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3-30

蒼銀の髪を持つ男――ナヴィと名乗ったその竜人は、細身の剣を静かに鞘へと納めた。

その仕草を見て、ノクスはようやく気づく。先ほどの一撃は、冷気の魔力を帯びたその剣によるものだったのだ。



ナヴィ「その様子だと、俺のことは聞かされてなかったようだな……まったく、あの方らしい」



ナヴィは深いため息をつきつつも、冷静な声で続ける。



ナヴィ「話は後だ。血の匂いで魔物が寄ってくる前に移動するぞ」



ノクスはまだ眠りに落ちたままのベルをそっと抱きかかえると、ナヴィに向けて一歩踏み出した。

その横顔に、ほんの一瞬視線を走らせる。



耳の形はエルフによく似ている。だが決定的に違うものがある。

細く整った指先に、鋭く光る爪。あれは人でも、エルフでもない。

竜の血を引く者――竜人族。


ノクスはわずかに目を細めた。

その顔と名前に、見覚えがある。記憶の底で、古い風が吹く。

かつて自分が“カイル”だった頃に出会った存在。


だが、ナヴィの瞳に迷いも懐かしさもない。

あの頃の自分をエラヴィアに聞かされ、知っているのか。

確かめるべき言葉が喉まで上がりかけて、ノクスはそれを飲み込んだ。

今ここで余計な疑念を生むわけにはいかない。何より、ベルが――


ノクスはまだ眠りに落ちたままのベルを抱きかかえ、無言でナヴィの後を追った。

ベルの身体には、戦闘で受けた無数の傷が残されていたが、その多くは既に癒え始めていた。

それが彼女にとっては“普通”だと分かっていても、ノクスは胸が締めつけられるような痛みを感じる。

そして同時に、何もできなかった自分への苛立ちが、喉の奥を灼くように込み上げてきた。



やがて三人は、山あいにひっそりと佇む廃村へとたどり着いた。

朽ちかけた家々が並ぶ中、比較的形を保った一軒の建物に身を潜める。


村の周囲には、かつての災厄の名残か、異形の魔物たちが数匹、徘徊していた。

だがそれらは、ある境界を越えることなく、まるで目に見えぬ結界を前に足を止める。

他の魔物たちもまた、まるでこの場所を忌避するかのように、近づこうとはしなかった。


それは――ベルが放つ“死の気配”。

不死なる彼女の存在は、死に敏感な魔物たちに本能的な恐怖を与えていた。



ナヴィ「……不死の魔女。エラヴィア様から聞かされてはいたが、実際に目の当たりにしてもなお信じがたいな」



ナヴィは、古びた寝台に静かに横たえられたベルの顔をじっと見つめながら、低くつぶやいた。

だがすぐに、鋭い視線をノクスへと移し、問いを投げる。



ナヴィ「……だが、あの瞬間――彼女に何が起きた? あの一撃の後、突然崩れ落ちた」



ノクスは答えに詰まった。

あの時、ベルの魔力はまるで断ち切られるように、突然その気配を消した。

魔力が尽きたのではない。

まるで見えない手に遮断されたかのように、突然、流れが止まったのだ。

泉の水源を塞がれたような、不自然な沈黙。


原因は分からない。だが、彼女に刻まれた“呪い”が関係しているとしか思えなかった。


ノクス「……わからない」


今のノクスに答えられるのは、それだけだった。


ナヴィは、変わらぬ冷静さで言葉を紡ぐ。



ナヴィ「まあ……それを確かめるために旅に出ると、エラヴィア様から聞いていた。今は、分からなくていい」



そう言ったあと、その声にはわずかな重みが加わる。



ナヴィ「だが、ノクス……お前は、彼女を守り通せるのか?」



その一言が、鋭く胸に突き刺さった。

あの場面で守られていたのは――自分のほうだった。

その事実が、ノクスの胸に沈黙を生む。


……そして、その沈黙を破ったのは、柔らかな声だった。



ベル「……ノクス……ここは?」



ベルが目を覚ました。



ノクス「ベル!」



ノクスは咄嗟に駆け寄る。

ナヴィもその後に続いた。



ベル「……あなたは?」



一瞬、警戒の色を浮かべたベルだったが、すぐに何かを思い出したように目を見開く。



ベル「蒼銀の髪の竜人……エラヴィアから何度か話を聞いたことがあるわ。会うのは初めてね」


ナヴィ「覚えていていただいて光栄です。うちのギルドマスターにも、少しは見習ってほしいものですね」



ナヴィはわずかに笑みを浮かべる。




ナヴィ「ナヴィ・シルヴァイス。エラヴィア様より、あなた方の旅に同行するよう命じられた」

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