2-25
何度も見た。
焼け焦げた皮膚、爛れた内臓、泣き叫ぶ声――
蛇の法衣の記録を音と光景とともに刻んだ魔道具。
ベルがどんな風に壊されて、どれほどの辱めを受け、どんな声で泣き叫んだか。
……何度も、何度も夜を越えた。
歪んだ愛をあの人形に吐き出した。
そして今、同じ姿が彼の腕の中にある。
だが、これは記録じゃない。生きている。
目を逸らさずに、ベルだけを見ている。
セラフ(ベル……どうして君は壊されて、踏みにじられても、その静かな美しさを持ち続けられるんだ)
怒りに囚われることも、神を呪うことも、世界を見下すこともなく、ただ真っすぐで、醜くなることを拒んだ。
その身体に指を這わせる。
柔らかい身体の感触を味わい、敏感な突起を舌で転がす。
外側から撫で、内側の魔力を絡ませ、螺旋を描くように舌を這わせながら――セラフは、ベルの中を掌握していく。
セラフ「全部、僕のものだ……誰にも渡さない、渡せない……」
魔力が体内で律動し、ベルの中でうねるようにセラフのそれと混ざっていく。
その律動に合わせて、ベルの唇から吐息が漏れた。
苦しみとも快楽ともつかない、けれど確かに――歓びの音。
やがて、すがるように、か細く震える声でセラフの名を呼ぶ。
ベル「……セラフ……」
その度にセラフの何かが満たされる。
セラフ「ベル……ベル……ベル……」
セラフは彼女の名前を、ひたすら呼ぶ。
呼ぶたびに、口づける。
唇を、まぶたを、指先を、胸元を、魂そのものを――
何度も何度も、祝福のように、執着のように。
深く、何もかもを焼き尽くすように。
セラフ「愛している、ベル……壊れるまで、ずっと…… いや、壊れても、その先でまた、愛してる」
魔力が限界を越えて暴れはじめる。
ベルの身体の奥から、甘い光がこぼれ出す。
それを、口づけで受け止めた。
味がした。
魔力の味が。
記憶の味が。
ベルのすべての味が――
そうして、彼はついに理解した。
この世界に祝福などいらない。
ただ、ベルだけがいればいい。
彼女の絶望も歓喜も、その身体の震えも、すべて自分ののものだと。
その瞬間、世界は静まり返り、彼らの律動だけが鼓膜に残った。
狂気と愛、そして魔が一つに溶け合った、絶対の調和。
ベルの熱を帯びた吐息が、律動に合わせて微かに震える。
声にならぬ声が喉奥から漏れ、また一度、セラフの名を呼ぶ。
その瞬間、何かがセラフの中で決壊した。
ゆっくりと、瞼を伏せ、額をベルの額にそっと重ねる。
熱と鼓動が、肌を通して混ざり合うような錯覚。
この名を、どれほど夢に見ただろう。
どれほど血にまみれた記憶の中で、この声を欲しただろう。
セラフの魔力がベルの内に深く入り込み、微細な震えと共に律動する。
彼女の反応一つひとつに、焼けるような歓喜が胸を突き上げる。
ベルの身体がわずかに強張り、抗うように揺れる。
それを見たセラフの表情は、凪いだ湖面のように静かだった。
――けれど、瞳の奥では狂気が燃えていた。 静かに、残酷なほど丁寧に、セラフは動きを重ねる。
ベルがふと、抵抗を止める。
受け入れるように目を閉じた瞬間、セラフの背にぞくりと震えが走った。
噛み殺したような息が漏れ、震える手がベルの頬を包む。
その指先が、触れるだけで壊れてしまいそうなほど優しい。
唇が触れ合う。
セラフは何度も、ベルの名前を呟くように、口づける。
声にならない名を、祈りのように何度も。
――これでようやく、すべてが繋がる。
切り裂かれ、壊され、奪われてきた時間の果てに。
この瞬間があれば、それでいい。
セラフは身体を深くベルの中へ侵入させる。
抵抗はなく、彼の魔力に満たされたベルの身体は溶けるように彼を受け入れた。
狂気はもう、静けさの中に溶けていた。