第三章 プロローグ
淡金の光が、夜の帳を静かにほどく。
光は翼のように広がり、空気すらも祈りへと変える。
その中心に佇むのは、この世の理から乖離した、輝くもの。
触れれば消えてしまうほどに繊細で、見上げれば魂を浄化されるほどに崇高。
その姿を夢に見た者は、皆ただ跪いた。
心の最も深い場所が、無言のうちに許しを乞う。
瞳は閉ざされている。
だが、意識は深く、遠く、ひとつの影へと向けられていた。
――……可哀想な、わたしの子よ。
声は、音を持たない。それは風より柔らかく、水より深く、魂の耳に直接触れる。
――あなたは傷ついた。
砕けた心を抱えて、道を誤った。
――けれど、わたしは許しましょう。
まるで光そのものが囁くように、語りは続く。
優しさに満ちているけれど、その奥に潜むのは、絶対の意志。
拒むことはできない。否、拒むという概念が、初めから存在しない。
――必要なものは与えましょう。欠けたものは、満たしてあげましょう。
――けれど……間違ったものは、正さなければならないのです。
――それがすべての者にとっての、真の救い。
光が瞬き、彼女の周囲に蓮が咲いた。
ひとひら、またひとひら。白銀の花が虚空に浮かび、星のように散る。
その唇は笑っていた。 慈愛に満ちた、救いの神の笑み。
だが、それは優しさと同時に恐るべき審判の宣告でもあった。
――さあ、わたしの子。 もう一度、正しき場所へ帰りなさい。
――すべてを清め、すべてを赦し、わたしがあなたを、救ってあげましょう。
彼女の瞼が、ゆっくりと開く。
琥珀の光が、暗き世界を静かに、深く、浸して行った。