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氷の呪いと吸血鬼  作者: 二刀
第一章 黒鱗の龍
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六話 星へ届け

 歌声が聞こえる。私たちは玖炉と戦っていた。弾丸を避けながら、反撃の隙を窺う。

 そんな中、レイスとローベイルが戦いに中で通路から外れた。

「これで使えるね」

 玖炉がそう言うと、博士が身構えた。


科学魔装完全解放テクノマギア・フルリリース銃腕魔弾機装(ミリオンバレッツ)千滅魔光砲(サウザンバレル)

 玖炉が回転式機関砲(ガトリングガン)の力を解放する。それと同時に、博士はその腕を握った。


科学魔装完全解放テクノマギア・フルリリース鉄拳蒸気機装スチーム・デストロイヤー魔力粉砕機ステゴロバンカー

 博士がそう言うと、鉄の両腕からマフラーのようにたなびいていた煙が、水色のぼやけた魔力光を放ちながら周囲に拡散する。それが周囲の空間を包んだ。淡い光が、寂れた廃工場をさみしく照らしている。


「ボクが知ってるのとちがう力だ。改造でもしたのかな」

 玖炉がそう言うと、博士は「ああ」と頷いた。玖炉は懐かしそうに微笑んだ。

「そうだろうね、いつだって君のは特別製だった」

 玖炉はそう言いながらガトリングガンを博士に向ける。

「でもダメだ、名前もダサいし見かけは地味すぎる。どんな効果か知らないけど……ハッキリ言って負ける気がしないよ」

 大口を上げた笑顔と共に、銃身は回転を始めた。


爆ぜる弾丸(ボンバーバレット)

 銃口が赤色の魔力光を放ち……淡い水色の煙に触れて消えた。魔弾は放たれなかった。

「な……」

 驚いている玖炉に博士はゆっくり近づく。そして至近距離で拳を構えた。

「すぐ調子に乗るのは相変わらずだな」

 そう言いながら、玖炉の体を拳で撃つ。壁まで吹き飛ぶ体。ガシャンとぶつかる音が聞こえた。玖炉はバタリと倒れた後、ガトリングガンを床につけて立ちあがった。

「なるほどね」

 玖炉が血を吐きながら笑った。博士はそれを見て自慢げに笑った。なんでこんなに嬉しそうなのだろう。きっと、彼ら二人にしかわからない。

 だがこの二人のやりとりはどこか懐かしい。


「蒸気に付与した魔導特性は、外部からの魔力エネルギーを分解、バラバラにする。その蒸気が支配する空間は、まさに魔法から守る掩体壕(バンカー)……そんなとこだろ?」

 玖炉がそう言うと、博士は近接戦には邪魔な眼鏡を取り外した。そして博士は走り出した。


「ああ、すごいだろう!」

「失敗作だよ!」

 玖炉が強く言った。

銃腕魔弾機装(ミリオンバレッツ)で撃てる魔弾は百万種。対抗策は山ほどある」

 そう言いながら正面にガトリングガンを向けると、黒い眼を見開いた。


石礫の弾丸(ストーンバレット)

「魔力を物質に変換すれば打ち消せない」

 玖炉がそう言うと、ガトリングガンから石つぶてが放たれる。博士はそれを機械の手で防ぐ。博士は前進を止めない。

 玖炉は壁に銃口をつけた。


土竜の弾丸(モールバレット)

「壁中、地中を移動する弾は煙に触れず攻撃できる」

 床が割れ、焦げ茶の魔力光が博士の足下にさした。光は博士の足を貫き、博士は地面に倒れ込む。だが、博士は立ち上がりもう一度走り出した。


強撃の弾丸(パワーバレット)

 玖炉がそう言うと、右腕と右肩の銃口は白く輝いた。博士は少し首筋に汗を浮かべた。

魔力粉砕機(ステゴロバンカー)、収束!」

 煙が博士の周囲すぐ近くに集まっていく。集まった煙は濃度を増した。玖炉は左腕と左肩の銃口をこちらに向けた。


追跡の弾丸(チェイサーバレット)

 緑色の光が煙をかいくぐりこちらに向かう。

 博士はこちらを一瞬振り向いて、その後すぐに前進を続けた。

「強大な力は収束させなきゃ受けきれない。収束させたら守備範囲は下がる」

 玖炉はそう言った。白い光は煙に塞がれ消えた。だが緑の光は私の目の前まで近づいた。私はその光を躱すが、執拗に追いかけてくる。

封印解除(ディスペル)

魔性の冷血(ホワイティブラッド)

 シロがそう言いながら自らの手に噛みついた。地面を伝う血が突き出す氷となり、壁となって私を守る。

「ありがとう」

 私がそう言うと、シロは静かに頷いた。


「近づいたぞ!新屋敷!!」

 その言葉と共に博士は拳を握り、踏み込んだ。

石礫の(ストーン)……』

 そう玖炉は言うが、石つぶては放たれない。玖炉の体は煙に包まれて、顔はよく見えないがそれでも焦りが伝わった。

「この距離この濃度なら、魔力の起こりすら潰せる!」

 博士が顔面に一撃入れると、玖炉の体は壁を突き破った。


 物置のような、広いくらい部屋で玖炉は倒れている。博士は玖炉に近づくため足を踏み出した。

鉄鎖の弾丸(チェインバレット)

 博士の体に鎖が巻き付いた。その鎖に引きずられ、博士は破られた壁の向こうに引きずり込まれる。私たちは走って追いかけた。

 玖炉は立ち上がり、砲身を振りかぶる。博士は咄嗟に頭と胸を守ったが、玖炉は博士の腹に銃口を押しつけた。

「ボクの勝ちだ!!」

 玖炉が笑った。銃口と敵の体を密着させてしまえば、確かに煙に触れることもない。


「さよなら、錬司」

貫通の弾丸(ペネトレイトバレット)!』

 何発もの弾丸が、博士の腹部を貫通する。博士はその場で倒れた。止めを刺そうと、玖炉は博士の頭を狙う。


 私はその間に割って入る。玖炉が銃身で私を殴り飛ばす。同時に、玖炉の頭上に氷の塊が降った。

 玖炉は両肩のガトリングで迎撃し氷を破壊する。シロは玖炉の背後に立ち氷の刃を向ける。玖炉は振り向いて砲身で刃を受け止め、距離を取った。玖炉は見るからに息切れしていて、足下もふらついている。頭からも口からも血が流れ出し、顔は血まみれになっている。

 私たちは博士を守るように、倒れた博士の前に立った。


 玖炉は注射器を取り出し、その細い首にうった。歌声が聞こえた。懐かしい声だ。玖炉は機関砲の両手を広げて気持ちよさそうに歌っている。一通り歌い終えて、玖炉はこちらを向いた。

「ああ、頭がすっきりする。ボクにはなにも無駄なものがない。やっぱ強いのやんなきゃなあ……」

 うわごとのように呟く瞳の焦点は合っていない。

「それで、どうやってボクを倒すの?君たちが、どうやって?なあボクの勝ちだろさすがにこれはぁー」

 玖炉は足下がふらついて、倒れそうになった。

「あ」

 玖炉が倒れそうな体のバランスを取りながら呟く。

「ちゃんとやんなきゃ」

 玖炉の瞳の焦点が合った。

「星を見ようぜ」

 玖炉が狂気的に笑った。私はその言葉を何処かで聞いたことがある。


「星……」

 私がそう言うと、玖炉は我に返ったように真面目な顔になった。そして、また歌い始めた。どうやって勝てば良いのだろうか。私は考え続ける。ガトリングガンを見つめ、そして気づいた。

「シロ、銃の付け根を狙って」

 私がそう言うとシロは頷いた。魔力の流れが銃の付け根でたまっている。恐らくそこが魔力変換装置。それを壊せば銃の動きを止めるはずだ。


 Twinkle, twinkle little star,


 歌が聞こえる。やはり聞いたことがある。玖炉の歌声は、少しさみしそうな気がする。

 シロと私は玖炉に向かって走り出した。そして私は援護のため呪文を唱え始めた。


『山猫、あなたを追いかけて』

 詠唱を始めると、何発もの弾丸が放たれた。シロはそれを氷で防ぐ。銃弾が『貫通の弾丸(ペネトレイトバレット)』に切り替わるが、シロの体に空いた穴はすぐに再生する。


『駆け抜けあなたへ真っ直ぐに』

 シロは氷で翼を作り、広げ、飛んだ。速度は上昇し、一直線に矢のように向かう。『爆ぜる弾丸(ボンバーバレット)』をシロは防ぐ。私も守れるように、シロは氷を張り巡らす。氷が砕ける、舞い散り、シロの肌を軽く切る。

 再生がされていない。


『何故急ぐのか、鳥は聞く』

 防ぎきれなかった弾丸がシロの右腕を吹き飛ばした。再生されない。血と魔力の全てを、氷の生成に注いでいるからだ。


『飛べるあなたへ届くため』

 近づく程に弾幕は濃くなる。次第に氷の生成量も多くなる。打たれながらも近づいていく。シロは無理をしているように思えた。


風追い人(アッガーテ)

 シロの体は加速する。そして玖炉の目の前に届いた。一歩後ずさる玖炉。だが、シロの方が動きは早い。氷柱(つらら)が四方八方から玖炉に襲い掛かる。左腕のガトリングが、下からの氷柱に突き刺さった。ちょうど魔力変換装置の場所だ。


 玖炉はすぐに右肩のガトリングでシロを撃った。シロの体は吹き飛び、倒れる。気絶している。再生はしているが、遅い。血の使いすぎで再生が難しくなっているのだろう。

 だが、私は玖炉に向かって走り続ける。

 私はシロ残した氷の壁で身を守り、走りながら詠唱を始める。私の使える最強の魔法を。


『炎地風水、天を指す。五大の力の途次(みちすがら)

 玖炉が後ずさる。そして、銃を乱射する。一本分弾幕は薄くなった。幸い防ぎやすい。


『欠片を貸してはくれないか。あなたの力が道しるべ』

 私は玖炉に近づく。玖炉の顔には冷や汗が浮かぶ。この魔法の危険性。玖炉も承知でいるらしい。


ことごとく空に尽きる者。曇りゆく空と来たる者』

 私は玖炉の懐に潜り込んだ。しかし銃身で殴られる。それでも私は踏みとどまる。踏みとどまらなければならない。


『神の名前を呼ぶために、(こうべ)を垂れてもよろしいか』

 何度も何度も、銃身に体を打たれる。少し、後ずさってしまった。だが詠唱は止めなかった。


天響(ゼンドレーラ)

 莫大な光が、私と玖炉を包む。私は左腕が吹き飛び、玖炉は右腕のガトリングが消し飛んだ。私は反動で体が動かせない。魔力切れで今にも倒れそうだ。

 肩のガトリングが私を睨む。もう一歩踏み込めば、全て壊せていただろうか。


 撃たれる。そう思ったとき、私の体は水色の煙に包まれた。煙が私を守った。

「なんで、なんで立つんだ。内臓がズタズタだろ」

 玖炉がそう言った。博士が、体をよろめかせながらも立っていた。私が振り向くと、博士は私に血液パックを投げ渡した。

「当然。勇者だからだ」

 博士がそう言うと玖炉が激昂する。肩のガトリングで乱射するもそれらは全て煙に阻まれ届かない。


「なんでまだそんなことが言えるのさッ!忘れられたろ?呪われたろ?酷い目見たろッ!?」

 玖炉は怒っている。しかし、動きは冷静さを取り戻していた。博士の拳を玖炉は防ぎ、躱す。玖炉が放つ『石礫の弾丸(ストーンバレット)』も、博士が巨大な機械の腕で防ぎきる。

「讃えられずして何が勇者だッ!幸せになれずしてッ!」

 玖炉の言葉を意に介さず、博士は大きく踏み込んだ。玖炉の懐に入り込み、胸ポケットから魔力増幅剤と思われる注射器を奪い私に向かって投げた。私はそれを自分の首に打ち、魔力を回復させた。そして、倒れていたシロの口に血液パックの血を注いだ。再生が少し速くなった。


「そんなもののために、君は戦っていたのか?」

 博士の問いに、玖炉は固まる。泣いているようにさえ見えた。

「ボクは……ただ星へ……」

 そう、玖炉は寂しげに言う。博士は拳を構える。水色の煙が機械の右腕に吸収され、光は色を変え、白く、強く輝く。おそらく魔力特性が変更されている。白い光は、単純な高出力のエネルギーを示す。星がここに降りたかのように光が瞬き続ける。

 星……やはり、私は何かを覚えている。

「これは……」

 玖炉がそう言った。咄嗟に左腕のガトリングガンで拳を止めようとする。


科学魔装完全解放テクノマギアフルリリース旧式使用(ダウングレード)!』

鉄拳蒸気機装スチームデストロイヤー秘伝星光拳メテオライトブレイカー!』

 閃光とともに一撃が叩きこまれる。玖炉の体は吹き飛び、左腕のガトリングは砕け散り、足はひしゃげて立てなくなり、仰向けで天井を見つめていた。


「ボクの勝ちだ」

 玖炉は言った。

 博士の右腕も砕け散り、気絶した。自らが放った強大な力に耐えられず、倒れた。

 そして、玖炉は仰向けのまま歌い始めた。

 私も一つ歌いたい気分だ。絶体絶命の状況だというのに、やけに気分が良い。というより、現実から浮いているような感覚……魔力増幅剤の副作用だろう。


 私も、歌ってみる。そして、思い出した。

「何してるの?」

 そう、再生が終わり復活したシロが聞いた。

「私、あの子と星を見たんだ」

 シロが、驚いた顔をした。そして、シロが口を開いた。

「そこに、私も居た……」

 私たちは、『思い出した』のだ。


追跡の弾丸(チェイサーバレット)

 玖炉がそう言うと、緑の光が襲い来る。何発も降り注がれるそれは、流星群のようにきれいだ。シロが氷で弾丸を防ぐ。

「私には、特別な力がある」

 私はシロにそう言った。そう、レイスが言っていた。

「そして私は、鍵」

 シロがそう言うと、私に手を差し出した。

「手を繋ごう」

 シロが、真剣な顔でそう言う。弾丸が輝いて飛び交う、夜空のような景色の中で。

「え?」

「私の中で、『思い出せない』がそう言ってる」

 私がシロの手を掴むとシロは呟くように言葉を口にした。


開け(ディスペル)

 私の体が何か変わった。最初は、氷の呪いが解けたのかと思ったが、違った。眼だ。

天の左眼(ゼンド・リリール)

 私はそう言った。頭に流れ込んだこれが、私の能力名なのだと思った。

 私は、昔から眼が良かった。理由は今わかった。私の瞳は、特別なのだ。

 私の視界内で、物体が組み立てられていく。私がここにあるべきだと思ったもの。それを見た瞬間、玖炉の攻撃が止まった。


「プラネタリウム……」

 玖炉が呟いた。私が産みだした投影機によって、暗い部屋に星空が映されていく。

「一緒に、星空を見るんだ」

 私がそう言うと、玖炉は歌い出した。

 Twinkle, twinkle little star……

 顔は見えないけれど、きっと、泣いているのだと思った。私も一緒に歌った。

 シロが、玖炉に歩み寄った。



閉じろ(スペル)

 そう言いながら、シロは両肩のガトリングに触れる。

 両肩のガトリングは氷へと変わった。私の体を包む、氷の呪いのように。

 そんなことを意にも介さないように、玖炉は歌っていた。星空を見て泣きながら……

 忘れていたはずの私の脳に、記憶が(よみがえ)る。


「人はさ、宇宙に行けるらしいんだよ」

 玖炉が言った。その時の顔も、声も『思い出せない』。ただ、星空を見てた。多分そこにシロも居た。

「もうじき、民間人を乗せての飛行も可能になる」

 玖炉は続けた。「そうなんだ」そう返したのが私かシロのどっちかは『思い出せない』。「詳しいんだね」私たちのどちらかがそう言うと、「そうでもないよ」と玖炉が言った。


「星、好きなの?」

 これを言ったのは、なんとなくシロだったと思う。

「万年曇りの魔界領退廃地区で、初めて星を見たのは忍び込んだプラネタリウムの中だった」

 玖炉は語り始めた。表情は『思い出せない』。

「ボクに気づいたお姉さんが、それでも星空を見せてくれたのさ。そんで、この話をしてくれた。それで、いつかボクもホントの星が見れるって言ってくれたんだ」

 玖炉は話を続ける。そして一番強く光る星に手を伸ばした。


「本物の星って、ボクは初めて見るんだよ」

 そう言って、広げた手を握った。

「あの星に届きたいんだ」

 人々が星にたどり着くまで、世界を終わらせない。それが玖炉の誓いだった。

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