フラーイの花
〈とろゝ飯用に麦飯常備あり 涙次〉
【ⅰ】
* 石田玉道が彼の星から帰つて來て、約1箇月が經つた。彼から仕事の代金として貰ひ受けた(或ひは一味が石田の星で自主的に拾ひ集めた)ダイアモンドだが、余りに一度に大量にカンテラ一味が放出した為、市場で価格大暴落と云ふ現象を卷き起こし、結局幾らにもならない。要は一味、自らの撒いた種で丸損をした譯である。** 金尾がゐれば、資産運用に一家言ある彼の事、このやうな結果にはならなかつたのだらうが- 今更、の話である。
* 當該シリーズ第128話參照。
** 當該シリーズ第115話參照。
【ⅱ】
「やつぱりカネの事、専門にケアするスタッフが必要かなあ」とカンテラ。悦美「だつて100kgも一度に放出するんだもの。常識問題よ」カンテラ頭を掻いて、「うむ。俺が常識に欠けてゐるのは周知の事だ。誰か補佐してくれないと、また同じ轍を踏む」悦「わたしがチェックすれば大丈夫よ。おカネの専門家なんて要らないわ。別に株買つたりする譯ぢやないでしよ」カン「安保さんが云つてたよ。株は人の心を腐らせるつて」悦「はいはい。兎に角、カンテラさんがおカネ弄つちや駄目。リーダーはリーダーらしく、どんと構へてないと」
【ⅲ】
と、カンテラは悦美の尻に敷かれてゐる(私=作者、も悦美の尻になら敷かれてみたいが・笑)。だが以上は余談である。いつもながら余談が長い・苦笑。で、本題。安保卓馬である。彼はガールフレンドの寄與美と* フラーイの花の香りを嗅いでばかりゐた。地球に何株か持ち込んだのを、水栽培してみたら株が思いがけず増えたのである。フラーイの香には表向き常習性はない、と云ふ事になつてゐたが、それは實情「?」、なのである。この世に逃避したい現實があれば、マリファナと同じく、だうしても頼つてしまふ、と云ふ現象が起こる(マリファナも常習性はない、と云はれてゐる)。彼の場合それは大學受驗であつた。地球の、レヴェルの低い大學へ苦勞して入る(全く、入るのばかりが骨で、中身はてんで幼稚と來てゐる)ぐらゐだつたら、フラーイの花を賣つて生計を立てた方が、幾らかマシだ。 フラーイにはさう云ふところがある。その香りを嗅ぐと、つひ現實逃避してしまふのである。
* 當該シリーズ第141話參照。
※※※※
〈ディジタルで摑んだ文を思ふだに招き猫型文鎮が要る 平手みき〉
【ⅳ】
こゝに「道化」と云ふ【魔】がゐる。ルシフェルの懐刀である彼は、卓馬に、否、フラーイの花に着目してゐた。これを使つて何か面白い事が出來ないか- 彼は面白さと云ふ事を主眼に生きてゐる【魔】で、面白ければ何でも良い、と云ふ、考へやうによつては過激思想の持ち主だつた。POMの助を獲り逃した(前回參照)のは彼の一生の不覺だつた。もしも地球人が、石田の星のシャアムの一族のやうに、フラーイの事ばかりにかまけ、生産的事業を一切止めてしまつたら- それは「道化」にとつて心の底から「笑へる」樂しい事件なのだつた。「さう云へばカンテラ一味、ダイアの轉賣で大損こいたさうだ。樂しいな、うひやひやひやひや」
【ⅴ】
實を云ふと作者、この「道化」と云ふ【魔】の事は以前から知つてゐた。作者のバンドマン時代(さう云ふ時期もあつたのだ)、彼は別のバンドのリーダーで、良くライヴハウスで對バンしたものだ。私の方が年長なので、銀鬼(当時の私の通り名)さんと私を呼ぶ。ガールフレンドと何処でデートします? と云ふので、「映画観たり美術館行つたりだよ」と答へると、「それつて樂しい?」と問ふて來る。藝術は須らく退屈な物だと思つてゐた。そして新しい不法藥物にまたも手を出した事を誇る、刹那主義者であつた事、良く覺えてゐる。その彼が魔道に墜ちて久しい。
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〈トルマリンオパール飾り十月逝く〉
【ⅵ】
さて、そんな「道化」、今日も「それつて樂しい?」精神で動いてゐる。彼が安保卓馬を通じて、如何なるショウタイムを演出して見せるか、作者、とくと見届ける事としやう。カンテラがそれにだう絡むかも。「カンテラ、つひに『道化』と一戰か。樂しみだ」とルシフェル。續く。
PS: 卓馬がフラーイ「中毒」になつてしまつた件、安保さんは石田を憎んでゐた。兩親に會はせる顔がないではないか。正直彼がまともに大學受驗をする「目」は、今や殆どない。それもこれも、フラーイの花の淫樂のせゐではないか!




