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Cradle 死神の祝福で不老不死になった少女が、愛と狂気の中で生きる話  作者: 源泉
第一章 不死の少女と風の街で交わる運命
7/281

1-6

※内容に変わりはありませんが、文章を整えました。

風の街に、異変が訪れた。

それを、エラヴィアは「風が匂いを変えた」と語った。


空気はひっそりと息を潜め、日々の喧騒はどこか沈み込んでいく。

街角を流れる噂だけが、静かに、しかし確実に人々の心へと染みわたり始めていた。



「……また神殿の神官が、一人消息を絶ったらしい」


「いや、遺体は見つかったらしいが、目も舌も喰われてたとか」



誰が言い出したとも知れぬ言葉は、まるで毒のように耳へ染み込み、見えない不安となって街を覆っていく。


ベルは静かに通りを歩いていた。


深くフードを被り、すれ違う者たちの視線を気にする様子もなく、ただ風の匂いに意識を傾けている。



――血と、焦げた油の匂い。



神の名を唱える者が、ひとり、またひとりと消えていく。

けれどこの街では、その異臭すらも、すでに日常へと溶け込んでいた。


ベルは塔へと向かい、静かに執務室の扉を押し開けた。

ラベンダー色の髪が、フードを取った瞬間にふわりと揺れる。



ベル「エラヴィア……街に、嫌な気配が満ちているわね」



書類に目を落としていたエラヴィアは、手を止めて顔を上げ、まっすぐにベルを見つめた。



エラヴィア「ギルドに出入りする声や、風の精霊も伝えている。

“黒き観測者”が、この街の空気を濁らせようとしているわ」



その声は低く静かで、風のように鋭い。



エラヴィア「彼らは、表向きには新任の司祭や旅の修道士を装っている。

でも正体は、神を否定する刃。

そしてこの街の異変の先に、狙いを定めているのは……あなたよ」



ベルはわずかに頷き、目を伏せて小さく応じた。



ベル「……平穏を望んだ分だけ、代償が来るのよね」



その声は穏やかだったが、深い諦念と覚悟が滲んでいた。

その声音だけで、彼女がどれほどの道を歩いてきたかが伝わってくる。


エラヴィアは窓辺に視線を向けながら、さらに言葉を重ねた。



エラヴィア「この街に漂う黒い気配は、ひとむひとつは大きな力じゃない。

でも、あまりに数が多すぎて……精霊たちの囁きさえ追いつかないのよ」



彼女は両手を軽く組み、少し眉をひそめる。



エラヴィア「さらに……数匹の“蛇”がこの街に入り込んでいる」


ベル「……《蛇の法衣》」



エラヴィアは頷き、その目がベルを見据え、警戒と覚悟の色を宿す。



エラヴィア「彼らはまだ、様子をうかがっている段階。獲物を見定め、狙いを定めてから動くはず」



ベルは視線を落とし、静かに呟いた。



ベル「エラヴィア……貴女とこの街に迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ないわ」



その言葉には、街の平穏を自分が汚してしまったことへの、深い悔いと悲しみが宿っていた。



その想いを受け止めながら、エラヴィアはやるせない表情を浮かべる。


エラヴィア「私もベルのためにもっと大きく動きたいのだけど、このギルドの長という立場がそれを許さない。

だからもどかしいのよ」



ベルは顔を上げて、ゆっくりと微笑んだ。



ベル「……あなたには、もう十分助けられているわ。あの燃え落ちた村での消耗も癒えたし、だから――近いうちに旅立とうと思ってる」



エラヴィアは静かに頷き、やわらかく微笑んだ。



エラヴィア「そう……あなたの行く道に、少しでも優しい風が吹くことを願っているわ」



そうして、静かな部屋に決意と優しさが満ちていった。


そのとき、外から鐘の音が響いてきた。

それは祈りを告げる鐘ではない。

死者を弔うための、冷たく重い音だった。

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