21時の来訪者
宵五ツ半(午後9時頃)より少し前…
近江屋の扉をたたく音がした。
普通であれば、峰吉が帰って来たと思うだろう。だからと言って簡単に扉を開けては用心棒の意味がない。
「どなたですか?」
「拙者は十津川郷の某と申すものなるが、坂本先生御在宿ならば御意を得たし」
「お急ぎですか?」
もう遅いですよ?という意味を込めて急ぎの要件かと問えば、火急の知らせとの事。
嘘やんね?そもそもちゃんと名乗っておらんしね!
あまり焦らしても仕方ない。油断せずに戸を少し開けて覗けば3人の気配と隠れる音が…。物々しいことこのうえない。
殺気が抑えられてませんね。あんたらまさかの素人か?
有名人は居ない。…と思う。
名刺を渡されたけど、じっくり見てしまうと隙が生じそうなのでとりあえず通す。
「坂本先生はどちらに?」
建物に入った途端に中を見渡し油断なく俺に尋ねる津川郷の某。
ここで、階段を見てはいけない。二階だと伝えてしまうと叫ばれて仲間が駆け込んで来るだろう。
「来客を伝えて来ますので、しばしこちらでお待ちください。」
「…わかりました。」
入口を見ながら男が言う。戸は閉めたけどさすがに客を通してすぐにカギはかけれない。外からでも開けれる状態だ。
さて、どうしたものか?
入口から見えない階段下に隠した刀を手にして階段を登ろうとすると、男が入口の戸に向けて声を出した。
「入って来い!急げ!!」
戸口から3人の男が入って来た。
「ヤツは2階だ!そいつも殺っちまえ!!」
3人が抜刀して向かってくる。俺は一人目を蹴飛ばし、二人目と剣を交える。
「むっ!何だコイツ!?強いぞ!!?」
「逃げられちまうぞ!早くしろ!!」
「ほたえなや!」
二階から龍馬さんの声が聞こえた。
「お前らはニ階へ向かえ!こいつは俺にまかせろ!始末する!!」
3人が二階へと向かう為、俺の横をすり抜ける。鍔迫り合いしている男の視線が俺から逸れた。
「油断したな?」
「!!?」
相手の剣を払い上げ、素早く相手の脇差を抜くと心臓を一突きにした。
ドシュッ!!
「ぐあっ!!」
階段をのぼる一番後ろの男が振り返る。その男の喉元に向けて俺は下から突きを繰り出す!
「がぁ!!?」
「!!?」
「刺客です!2人居ます!!剣を抜いてください!!」
自分でも驚くほどの大声が出た。これで龍馬さんはともかく、中岡さんは応戦出来るだろう。
残る刺客は2人だ。俺は剣を引いて、落ちてくる男を避けて階段を駆け上がる。
入口で一人の男が倒れていた。残る一人と中岡さんが鍔迫り合いしている。
俺は躊躇せず、男の背中を袈裟斬った。




