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Cradle 死神の祝福で不老不死になった少女が、愛と狂気の中で生きる話  作者: 源泉
第一章 不死の少女と風の街で交わる運命
19/313

1-18

※内容に変わりはありませんが、文章を整えました。

ベルが風の街を出て、一つ目の石橋を渡った、その刹那だった。


風が唸り、空間がきしんだ。

まるで大気そのものが拒絶の意志を持ったかのように、虚空が裂ける。


そこに現れたのは、漆黒の法衣に身を包んだ者たち――《黒き観測者》。


おそらく、街を出るすべての経路に転移陣を仕掛けていたのだろう。

どの門を選んだとしても、結果は変わらなかった。



ベル(……結局、こうなるのね)



ベルは足を止めた。遮るもののない街道の上、彼女を中心に沈黙が落ちる。



「観測対象を確認、記録開始」


「魔力反応、対象と一致」


「観測位相の確定完了、作戦を開始する」


無機質な声が次々と響き、命令が重なるごとに空間が歪む。


幾重にも重なった魔法陣が展開され、宙に淡い魔紋が刺繍のように浮かび上がる。

夜の静寂に、不穏な詠唱の声が染み込んでいく。



けれど、ベルは――静かに、一歩、前へと歩み出た。



無防備に見えるその動きは、逆にすべての魔術師を警戒させるには充分だった。



ベル「……道を開けて。そうしてくれるなら、あなたたちを傷つけるつもりはないわ」




だが、返る声はない。

観測者たちは理をなぞる儀式のように魔力を集束し、

無慈悲な光と熱が奔流となって放たれる。


魔法が轟音を立て、夜空を引き裂いた。


しかし、そこにベルの姿はすでにない。

閃光の狭間を、しなやかに舞うように、音もなく彼女は動いていた。



ベル(……この力、なぜ私は扱えるのだろう)



静かに湧き上がる魔力は、冷たく、深い底を湛えた湖のようだった。

それは怒りでも憎しみでもない。ただ“終わり”を告げる意志。


理解ではなく、感覚で知っている。

――自分の中にある、それは名前すら持たない祝福。

死神より授かりし“死の力”。


ベルが手を翳した。



赤紫の魔光が地を裂き、奔る。

その軌跡に触れた魔紋が悲鳴をあげ、結界は地面ごと書き換えられたように消失する。



「詠唱もなく、あの威力……」


「なんだ? まるで、最初から地面が存在しなかったかのような……」



動揺が走る。

表には出さぬ彼らの内側を、術式の乱れがありありと物語っていた。


理屈では知っていた。

“この存在”に手を出すのは危険だと。

だが、実際にその力を目の当たりにし、恐れが確信へと変わる。


ベルの瞳が、夜の深みに似た静けさを湛えたまま、観測者たちを見据える。

その手には、死の魔力が静かに、しかし抗えぬ力として形を成していた。



ベル「……道を開かせてもらうわ」



少女の声が、大気を震わせる。

それは攻撃でも反撃でもない――ただの、宣言。


瞬間、足元の地面が魔力の波で穿たれ、敵の陣形が崩れる。

ベルはその隙を突き、迷いなく駆け出した。


観測者たちはその奔流に一時ひるみ、崩れた地面の向こうで少女がひとり、静かに立っているのを見た。



「……想定を超えている。通常手段では対処不能」


「《深淵の瞳》を使用する。許可を」



その言葉を合図に、黒衣の一人が懐から金属製の小箱を取り出す。


蓋が開かれ、中に収められていたのは、血のように赤い宝玉。



《深淵の瞳》

それは対象の魔力を凝視する“目”を生み出す、禁忌の魔導具。


対象の内にある魔力を強制的に抽出し、観測・制御するために設計された神器であり、

通常の術者が扱えば精神や魂を摩耗しかねない、古代遺物に近い存在。


これは《黒き観測者》の幹部から、最後の切り札として託されただった。


「起動。対象の魔力を奪取する」



闇の中、赤い光が瞬く。


戦場が、次の段階へと移っていく気配があった。


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