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Cradle 死神の祝福で不老不死になった少女が、愛と狂気の中で生きる話  作者: 源泉
第一章 不死の少女と風の街で交わる運命
26/316

1-25

※内容に変わりはありませんが、文章を整えました。

――木々のざわめき。

鳥のさえずり。遠く、葉を撫でる風の音。


ベルはゆっくりと目を開けた。


朽ちかけた木の天井。差し込む斜陽。

そして、柔らかく身体を包む毛布のぬくもり。



ベル(……ここは……?)



乾いた唇から、微かな吐息が漏れる。

身体はまだ重く、指先にさえ力が入らない。

それでもベルは、首をめぐらせ、焦るように辺りを見渡した。


粗末ながらも丁寧に整えられた室内――木造の小屋。

森の中か、山の中か。静けさと、どこか懐かしさすら感じさせる空気に満ちている。



ベル(……たしか……)



炎と悲鳴。

狂気の渦と、裂けた衣の感触。

記憶の断片が、胸を締めつけるように蘇った。



ベル(誰かが……触れた?)



その不安に、思わず胸が詰まる。


だがすぐ、視線の先。

ベッドの傍らに置かれた、清潔な衣服が目に入った。

落ち着いた藍色の旅衣。見たところ、彼女のサイズに合わせてある。



ベル(……助けられた?)



毛布をかき分け、ゆっくりと上体を起こす。

身体に痛みはない。


その時だった。

ギィ……と、軋む音を立てて、木の扉が開く。


逆光の中に、ひとりの男の影が現れた。



穏やかな瞳。

どこか疲れた笑み。

そして――その顔に宿る、わずかな後ろめたさ。



蛇の法衣の密偵。あの墓地で出会った男。



ベルの瞳が、大きく見開かれる。

けれど、言葉は出なかった。



カイル「……よかった。目が覚めたんだな、ベル」



自然に名前を呼ばれたことで、ベルの視線がわずかに鋭くなる。

あのとき礼拝堂で、名を名乗った覚えはない。



ベル「……どうして、私の名前を知っているの?」



問いを投げると、カイルはほんの一瞬だけ目を伏せた。

だが、隠す素振りは見せずに口を開く。



カイル「君が僕の前から去る前、あの礼拝堂で“ベル”と……確かに、そう言っていたよ」



その曖昧な返答に、ベルの視線が細くなる。

違う。あのとき、名は名乗っていない。


ならば彼は、別の経路で知ったのだ。

《蛇の法衣》の一員として、記録にでも残っていたのか。


警戒心が胸の内にわずかに広がる。

けれどそれでも、彼の顔には敵意はなかった。

むしろ、深く沈んだ迷いや、苦しげな痛みのようなものが見え隠れしていた。



ベルは思い出す。

あのとき――目が合った瞬間の、微笑み。

それが油断を生み、致命的な隙を生んだ。



ベル(……そのことを、悔やんでいる?)



しかし、死神の揺り籠で眠りについた場所から、ベルを運び保護してくれたのは、間違いなく彼だろう。



ベル「……助けてくれて、ありがとう」



ぎこちなくも、そう言った彼女に、カイルは小さく目を細めて微笑んだ。



カイル「本当に良かった。二日ほど、眠っていたから」



その声音が、やけにやさしかった。

ベルは一瞬だけ視線を逸らす。


胸の奥で、複雑な感情がざわめいていた。



ベル(……揺り籠を、見られただろうか)



あれは、自分にとって唯一の防壁。

魔力が尽きた時にだけ発動する、死神の守り。


彼女は知っている。

自分のこの現象が、常識では説明のつかない“異質”であることを。



ベル(……でも、この男が蛇の法衣の密偵なら――)



もう、とっくに知っていたのかもしれない。

“死神の揺り籠”も、その内側に在るものさえも。


それに、ベルの魔力を枯渇させた最後の魔導具の感触。

その気配についてもベルは疑問を抱いていた。


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