった。ここ数週間、彼の胸の中には重たい石のようなものが居座り続けている。それは、上司の何気ない口癖と、評価シートの「コメント欄」に書かれた短い言葉が、じわじわ蓄積して固まったものだった。


 ◇


 慎一が勤めているのは、中堅のIT企業だった。社員数は三百人ほど。受託開発から自社開発サービスまで、さまざまな案件を抱えている。彼はその中で、バックエンドのシステム設計と実装を主な仕事にしてきた。

 技術力には自信があった。コードレビューで指摘されることは少なく、リリース後の障害対応も手際よくこなしてきた。しかし、コミュニケーションが得意かと問われれば、胸を張れるタイプではない。会議で積極的に発言するよりも、黙々とコードを書いている方が落ち着く。

 新しい上司、松田課長が着任したのは、半年前のことだ。スーツの着こなしが妙にキザで、笑顔を絶やさない男だった。初対面のとき、彼は慎一の肩を軽く叩きながら言った。

「君のことは聞いてるよ。技術は一流だって。頼りにしてるからね」

 その言葉を、慎一は素直に嬉しいと感じた。だが、それから数週間のうちに、松田の口から発せられる別の言葉が、少しずつ彼の自信を削り始める。

「慎一くん、技術は本当にすごいんだけどさ、人に任せるのがちょっと苦手かな」

「もう少し、周りを巻き込めるといいよね。今のままだと、ちょっとチームプレーに不安がある」

「個人としては優秀なんだけど、リーダーとしてはどうかなあ……」

 褒め言葉と同じくらいの頻度で繰り返される、その「ちょっと」「どうかな」という枕詞。最初は軽い助言のように聞こえていたが、同じフレーズを何度も浴びるうちに、それは慎一の中で「自分はチームプレーができない人間だ」という烙印に変わっていった。

 ある日、社内の重要プロジェクトのキックオフが行われた。自社サービスの新機能開発、大きな予算がついている。技術面の中心人物として、慎一の名前が挙がっていた。

「このプロジェクト、技術リーダーは俺がやります」

 そう宣言したのは、同僚の高橋だった。松田課長の「お気に入り」として知られる、社交的で要領のいい男だ。発表の場で、松田は満足そうに頷いた。

「うん、いいと思う。慎一くんは、今回はサポートに回ってもらおうか。実装面では頼りにしてるから」

 その瞬間、慎一は、喉の奥に小さな棘が刺さったような感覚を覚えた。技術リーダーとしての適性がないと判断されたのだろうか。自分でも、リーダーの役割が自分に向いているとはあまり思わない。しかし、挑戦する機会すら与えられなかったことが、静かにこたえた。

 プロジェクトが進むにつれ、違和感は増していった。仕様が二転三転し、締め切りは前倒しになり、優先順位は上から頻繁に塗り替えられた。そのたびに、実装のやり直しやテストの再設計が発生する。

「ここ、なんでこうなってるの?」

 レビュー中、高橋が慎一の書いたコードを指差した。すでに何度も仕様変更の影響を受けている箇所だ。

「当初の仕様だと、このフラグが……」

「いや、それはいいんだけどさ。今の仕様書だけ見た人が、パッと理解できない実装はやめようよ。読みにくいって、他のメンバーも言ってるし」

 松田も横から口を挟む。

「そうそう。慎一くん、やっぱりちょっと、一人で抱え込みすぎなんだよね。もう少し、みんなが追いかけられるレベルに合わせてあげないと」

 その場では反論できなかった。確かに、仕様変更に振り回される中で、自分が理解できればいいという発想に傾いていたかもしれない。だが、その批判は、それ以降も形を変えて繰り返される。

「慎一くん、細かいところにこだわりすぎ」

「慎一くんは、ちょっとチームを信頼してないのかもね」

「最近、慎一くんの周りでバグが多い気がするなあ」

 最後の一言が、胸に深く刺さった。「最近」「多い気がする」。それがどの程度の頻度なのか、誰も数値では示さない。ただ、上司の口から何度も聞かされるうちに、「自分のせいでトラブルが続いている」という印象だけが、濃く深く染みこんでいく。

 家に帰っても、ついスマホで「エンジニア 向いてない」「仕事 よくミスする 占い」といった言葉を検索してしまう。ポップアップ広告には、「転職するなら今」「あなたの適職診断」といったキャッチコピーが並ぶ。どれもが、自分に向けられたメッセージのように見える。

 そして、星占いアプリは、相変わらず「足元に注意」とか「新しい環境」といった言葉を、毎日のように提示してきた。


 ◇


「ねえ、本当に最近バグ多いの?」

 ある夜、食後の茶碗を片付けながら、麻衣がふいに切り出した。

「え?」

「だってさ、『最近バグ多くてさ』って、ここ一ヶ月で五回は聞いたよ」

「……そんなに言ってた?」

「言ってた。私の頻度錯覚じゃないレベルで」

 半分冗談めかした言い方ではあったが、慎一は答えに詰まった。たしかに、そう感じていた。仕様変更に振り回された不具合、テスト環境では再現しないエッジケース、本番での想定外の負荷。

「実際、何件くらいあったの?」

「えっと……」

 指を折って数えようとするが、ぼやけている。印象だけが強く、具体的な件数が頭に浮かばない。

「たぶん、三件か四件……」

「ここ三ヶ月で?」

「うん」

「他の人は?」

「さあ……」

 そのとき、麻衣は、パチンコの話をするときと同じ真剣な顔になった。

「ねえ慎一。三件とか四件って、全体のうち何%?」

「何%って言われても」

「だって、プロジェクト全体で何本コード書いたの? 何千コミット? その中での三件か四件でしょ?」

 彼女は、食洗機のスイッチを押しながら続けた。

「ホールに行くとね、『最近全然当たらない』って愚痴ってるおじさんたち、いっぱいいるの。そういう人にわたし『何回転回して当たらなかったんですか?』って聞くの。そうすると、だいたい『一万円分くらいかな』とか言うの」

「一万円って、いくらくらい回せるの?」

「千円でだいたい二十回として、一万円で二百回でしょ。大当たり確率三百一分の一の台なら、二百回ハマるなんて、普通にあることなの。なのに、その一回だけで『最近当たらない』って思い込んじゃう」

 麻衣は、自分のノートをテーブルに持ってきた。ページをめくると、そこには「ハマリ回転数の分布」と書かれたグラフがあった。

「これ見て。三百回以上ハマった回数、意外と多いでしょ? でも、連チャンしてるときはみんな覚えてないの。ハマったときだけ、強烈に覚えてる。だから、『最近当たらない』って印象が残る」

「……仕事のバグも、そんな感じ?」

「たぶんね。上司さんに『最近バグ多いね』って言われると、慎一の頭の中には『バグを出した自分』だけが強く残る。でも、何百のリリースが問題なく通ってることは、日常すぎて記憶に残らない」

 慎一は、黙ってテーブルの木目を見つめた。麻衣の言うことは、頭では理解できる。「頻度錯覚」という言葉が、静かに胸に落ちていく。しかし、上司に繰り返し言われたフレーズは、理屈をねじ曲げてしまうほどの重さを持っていた。

「でもさ……評価シートにも書かれちゃったんだよ」

 ポケットから折りたたんだ紙を取り出し、テーブルの上に広げる。「チームへの貢献」「リーダーシップ」「品質意識」といった項目の横に、AからDまでの評価が並んでいる。慎一の欄には、BとCがまばらに並び、コメント欄には短い一文が書かれていた。

『技術力は高いが、周囲を巻き込む力が弱く、最近品質面で不安が残る』

 その文末、「不安が残る」という言葉を、慎一は何度も読み返してしまった。

「これ、いつの評価?」

「先月」

「ほかの人のは?」

「見せてもらえないよ」

 麻衣は、書類をじっと見つめたあと、ため息をついた。

「……ねえ、お願いがある」

「何」

「慎一の、ここ一年分のコミットログと、障害チケットの一覧、見せて」

「え?」

「だってさ、バグが多いかどうかは、『気がする』じゃなくて、数字で判断できるじゃん。私、パチンコのデータ取るの得意なんだから、協力させて」


 ◇


 週末、二人はリビングのテーブルにノートパソコンを並べた。慎一が社内のGitリポジトリとチケット管理システムにアクセスし、データを抽出する。個人情報や機密に関わる部分を慎重に省いても、コミット者名とチケット番号、障害種別、担当者、発生日などは残ってしまう。

「これ、社外に持ち出したらダメなやつなんだけどな」

「ブラウザで見ながらメモ取るだけ。スクショとかは撮らないから」

 慎一が口で読み上げ、麻衣がノートに数字を書き込んでいく。

「じゃあ、ここ三ヶ月で本番障害になった案件、全部数えて。一件ずつ、『誰の担当部分か』もメモする」

「そんなの、意味あるかな……」

「ある。パチンコもね、一日だけ見てても偏りが大きすぎてわかんないの。だから、最低でも一ヶ月分はデータ取るの。仕事だって同じだよ」

 最初は半信半疑だったが、三十分もすると、慎一も真剣になっていた。障害の原因が、自分の担当ではないミドルウェアの不具合だったケース。外部サービスの仕様変更だったケース。テストケース自体の誤りだったケース。目を通すうちに、「自分のバグ」に見えていたものの多くが、実は自分の責任だけではなかったことが見えてくる。

「で、これは?」

「それは……俺の設計ミス」

「正直でよろしい。じゃあ、これは?」

「これは、高橋さんの実装」

 麻衣は、サラサラと表を埋めていった。横軸に月、縦軸に開発者名。その交点に、障害件数を書き込む。

「ふーん……」

「どう?」

「まだ三ヶ月分だから断定はできないけどさ」

 彼女は、線引きされた表を慎一に見せた。

「少なくとも、『最近慎一の周りでバグが多い』っていうのは、データ上は当たってない。むしろ、高橋さんのところのほうが、多いくらい」

「え……」

 意外な結果に、慎一は眉をひそめた。たしかに、自分が障害対応に駆り出される場面では、高橋の担当した機能が絡んでいることが多かった。だが、その場では「チームの問題」として処理され、誰の責任か明確にされることは少ない。

「それにさ」

 麻衣は、別のページを開いた。

「慎一が『バグ多くてさ』って言ってた期間、全部この三ヶ月に集中してるよね。でも、その前の半年は?」

「たぶん……そんなに問題なかった」

「だったら、『最近バグが多い』っていうのは、仕様がぐちゃぐちゃなこのプロジェクトの問題かもしれないし、単に上司さんがそういう言い方をしてるだけかもしれない」

 慎一は、ゆっくりと椅子の背にもたれた。数字の行と列が、頭の中で再配置されていく。自分の記憶の中で肥大化していた「バグの山」は、実際にはデータの一部に過ぎなかった。

「……でも、評価シートに書かれちゃったしな」

「それだよ」

 麻衣は、評価シートを指で叩いた。

「これってさ、占い師のトークとすごく似てるんだよね」

「え?」

「ほら、『あなたは真面目で責任感が強いけど、その分、人に頼るのが苦手ですね』みたいな」

 慎一は思わず笑った。以前占いに行ったとき、まさにそんなことを言われたのを思い出したのだ。

「誰にでも当てはまりそうなことを言っておいて、そこにその人の最近の悩みを、ちょっと味付けして混ぜる。『最近品質面で不安が残る』っていうのも、具体的な数字がないでしょ。『最近バグ多いね』っていう口癖が、そのまま評価シートに転記されてるだけかもしれない」

「そんな……」

「でね、その一文を読むたびに、慎一の脳は『品質不安』『バグ』っていう言葉に敏感になる。そうすると、ちょっとした不具合でも、『またやっちゃった』って記憶に残っちゃう。頻度錯覚の完成」

 麻衣は、どこか楽しそうに話していた。パチンコの確率や期待値を説明するときと同じ口調だ。

「つまり、上司さんは、無意識にせよ意図的にせよ、慎一の『アンテナ』をネガティブな方向に立ててるのかもね」

「意図的に?」

「だってさ――」

 彼女は少し声を落とした。

「今日、スーパーで偶然、会社の人に会ったんだよ。背の高い、メガネかけた男の人。名札に『高橋』って書いてあった」

「えっ、高橋さん?」

「そう。わたし挨拶したの」

「え、そんなことしたの」

「慎一がお世話になってます。最近うちの主人ご迷惑をかけてませんか?」って。

「うわそんなこと言ったのかよ」

「言ったわよ。だってお家の一大事なんだもん」

「まあ、そうだな」慎一は麻衣が気にかけてくれている嬉しさと、心配をかけている申し訳なさで複雑な気持ちになる。

「でね、話してたらその人がね、『いやあ、うちの課長、最近“あいつが元気なくて心配なんだよなあ”ってよく言うんですよ』って言ったの。『慎一のことですか?』って聞いたら、『そうだ』って」

 慎一の背筋に、冷たいものが走った。「元気がなくて心配」という言葉は、一見すると気遣っているようだが、その裏には「やる気がない」という冷たい評価が潜んでいる。そのフレーズが、別の場所でも繰り返されているのだとしたら――。

「ねえ慎一。もしかして、上司さん、慎一を『辞めさせたい人』リストに入れてない?」

「まさか……」

 否定しかけて、言葉が喉で止まる。根拠はない。ただ、ここ数ヶ月の「ちょっとした」言葉の積み重ねが、一つの方向を指し示しているように見えてしまう。

「もしそうだとしたらさ」

 麻衣は、ノートを閉じて言った。

「占いと違って、これは放っておいちゃダメなやつだよ」


 ◇


 翌週、慎一は人事部から呼び出しを受けた。「キャリア面談」という名目だったが、会議室に入ると、すでに松田課長が座っていた。その横には、人事担当の女性が書類を整えている。

「そんなに緊張しなくていいからね」

 松田は、いつもの柔らかい笑顔を向けた。

「今日はね、君の今後のキャリアパスについて、少し真面目に話したいと思って」

 その言葉の裏に何が隠れているかを、慎一は薄々悟っていた。最近、社内で「早期退職優遇制度」の噂が流れていた。表向きは希望者を募る形だが、実際には「会社として辞めてほしい人」にそれとなく圧力がかかっているらしい。

「まずね」

 松田は、評価シートをテーブルの上に広げた。

「改めて、君の評価について説明しておこうと思う」

 技術力に関しては高く評価している。慎重で責任感が強い。品質面では信頼している――そんな前置きが一通り続いたあと、例の一文が読み上げられた。

「ただね、最近品質面で不安が残る部分もあってね。バグが立て続けに起きたこともあっただろう?」

 やはり、そのフレーズが出てきた。

「それに、チームを牽引するという意味では、もう少し周囲を巻き込む力がほしい。正直なところ、君には個人プレーヤーとしての適性はあっても、今後のうちの会社で求められるリーダー像とは、少しズレがあるのかなと」

 その場で、「数字で見ると自分のバグは多くない」と反論する勇気は出なかった。一対二の会議室で、テーブルの上の書類と、上司の落ち着いた声に挟まれ、慎一の喉は乾いていた。

「でね」

 松田は、言葉の調子をわずかに変えた。

「会社としては、君の今後を考えて、二つの選択肢を用意している。一つは、別部署への異動。もう一つは、早期退職制度の利用だ」

 やはり、そう来たか。頭のどこかで覚悟していた言葉が、現実のものとして耳に届いた瞬間、慎一の視界はわずかにぐらついた。

「もちろん、すぐに決めろとは言わない。家族ともよく相談して」

 その「家族」という言葉で、脳裏に麻衣の顔が浮かぶ。昨夜、彼女と一緒に作った表。障害件数の一覧。グラフ。数字。

 会議室を出たあと、慎一は、トイレの個室に駆け込んだ。便座に座り、スマホを取り出して、麻衣にメッセージを送る。

『例の話、来た』

『やっぱりね。今日、何時に帰れる?』

『たぶん、七時くらい』

『わかった。夕飯、早めに用意しておく』

 たったそれだけのやり取りだったが、不思議と呼吸が少し落ち着いた。


 ◇


「辞める気、あるの?」

 夕食後、テーブルに評価シートとメモ用紙を広げながら、麻衣がストレートに聞いてきた。

「正直に言えば……ある」

「やっぱり」

「なんかさ、最近ずっと『自分は向いてないんじゃないか』って思ってたから。転職サイトの広告見るたびに、『これは俺へのサインだ』って」

「それも頻度錯覚」

 麻衣は即答した。

「一回『辞めたい』って思うと、『辞めろ』って言ってるように見えるものばっかり目に入るの。占いだってそう。『新しい環境へ』って言葉、ここ最近ずっと出てない?」

「出てた」

「それ、仕事で悩んでる人全員に効く言葉だからね」

 慎一は、苦笑いするしかなかった。

「辞めるのが絶対に悪いとは言わないよ」

 麻衣は、少し声のトーンを落として続けた。

「ただ、『自分がダメだから』『最近ミスが多いから』って理由で辞めようとしてるなら、それは違うんじゃない? その原因が、本当に自分なのか、ちゃんと確かめた?」

「……確かめ方がわからない」

「だから、一緒に考えるって言ってるんでしょ」

 彼女は、パチンコノートと同じように、白紙のノートをテーブルに広げた。

「まず、『会社に残るメリット』『辞めるメリット』『会社に残るデメリット』『辞めるデメリット』を書き出す。それから、『上司の言ってることが事実かどうか』『上司が何を目的にしてるのか』も考える」

「上司が何を目的にしてるか……?」

「そう。もし本当に慎一を育てたいと思ってるなら、数字も出してくれるはず。『君の担当で、去年は一年で障害ゼロだったのに、今年は三件出た』とか。そういう話を一切せずに、『最近不安なんだよね』って感覚だけで言うなら、それはただの印象操作」

 印象操作――その言葉が、占い師のトークと重なった。

「それにさ」

 麻衣は、にやりと笑った。

「もし本当に上司さんが慎一を追い出したがってるなら、簡単には辞めてあげたくないよね」

「え?」

「だって、そんなの、向こうの思い通りじゃん。私、パチンコでもそうだけど、『店がやめてほしそうな台』ほど粘りたくなるタイプなんだよね」

 麻衣の「度胸の良さ」が、こういうところに現れる。

「じゃあ、どうすればいい?」

「まず、人事との面談、私も同席していいか聞いて」

「えっ、でも家族を呼ぶなんて」

「精神的にしんどくて、サポートが必要って言えばいいじゃん。嘘じゃないでしょ?」

 たしかに嘘ではなかった。ここ数ヶ月、会社のことを考えると息苦しくなり、夜中に目が覚めることも増えていた。

「それにね」

 麻衣は、テーブルの上の評価シートをトントンと叩いた。

「この一文に反論するには、数字と具体例が必要なんだよ。『品質面で不安が残る』って、どういう意味かを逆に説明してもらう」

「そんなこと、して大丈夫かな」

「大丈夫かどうかじゃなくて、『やるしかない』んじゃない? 黙って辞めるのは、簡単だけど、たぶんあとで後悔する」

 慎一は、しばらく黙って考え込んだ。占いなら、「今週は受け身にならず、自分から動くと吉」とでも出る場面だろう。だが、今回は占いではなく、確率とデータと、妻の度胸が背中を押している。

「……わかった。聞いてみる」


 ◇


 数日後、二回目の面談の日が来た。人事担当者に事前に相談したところ、「ご家族の同席も問題ありません」との回答を得ていた。面談室の扉を開けると、松田課長は一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐに笑顔を貼り付けた。

「今日は、奥さんも一緒なんだね」

「はい。最近、体調のこともあって、相談に乗ってもらっているので」

 慎一がそう説明すると、人事担当者も「よろしくお願いします」と頭を下げた。麻衣は、きちんとしたジャケットにパンツ姿という、少しよそ行きの格好で椅子に座った。膝の上には小さなノートとボールペンを乗せている。

「では、改めて」

 松田が、前回と同じように評価シートを広げ、同じような説明を繰り返し始めた。その途中で、麻衣がそっと手を挙げた。

「すみません、一つお伺いしてもよろしいでしょうか」

 松田は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻した。

「もちろんです」

「『最近品質面で不安が残る』と書かれているのですが、具体的にはどういう点でしょうか。できれば、数値や事例で教えていただけると助かります」

 その質問は、占い師に向かって「それは何%の確率で起こることですか」と尋ねるようなものだった。普通なら、場の空気を凍らせかねない。しかし、人事担当者はむしろ興味深そうにペンを構えた。

「そうですね……」

 松田は、やや困ったように視線を泳がせた。

「この三ヶ月間で、彼の担当モジュールで発生した不具合が、何件か重なりまして」

「何件くらいでしょうか」

「ええと……三件ほど、だったかな」

 麻衣は、ノートに「三ヶ月/三件」と書き込んだ。

「その三件のうち、慎一の設計ミスや実装ミスによるものは、何件ですか?」

「それは……」

 松田の声がわずかに小さくなる。

「正確には覚えていませんが、彼が大きく関わっていたことは間違いないです」

「すみません、正確なところが知りたくて。というのも、本人から話を聞いたところ、そのうち一件は外部サービスの仕様変更、もう一件はテストケースの想定漏れだったと聞いています」

 人事担当者がメモを取りながら、口を挟んだ。

「その点、こちらでも改めて確認したほうがいいかもしれませんね」

「ああ、いや、もちろん彼だけの責任と言うつもりはなくてですね」

 松田は慌てて手を振った。

「ただ、その……連続して問題が起きた印象がありまして」

「印象、ということですね」

 麻衣は、柔らかく微笑んだ。

「印象って、人間、けっこう当てにならないものですよね。例えば、一度『最近パトカーをよく見る』と思い込むと、実際には二台しか見てなくても、『今日は本当によく見る』って感じてしまう。何て言いましたっけ、頻度錯覚?」

 その言葉に、人事担当者が「ああ」と頷いた。

「バーダー・マインホフ現象、でしたかね」

「そう、それです。それと同じことが起きている可能性はないでしょうか。『最近慎一の周りでバグが多い』と一度思うと、その後の小さな不具合も全部そっちに寄せて記憶してしまう」

 松田の表情が、少しずつ固くなっていく。

「いえ、その……もちろん、私も客観的に判断しているつもりですが」

「客観的というのは、具体的な数字を見て、他のメンバーとの比較も行った、ということでしょうか」

「そこまでは、正直……」

 人事担当者が、静かに口を挟んだ。

「松田さん、念のため、障害件数と担当者のデータは、こちらでも確認させてください。今ここで結論を出すのは、少し早いかもしれません」

 その一言で、会議室の空気がわずかに変わった。松田は、「もちろんです」と答えながらも、視線を評価シートに落とし、顔を上げられなくなっている。

「それと、もう一点」

 麻衣は、畳みかけるように続けた。

「『周囲を巻き込む力が弱い』というご指摘についても、具体的な場面や頻度を教えていただけますか。他のメンバーとの比較も含めて」

 松田は、曖昧なエピソードをいくつか挙げた。「会議で発言が少ない」「自分で抱え込んでしまうように見える」。だが、それらはどれも主観的な印象であり、「最近何度あったか」という問いには、はっきりと答えられない。

「ありがとうございます。お話を伺っていると」

 人事担当者が、ゆっくりとまとめに入った。

「慎一さんには、技術面での評価が高い一方で、コミュニケーションに関する部分は、上司の主観によるところが大きいように感じます。障害件数についても、データを確認した上で、改めて評価を見直す余地があるかもしれません」

 慎一は、横に座る麻衣をちらりと見た。彼女は、パチンコのホールで期待値の高い台を見つけたときと同じ、どこか自信に満ちた表情をしている。

「ですので」

 人事担当者は、慎重に言葉を選んだ。

「本日の段階で、早期退職制度の利用を強くお勧めする、ということはいたしません。異動の可能性も含めて、慎重に検討したいと思います」

 松田は、わずかに苦い顔をしながらも、「了解しました」と答えた。


 ◇


 帰り道、駅までの坂道を歩きながら、慎一は深く息を吐いた。

「……すごかったね」

「何が?」

「あの質問攻め。占い師が相手じゃなくて、本当に良かったよ」

 麻衣は、肩をすくめた。

「占い師相手なら、もっと優しくするよ。あの人たちは、人を楽しませるのが仕事だから。今日は、慎一の人生を勝手に書き換えようとしてる人が相手だったからね」

「書き換えようとしてる人、か」

 松田の口癖。「最近」「ちょっと」「不安」。それらが、慎一の中で「自分はダメなエンジニアだ」という物語を形成していた。その物語は、占いの曖昧な言葉や、転職広告のキャッチコピーと連携し、彼の視界を狭めていた。

「俺さ」

 慎一は、信号待ちの横断歩道で立ち止まりながら言った。

「ずっと、会社の中で起きてることは、全部『事実』だと思ってた。上司がそう言うなら、それが真実なんだって。でも、今日、麻衣が質問してるのを見てさ、『事実』だと思ってたことのかなりの部分が、『誰かの印象』とか『言い回し』なんだってわかった」

「うん」

「それって、占いと変わらないんだなって」

 麻衣は笑った。

「まあ、占いも上手く使えば楽しいし、前向きになれるなら悪いもんじゃないよ。ただ、人生の大事な決断を、占いだけで決めちゃダメってこと」

「……会社を辞めるかどうかも?」

「そう。上司の言葉もネットで見かける広告も、占いと一緒。参考にしてもいいけど、最後は自分でデータと心を見て決める」

 信号が青に変わる。二人が歩き出したそのとき、通りの向こうを一台のパトカーが走り抜けた。朝見たものと同じ型の車だ。

「あ」

「またパトカー?」

「うん」

 慎一が思わず指差すと、麻衣は、いたずらっぽく目を細めた。

「ねえ、今日は何台目?」

「……二台目」

「じゃあ、まだ『よく見る日』かどうかはわかんないね。最低、あと一週間くらいデータ取らないと」

 二人は顔を見合わせて笑った。


 ◇


 それから一ヶ月後。

 人事部から正式な通知が届いた。「異動内示」。新しい部署は、社内ツールの開発チームだった。外部の顧客対応はほとんどなく、社員が日常的に使うシステムの改善を行う部署だ。

「正直、手放したくなかったんだけどね」

 送別の飲み会で、松田はそう言った。その口調は、どこか芝居がかっている。慎一は、以前ほどその言葉に振り回されなくなっていた。

「期待してたんだけどなあ」

 そのフレーズが出た瞬間、彼の頭の中では赤ランプが点滅した。「出現回数:五回目」とでも表示されているような感覚。だが、もはやそれは、彼を傷つける呪文ではない。単なる口癖に過ぎなかった。

 新しい部署では、チームリーダーではなく、「テックリード補佐」という肩書きをもらった。正式なリーダーではないが、技術設計やレビューの中心人物だ。

「リーダーじゃないの?」

 そう尋ねた麻衣に、慎一は首を振った。

「いいんだ。それでも十分。前みたいに、リーダーに向いてないって言われるより、自分の得意なことで評価してもらえるほうが、ずっと気が楽」

 新しい上司は、評価シートを見せながら言った。

「君のコード、安定してるね。障害件数も少ない。レビューコメントも的確だし」

 その言葉を聞いても、慎一は「本当かな」と疑うようになっていた。褒め言葉であっても、一度立てたアンテナに全部吸い込まれてしまうのは避けたい。だからこそ、彼は自分でも数字を見るようになった。テストカバレッジ、障害件数、レビューの指摘率。少しずつ、自分の仕事を「印象」ではなく「データ」で見ることを覚えていった。


 ◇


 ある休日の午後、二人は久しぶりに占い店を訪れた。駅前のビルの一角、小さなブースが並ぶ一角。前に来たときと同じ、柔和な顔の占い師が出迎えてくれた。

「あら、お久しぶりですね」

 占い師は、二人の顔を見るなり微笑んだ。

「今日は、旦那さまのお仕事のことかしら?」

 慎一は、思わず苦笑した。

「仕事のこともありますけど……まあ、全体的な運勢を」

 テーブルの上にタロットカードが並べられ、一枚一枚がめくられていく。過去、現在、未来。潜在意識、顕在意識。カードの絵柄は、相変わらず象徴に満ちていた。

「ふむ……」

 占い師は、真剣な表情でカードを見つめた。

「過去に、かなり大きなプレッシャーや、評価に関する不安があったようですね。しかし、近い未来、環境の変化とともに、あなたの持っている力が正当に評価される流れが来ています」

 慎一は、心の中で「当たり」と呟いた。カードの「塔」と「太陽」と「世界」が示す意味を、占い師は丁寧に説明していく。その言葉の多くは、誰にでもある程度当てはまることだと、今の彼ならわかる。それでも、そこに自分の物語を重ねることはできる。

「一つだけ、気をつけていただきたいのは」

 占い師は、最後のカードを指さした。

「周りの言葉に、必要以上に振り回されないようにすることです。あなたは、とても真面目で人の評価を気にしやすい。良い言葉も悪い言葉も、一度心に入れると、ずっと覚えてしまうタイプですから」

 麻衣が、横でこっそり笑った。

「それ、完全に当たってますね」

 占い師は、にこりと笑った。

「でも、それは弱点であると同時に、強みでもあります。人の言葉を大切にするということですからね。その代わり、数字や事実も、同じくらい大切にしてください。バランスを取ることです」

 その言葉は、占いというより、カウンセリングに近かった。

 店を出たあと、麻衣が聞いた。

「どうだった?」

「うん……」

 慎一は、空を見上げた。秋の空は高く、雲がゆっくりと流れていく。

「前ほど、『当たってる!』って興奮はしなかったかな。でも、『ああ、そうだよな』って思うところは、ちゃんとあった」

「それでいいんじゃない?」

「うん。占いも、広告も、上司の言葉も。俺の中で、全部『参考意見』になってきた気がする」

 麻衣は満足そうに頷いた。

「じゃあ、次はパチンコ行こっか」

「え、今から?」

「今日の占い、トータルでは良かったでしょ? “数字と事実を大事にすれば吉”って言われたんだから、実戦で確かめなきゃ」

 彼女は、鞄からおなじみのノートを取り出した。そこには、今日のホールのイベント情報と、過去のデータがびっしりと書き込まれている。

「ねえ慎一。今から行く店、何回勝ち越してて、何回負け越してるか私が覚えてると思う?」

「いやどうだろう……」

「覚えてないわよ、もちろん。だから記録をとっておいて、ちゃんとメモを見るの」

 数字を参照する。それは、仕事でも人生でも大事なことだ。印象だけで「よくある」と感じる現象の裏には、数え忘れた「よくなかったこと」や、「普通だったこと」が山ほど横たわっている。

「よし、今日はデータ通りに打って、勝ったらお祝いに美味しいもの食べよう」

「負けたら?」

「負けたら……今日のデータを加味して、現況を再分析」

 二人は笑い合いながら、駅前の繁華街へと歩き出した。その途中、また一台、パトカーが彼らの前を通り過ぎた。

「三台目だ」

「今日は本当に多いね」

 慎一は、少し考えてから言った。

「でも、明日もちゃんと数えてみるよ。パトカーも、いいことも、悪いことも。『よくある』って感じたときは、まず数えてみる」

 麻衣は、「それ、いいね」と笑った。

 彼の中で、「よくある現象」は、もはや漠然とした不安の象徴ではなくなっていた。それは、世界を理解するための、一つの道具に過ぎない。占いも、広告も、人の評価も。そのすべてを、盲信するのではなく、測りながら、時に笑い飛ばしながら、生きていく。

 パチンコ店の派手なネオンが見えてきた。電子音楽と、客の歓声と、玉のぶつかる音。その喧騒の中へと歩みながら、慎一は、ポケットの中のスマホをそっと握りしめた。星占いのアプリは、今日も「小吉」と表示している。

(まあ、今日はデータで“大吉”を引いてやるか)

 そう心の中で呟き、二人は自動ドアをくぐった。

以下のプロンプトをCodexに与えて小説を生成し、推敲をしました。


# よくあると感じることは事実か


## 仮説: 人は立て続けに2回同じことが起こると「よくある」と感じる

- 例1. 通勤途中に2回パトカーを見ると「今日はよくパトカーを見る」と感じ職場でそのことを話す

- 例2. テレビで久しぶりに登場するタレントを見ると、なぜかしばらく目につくようになる

- それは実際に新番組に起用されるなどの理由で、番宣のために様々な番組に登場している可能性がある

- 例3. ある商品についてネットで調べると、その商品についての情報が目につくようになる

- それは実際にトラッキングされていて、興味があると判断された商品の広告がネットの様々な画面に表示されている可能性がある

- 例4. 熊出没のニュースをテレビ等で何度も目にし、熊がよく出没しているんだ、と感じる

- 実際によく出没している可能性があるが、ニュース制作者サイドがこの事実を問題視し、頻繁に取り上げている可能性もある

- 例5. 骨の数の多い傘をさしている人が多いなと感じる


**人がよくあると感じることの少なくない部分について、メディア、広告に操作されている部分もあるのではないか**


## バーダー・マインホフ現象(頻度錯覚 / 頻度錯誤)

- あるモノや言葉を一度意識すると、その後「やたら目にする/急に増えた」と感じる現象

- 新しいモノ(ここでは「骨の多い傘」)を認識する

- 脳の中でその情報への「アンテナ」が立つ

- 実際の数はそんなに増えていなくても、目についた分だけ記憶に残る

- 「最近めちゃくちゃ見るな」という感覚になる


**脳の中にその情報への「アンテナが立つ」ことがよくあるなと感じる原因ではないか**


## 一流の占い師の言うことが当たると感じる理由

- 占ってもらう人の性別、年齢、外見などから以下の見立てが成り立つ

1. どのような人生を送ってきたか

- 親との関係

- 兄弟との関係

- 友達関係

- 恋愛関係

- 金銭問題

2. どのような悩みを抱えているか

- 大抵は上記のうちのどれかであろうと想像がつく

- これらの中からありそうなことをある程度抽象的に言えば、誰でも当たったと感じるのではないか

- そもそも悩んでいるから占い師のところに来るわけであり、人の悩みの類型というのは限られており、どれかに当てはまるはずである


## 小説作成依頼

- 上記の考察を踏まえて、以下の登場人物を登場させて小説を生成してほしい

- 主な登場人物

- 男: IT企業のプログラマー

- 迷信好き。占いを信じる。

- 女: 専業主婦

- パチンコ好き。統計データ、科学を重んずる。

- 上記二人は夫婦である

- あらすじ

- 優秀な技術者である男は、上司の策略によって自信をなくし、会社を辞めるように仕向けられるが、彼の妻が科学的なデータと度胸の良さを発揮してそれを阻止する話。

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