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2-22


中へ入ったセラフは、一歩ごとに呼吸を深めながら、まっすぐにベルへと手を伸ばした。


細い手足を掴み、ぐったりとした身体をそっと起こす。

そのとき、肌に貼りついた衣服が、濡れた音を立てた。


セラフ「大丈夫……これからもっと楽にしてあげるからね」


彼が懐から取り出したのは、銀と黒の繊細な細工が施された環状の魔道具だった。

魔力の流れを遮断し、術者による制御を強制するための、特別な拘束具。


セラフ「これは僕からの贈り物だよ。君の身体に、僕の魔を保つためのもの」


一つ、ベルの右手首に。

愛おしそうに皮膚を撫でてから、がちりとそれを固定する。


次に左手首、そして両足首へと。

同じように優しく囁きながら、ひとつずつ装着していく。


セラフ「ほら、これで君は僕のものだ。魔力も、魂も……全部」


――その時だった。


セラフの指が、ベルの服の上を撫でた瞬間、不意にその動きが止まった。


セラフ「……ん?」


空気がぴたりと張りつめる。布越しに伝わる、わずかな違和感。

そこに、確かに"誰か"の気配があった。


視線を落としたセラフの眉が、ほんのわずかに動く。


セラフ「これは……」


衣服の内側。胸元の裏地、あるいは腹部のどこか。そこに、微かに誰かの気配がある。


それはあまりに微細で、魔力の奔流に紛れていたが、今やセラフの魔力に反応し、薄く、だが確かに、存在を主張し始めていた。


囁くような声とともに、セラフの表情が変わる。

興奮と狂気に混じり、新たな色――“猜疑”がにじみ始めていた。


セラフの指先が、ベルの身体を覆っていた布に触れた瞬間、ぴたりと動きを止めた。

そこには確かに、微かにだが、別の魔力の痕跡があった。

それは魔力の残滓にも満たないただ、“他者”の存在を思わせるもの。


セラフ「……これを、君に?」


その声は細く、かすれた囁きだった。

だが次の瞬間、セラフの瞳が見開かれ、憤怒に染まる。


静かな殺意がその体を満たし、狂気がその唇を歪ませた。


セラフ「服を与えた? ――誰が? どこの誰が、君に……!」


手が震える。

魔力が暴れ、空気がぴしりと裂けた。

怒りが、憎悪が、そして――嫉妬が、セラフの思考を焼き尽くしていく。


セラフ「触れたのか……? 君の肌に、髪に、匂いに……男が……?

おぞましい……おぞましい、汚らわしい……っ!!」


叫ぶように吐き捨てた次の瞬間、布が引き裂かれる音が響いた。


セラフの手が、躊躇なくベルの衣を剥ぎ取っていく。

慈しむように、だが指先は激しく、憤りに震えていた。


セラフ「こんなものに君を包んでいたなんて…… 誰の許しを得て、君に触れた?

この肌に、誰が指を這わせた?


着せたのなら……脱がせたのか?その手で?」


言葉の一つひとつが、炎のように熱く、冷たく、病的に甘やかだった。


セラフの目に映るのは、もはや“ベル”だけ。

それ以外の存在はすべて、邪魔で、罪で、穢れ。


セラフ「君は僕だけのものなんだ。

僕だけが君に触れていい。 その肌も、息も、痛みも快楽も、全部、僕が与える。他の誰かに、許されてたまるものか……!」


そして――


セラフはベルの手足へと装着した魔道具が静かに彼女の魔力を封じ込めた事を感じる。

その瞬間激しい怒りは、その熱を保ったまま、それ以上の歓喜へと変わった。


セラフ「大丈夫、もう誰にも触れさせない。君を、閉じ込めた。完全に。

……君の中を、満たしたままで」


静かに、セラフはベルの身体を抱き上げた。


檻の外へ――今や、逃げることも、反抗することもできない彼女を連れ出し、 まるで聖女を扱うかのように、天蓋付きのベッドへとそっと降ろす。


絹のシーツに肌が触れ、柔らかく沈む。

ベルの身に着けているのは、両手足の魔道具だけ。

それ以外は、何もない。


セラフはその姿を、うっとりとした表情で見下ろす。


セラフ「美しい……君は、やっと、僕だけのものになった。

誰の気配も、誰の魔力も、もう君には触れられない。


……ようやく、本当の“始まり”だよ、ベル」


その声には喜びが溢れていた。

まるで、恋する少年のように。

けれど――その奥底に宿っているのは、正真正銘の狂気だった。


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