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Cradle 死神の祝福で不老不死になった少女が、愛と狂気の中で生きる話  作者: 源泉
第一章 不死の少女と風の街で交わる運命
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1-14

※内容に変わりはありませんが、文章を整えました。

地の底のような静けさが、ベルの身体を包んでいた。


息を潜め、魔力を抑え、鼓動すら音を立てぬよう――己の存在を消してこの場所に溶け込む。

けれど、意識の奥底にある想いまでは、押し殺すことができなかった。



ベル(……また、巻き込んでしまった)



手のひらを見つめる。

あの時、塔の中で崩れ落ちたエラヴィアを助けようとしたとき、溢れ出たあの光。

それは、通常の魔力とは根幹から異なる、“祝福”とも“呪い”ともつかぬ、死神由来の力。

神性すら帯びた異質な輝きだった。


あの光景を目の当たりにした者たちは、もはやベルをただの旅人としては見ない。

《黒き観測者》は神に選ばれし存在ではなく、神意を乱す“異端”として彼女を追い、

《蛇の法衣》は彼女を、解き明かす対象として執着のまなざしで捉える。


長い時を生きる中で、相手が変わっても、似たような理由で追われ、逃げ、そして隠れ続けてきた。

関わった者たちは皆、何かを失い、人生を歪めていく。



――だから誰とも、深く関わるべきではなかった。



ベルは何度もそう悟ってきた。

関わった人々は皆、やがて彼女を残して逝く。

それが人の理ならば、ベルに課された理は、忘れられること。孤独に耐えること。



けれどその中で、エラヴィアだけは特別だった。

彼女は、最も長く共に時を過ごした、かけがえのない存在。



ベル(……エラヴィア)



優しすぎる笑みを思い出す。

時に姉妹のように、時にただの友として、何も言わず、ただ隣にいてくれた彼女。

言葉を交わさずとも、ベルの抱える孤独を、まるで自分のことのように理解してくれていた。


だからこそ、もっと早く離れるべきだったのだ。

もしエラヴィアに、自分のせいで何かが起これば、

その後悔を、ベルはまたひとつ、永遠に心に刻むことになるだろう。


 


夢の奥。

深く、深く――まるで水底に沈んでいくような、精神の海。

その中で、エラヴィアは静かに目を開けていた。



“誰か”の想いが、眠りの膜をそっと揺らしている。



澄んでいながら、凍てつくような孤独。

長い年月を、たった一人で彷徨い続けた者だけが抱える、決して言葉にはできない“痛み”。


それが誰の痛みかを、エラヴィアは知っていた。



エラヴィア「……ベル」



微かに唇が動く。まるで返事をするように。

その名を呼んだ瞬間、遠い記憶が波紋のように静かに広がっていく。


 


――まだ、共に旅をしていた頃。



夜の焚火を囲み、見上げたあの星空の下。



エラヴィア「……こんな星空、百年ぶりくらいかしら」



そう言って微笑んだエラヴィアに、ベルはそっと呟いた。



ベル「私は、覚えてないわ。星を数えても、時間がわからないから」



それは何気ないやり取りのようでいて、彼女の深く閉ざされた心の一端が垣間見える、静かな言葉だった。



しばしの沈黙のあと、エラヴィアは空を見上げたまま言った。



エラヴィア「……じゃあ、今夜の星を覚えておいて。

今日が始まりだと思えばいいの」


ベル「それに、何か意味があるの?」



問いかけに、エラヴィアは肩をすくめ、屈託のない笑みを浮かべた。



エラヴィア「意味なんて、なくていいわ。

いつ、どこにいても……今日、私と見たこの星空が、ベルにとっての“初めての星空”。

永遠を生きるなら、最初をどこに置いてもかまわないでしょう?」



ベルは言葉を返さなかった。

けれどそのとき、彼女の目に映る星は、ほんのわずかに滲んでいたことを、エラヴィアは、忘れずにいた。

 


礼拝堂の隠し部屋。

ベルは、そっと目を閉じていた。


そして、あの星空を眺めた夜を、まるで自分の夢のように想い返していた。

夢のように儚い、けれど確かな記憶の欠片。


共に焚火を囲んだ夜。共に見上げた、あの星空。



“今日が始まりだと思えばいい”



彼女がくれたその言葉が、今も胸の内で静かに響いている。



ベル(もう……動くべきなのかもしれない)



このまま身を隠していれば、次に狙われるのは、またエラヴィアかもしれない。


そう思った時、ベルの瞳が静かに開かれた。

静寂を裂くことのないまま、そこには、確かな決意の光が宿っていた。


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