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Cradle 死神の祝福で不老不死になった少女が、愛と狂気の中で生きる話  作者: 源泉
第一章 不死の少女と風の街で交わる運命
12/324

1-11

※内容に変わりはありませんが、文章を整えました。

扉の前で、ベルは一度だけ振り返った。

エラヴィアはまだ目を覚まさない。けれど、その表情は穏やかで、先ほどまでの苦しみは幾分和らいでいるように見えた。


静かに息を吸い込み、ベルは指先を掲げる。

淡く光る紫の魔力が空間ににじみ出し、ゆっくりと部屋の入り口を中心に広がっていく。


見えない結界が部屋全体を包み込むように張り巡らされた。


それはベルにしか扱えない、異質な魔力。

奪う力、終わらせる力。不吉な魔力。


その力を持つことが、死神の祝福を受けている根拠の一つだと、ベルも思っている。


だが、それが友人を守るためにならば、たとえ不吉な力であろうと構わない。


魔力の波はやがて静まり、扉の縁にだけ淡い光の痕跡を残して消えた。


それは、エラヴィアの眠る部屋を包み込む柔らかな、守るための檻。


この部屋の気配を奪ったことにより、エラヴィアの信頼するものにしか知覚できない状態となっていた。



ベル「この結界は、力を取り戻すまで、貴女を守るわ」



ベルはそっと微笑み、言葉を置いた。


返る声はない。ただ、どこか遠くから微かに風の音だけが響いていた。


扉を閉じるその瞬間、ベルの表情に一瞬だけ、年相応の柔らかな色が滲んだ。


けれどそれも束の間、すぐに消え去り、代わりに冷えた沈黙がその顔を覆う。



――黒き観測者が、この街で動き始めている。



街角の祈祷所が、理由も告げられぬまま閉鎖された。

人の絶えなかった露店は、ある日を境に影も形もなくなった。

そして夜になると、見慣れぬ修道服を身に纏った者たちが、通りを巡回するようになった。


表向きは、宗教団体から派遣された僧侶。

だが、彼らの目は一切笑っていない。そこには信仰の光も、救いの気配もなかった。



ベル(……聖職者の面を被った、狩人たち。黒き観測者)



ベルは顔を伏せ、フードを深くかぶる。

まるで、誰の目にも映らぬように。

そうして、冷たい石畳の通りを静かに歩いていった。


その背中を、誰かが見つめていた。

街の片隅、朽ちかけた工房の陰。

フードを目深にかぶった、錬金術師風の人物。


彼の着るローブの胸元には、金色に鈍く光る二匹の蛇と古代魔法の紋様がつけられている。



「あの魔法の残滓、あの少女が……」  



呟きは風に消え、彼の姿も闇に溶け込むように消えた。 



――ベルを追うもう一つの影、《蛇の法衣》の密偵もまた、動き出していたのだ。


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