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Cradle 死神の祝福で不老不死になった少女が、愛と狂気の中で生きる話  作者: 源泉
第一章 不死の少女と風の街で交わる運命
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1-10

※内容に変わりはありませんが、文章を整えました。

魔法ギルドの塔――その最上層にある私室で、エラヴィアは静かに横たわっていた。

容体が安定すると人々は部屋を後にし、静寂だけが残された。


カーテン越しの淡い光が、昼と夜の境を曖昧に染め、室内に柔らかな陰影を落としている。


その傍らの椅子に腰かけ、ベルはただ黙って彼女の寝顔を見つめていた。

呼吸は穏やかだが、魔力の揺らぎはまだ完全には収まっていない。


風の精霊たちが耳を澄ますように、空気には微かな緊張が漂っていた。


無理に引きずり出された魔力の痕は、確実にエラヴィアの身体を蝕んでいた。


街の空気を操る風の魔導師としての彼女の力を、誰かが意図的に利用したのだ。

魔力の流れを淀ませることで彼女を苦しませ――そして、それに反応するベルの存在をあぶり出そうとした。



ベル「……風の流れを操る者にとって、街の空気そのものが毒となるなんて」



ベルは小さく息をつき、静かに立ち上がった。


窓辺へと歩を進め、遠く街を見下ろす。

塔の上からでも感じられる――街に流れる気配の歪み。

目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。

だが、ベルには風の囁きが届くことはない。エラヴィアのように精霊と通じる術は持たなかった。


それでも、空気の重さ、光の鈍さ、そして魔力の痕。

それらが微かに訴えていた。

この異変はまだ終わっていない、と。


(……何かが、探している)


静かに意識を巡らせながら、ベルは確信した。

かつて自分を追って現れた、あの男。

聖職者を装った《黒き観測者》。


《黒き観測者》

神に由来する祝福や、世界の理から外れた存在を監視し、記録し、時に“排除”する者たち。

今まさに、彼らは塔の外を包囲し、気配を張り巡らせていた。


その視線の主たちは、もはや“確信”を得ている。

エラヴィアが命を削って隠し通そうとした“客人”こそ、異端。

神に与えられた祝福、死神から授けられた、不老不死の力を持つ存在。


ベルの気配は、通常の魔術的感知では捉えられない。

神の祝福によって変質したその存在は、世界の理から外れた“歪み”として存在している。

だからこそ彼らは、傍にいたエラヴィアを狙った。


そして、ベルが魔法を使った瞬間。

その力の痕跡を、あの男――潜入者の一人が確かに目撃していた。



ベル(……うまくやられたものね)



ベルは乾いた吐息を洩らした。

エラヴィアを救ったその行為が、同時に“異端”としての自分をさらけ出す結果となった。

神の祝福を受けた者、死を超越した者。

彼ら《黒き観測者》が最も忌み嫌う存在。



ベル「……迷惑を、かけてしまった」



その声は、彼女の胸の奥底から、自然とこぼれ落ちていた。

視線をエラヴィアへと戻し、微かに伏せたまま目を閉じる。


そして、静かに決意する。

この街を去らねばならない。


塔の外は、すでに包囲されつつある。

だが、脱出は不可能ではない。


問題なのは、これ以上ここに留まれば、ギルドが――エラヴィアが、再び危険に晒されるということだ。


彼女は知っていた。

“異端”として生きるということは、関わる者すら巻き込むということ。



ベル(……だから、私は)



静かに唇を結び、ベルは窓の外を見つめた。

遠く、まだ薄明の気配を残す空に、風がゆっくりと揺れていた。


次の波が近づいている。

それはもう、すぐそこまで来ている。



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