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Cradle 死神の祝福で不老不死になった少女が、愛と狂気の中で生きる話  作者: 源泉
第一章 不死の少女と風の街で交わる運命
6/274

1-5

※内容に変わりはありませんが、文章を整えました。

明くる日、ベルは塔の最上階、エラヴィアの私室兼執務室に呼び出された。

静かな空間には、彼女の風の魔力が、澄んだ気配とともに漂っている。



ベル「エラヴィア、なにかあったの?」



真剣な表情で問うベルに、エラヴィアは穏やかに頷き、低い声で告げた。



エラヴィア「……貴女を探る者たちが、動き出したわ」



その確信に満ちた口調には、揺るがぬ確かな情報があった。

風の街には日々多くの人々が出入りする。

そこに混じる噂話が、最初の手がかりだった。



エラヴィアの魔力は、風の精霊に深く愛される。

彼女の感覚が届く範囲では、風がさまざまな出来事をささやき、注意を促してくれる。

今回も、精霊の声がその気配を教えていた。



エラヴィア「“黒き観測者”と名乗る者たちよ」



そう言って、彼女は言葉を続ける。



エラヴィア「彼らは、神という存在を否定する。

信仰も、加護も、祝福さえも、彼らにとっては理を乱す異物。

この世界のすべてを“測れるもの”として捉え、それ以外は排除すべきだと考えているの」



そして――



エラヴィア「あなたも、その一つに数えられたのよ、ベル」



ベルは静かにその言葉を受け止めた。

自分が「死神の祝福を受けた者」と呼ばれていることは、すでに知っている。



ベル「……彼らは、いつから私を?」



エラヴィア「おそらくこの百年のどこかで。

彼らは比較的新しい集団だけれど、情報の収集力は侮れないわ」



神を否定し、恐れぬ者たち。

信仰も恩寵も通じない相手。

彼らにとって、神と等しく、“神に触れた者”もまた、排除すべき歪みに過ぎなかった。


ベルはわずかに瞼を伏せたが、顔に感情の影は見えなかった。

怒りも、驚きも、恐れさえも浮かばない。


――幾度となく追われ、拒まれ、滅ぼされかけてきた者にとって、それは当たり前の無反応だった。



エラヴィア「……厄介なのは、“観測者”だけではないことなの」



声の調子が変わる。静かで鋭い、警告のような響き。



エラヴィア「“あなたを利用しようとする者たち”も、動き出している」



ベルは目を細め、低く名を呼ぶ。



ベル「……“蛇の法衣”の連中ね」


エラヴィア「ええ」



《蛇の法衣》

それは、禁術や錬金術の探求に身を焦がす者たちの秘密結社。

目的は“知ること”。そのためには倫理も命も顧みない。

彼らは、不死の原理を暴き出し、自らの知識や肉体に組み込もうとする。


力として、薬として、素材として――。

彼らにとってベルの存在は、ただの“研究対象”にすぎない。



ベルの中で、過去の記憶が浮かび上がる。



何度も追われ、捕まり、非道な実験を受け、そして逃げ出した。

いくら追い払っても、蛇のように再び姿を現す彼ら。



ベル「……本当に、諦めが悪い奴らね」



吐き捨てるように言いながら、口元に皮肉を滲ませる。



ベル「前に見た顔は、もう誰も生きてないはずよ。……きっと」



誇るつもりなどない。

ただ、長い時を生きる者として、短命の者たちの執着を見下ろすような、静かな嘲りがあった。


不死を欲した彼らが、結局は“時”という名の死に勝てなかった――それだけのこと。



ベルはゆっくりと窓辺へ歩き、街を見下ろした。

漆黒の空の下、遠くの灯がいくつもにじんでいる。



ベル「この不死の体が欲しいなら、譲ってあげてもいいと思ってる。

……でも、また身体を切り開かれるのは、ごめんね」



その声は、どこか乾いていた。

痛みを語っているわけでも、怒っているわけでもない。

ただ、事実を口にしているだけのような、澄んだ声。



その背中を、エラヴィアは静かに見つめていた。


痛みも、怒りも、喜びさえも、すり減らしながらそれでも生き続けてきた少女。


そのすべてを知り、受け止める覚悟を持つ、唯一の友として。

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