3 彼女に夢中
ロイ視点です。
キャスリン編で起きていた時の裏側、そして他のキャラクターの深掘りのようなお話となっています。
愛しの女神の写真を出してきた時点で、俄然ミレイユ嬢が怪しく思えてきた。
今年の新年度に開かれた新入生歓迎パーティーに出席した見知らぬ彼女。まだうろ覚えではあったが紫色のドレスは今もロイの記憶の中で鮮烈に残っている初恋のあの人。
なぜミレイユ嬢は彼女の写真を持っているのか?
なぜよりにもよって愛しの女神なのか、ミレイユ嬢はこの写真を何に使う為に撮影したのか、気になることは山ほどあった。
しかし彼女はそういった具体的な内容にはほとんど答えようとせず、ただ「目に留まった何人かの女性をたまたま撮っただけ」としか言わない。仮にそうだとして、なぜ彼女がロイの想い人だと思ったのか。
考えれば考えるほど目の前で取引を行おうとしている後輩が少し不気味に感じられた。
「お互いに協力する気になれました? 私は結構顔が広いんです。ほとんど両親のツテですけれど。でも調べることは結構得意なので、ロイ様にとって損はないと思いますけれど」
「それじゃあその得意分野をどうしてセラに活かせないんだ。調べることが得意ならセラのことも自分で調べればいいだけの話じゃないか」
「セラ様って秘密を隠すのがとても上手いんです。これでも結構色々調べ回ったりしてたんですよ。でもわかったことはセラ様が公爵家の人間であることと、よく一緒に過ごしている友人のことだけ。プライベートなことって誰にも話してないみたいなんです」
そう言われれば確かにそうだ。セラは聞かれたことにしか答えない節がある。聞いても誤魔化して答えてくれないことの方が多い。ロイはセラとは親友同士だと信じている。そのロイですらわずかな情報しか知らないのだから、滅多に会話をしないような他の生徒などに自分のことをペラペラと話しているのは考えにくかった。
「それでも本人の承諾も得ないで簡単に話すのは気が引けるよ」
「別にプライバシーを侵害するような情報まで教えろなんて言いませんよ。私もセラ様に嫌われたくありませんから。ほんの些細な情報を教えてくれたらいいだけなんです。そうですねー、まずは好みのタイプとかどうです? これなら別に侵害の領域まで行かないと思いますけれど」
「本当に個人を侵害するようなことは喋らないからな、僕は」
「なら私も男爵令嬢の住んでる場所までは言わないようにしますわね」
「住所を特定してるのか!?」
「たまたまですわよ。お父様にロックハート男爵について何気なく訊ねてみたら、知り合いだから教えてくれただけですわ」
ミレイユ嬢の言葉にロイは息を呑んだ。こうまで簡単に女神に関しての情報が入ってくるということは、案外手の届かない存在ではないような気がしてきた。運命の出会いや偶然に身を任せていたとはいえ、もっと遠くの存在で、必死に探さなければ永遠に会えないような女性だと思っていたから。
とにかくミレイユ嬢の言いたいことは分かったとして。ロイは自分がどう動けば誰も裏切らず、傷付けず、関係を壊さないように出来るのか。そればかりを考えた。確かに初恋の女性にはどんなことをしても再会してお礼を言いたいと思ってはいたが、親友を裏切ってまで望んでいたわけじゃない。
自分の常識の範囲内となってしまうが、ロイがセーフだと思える内容なら大丈夫だろうと言い聞かせ、とりあえずミレイユ嬢の交渉を受けることにした。
「分かった。それでいい。でも僕がセラに関して何でもかんでも答えるなんて思わないでくれ。さすがにアウトだと思ったら何も言わないからね。いいかい、それはミレイユ嬢も同じだ。キャスリン嬢に関する情報で、彼女の嫌がりそうなことだけは絶対にしないと約束するんだ」
「分かってますよう。それじゃあ、2人で結託しましょうね。よろしくお願いしますわ、オルファウス子爵令息様」
それからというものロイは月に数度ミレイユ嬢から呼び出されてはセラに関する情報を聞かれるようになった。ロイは確かにキャスリンに関する情報が欲しかったが、彼女の了承なしに色々と聞き出すことに抵抗を感じ始めてから詳しく聞くことは断るようになっていた。
しかしミレイユ嬢はセラに関することなら本当になんでも欲しかった様子で、選択科目で仲の良い者は誰なのか、行きつけのお店などはあるのか、最近ハマっている本があるのか、など。どうでもいいことから若干プライバシーに関わることまで、ロイの顔色を窺いつつ情報を仕入れることに躍起になっていた。
最初こそお互いの情報交換ということで言葉を交わしていたが、それも半年経てばいい加減うんざりしてきたロイは積極的にセラの好みを探ろうという行動を制限するようになった。
(あの時の僕は一体何を考えていたんだ。愛しの彼女に関する手がかりが掴めると思って安易に受け入れてしまったのが失敗だった。まさかこんなにマメに聞かれることになるなんて思わなかったしな……。それにしても情報収集はミレイユ嬢の方が得意そうなのに、どうして僕なんかを使ってセラのことを知ろうとするんだろうか)
かねてからの疑問だった。セラに関する質問が本当に「知り合いなら知ってて当然なもの」ばかりだったので、その思いは募るばかりだ。それなら同じ創作クラブのメンバーなのだから後輩として堂々と本人に聞けばいいのではないか、という考えしか浮かばない。
ロイ自身もキャスリンに関することを控えた為に、なぜミレイユ嬢と密会みたいなことをしなければならないのか、その必要性を感じなくなってきた頃だ。
「キャスリン男爵令嬢、来年度の新入生歓迎パーティーに出席することになったみたいですわよ」
ミレイユ嬢の一言で覆された。
悩んでいたことが一瞬で消え去り、愛しの令嬢に再会できるかもしれないという気持ちでロイの脳内は満たされる。ミレイユ嬢が自分に何を聞いてこようが、親友の嫌がることさえ話さなければもうそれでいいじゃないかと思った。
これで愛しの令嬢に再会し、ずっと言おうと思っていたお礼と告白、それらがやっと出来るかもしれない。出来たならばもうミレイユ嬢のことで頭を悩ませることもなくなる。これで解放されると思った。
「えぇっと、色々とありがとう。あの、それじゃあとは自分でなんとかするから。ミレイユ嬢は、セラに関することはもう……」
「またたまに相談に乗っていただこうと思っていたのですが、ご迷惑だったかしら?」
「迷惑というか、いやもう本当にこれまで話したこと以上の内容は僕から聞き出せないよ? セラは本当に自分のことを積極的に話したりするような男じゃないからね。限度があるよ。本当にこれ以上は無理だから」
「情報収集しようという話ではありませんわ。私はこれからも時々恋愛相談に乗ってもらえたらって言っているだけですの。他の女子達と話すのはあまりにライバルが多すぎますし、だからといってセラ様と特に親交が深いわけではない男子も、その……」
ミレイユ嬢が言い淀む理由は想像できた。ミレイユ嬢は今では創作クラブ内でのマドンナ的存在にまで昇格していたのだ。恐らく男子部員の9割はミレイユ嬢を狙っているだろう。それもこれもミレイユ嬢が八方美人に部員と親しく会話をし、笑顔を振りまき、対等に接してきた結果だった。
(うちの部員は女性に対して奥手な男子が多いからな。会話の内容もかなり偏っているから、相手を選んでしまうような連中ばかりだ。そんなところに全てにおいて完璧な令嬢によって会話を弾ませられたら、そりゃ勘違いを起こしてしまうだろう)
要するにロイ以外にセラに関する恋愛相談が出来る相手がいないのだ。そう察したロイは非常に困ってしまう。自分としては他人の恋愛相談に乗れるほど恋愛上手でもなければ経験も豊富なわけではない。むしろ自分がご指南願いたいくらいだ。ましやて相手は部活のマドンナ。ロイには他に心に決めた相手がいるのに、他の女性と一緒に戯れる気にはなれない。それはセラが本命のミレイユ嬢にも言えることだろうが。
「あー、それじゃあ。本当に困った時だけにしてくれないかな。君だってあんまり僕と一緒にいるところをセラに見られたくないだろう?」
「大丈夫ですわ。私の心はセラ様だけにあるんですもの」
(いやだから君がそういうつもりでも、セラがそう都合よく受け止めるとは限らないだろう)
以前から思っていたことだが、どうもこのミレイユ嬢とは時々話が噛み合わない時がある。そういう時は結局ロイの方から折れて彼女が話し終えるのを待つだけなのだが。
結局ミレイユ嬢が屈することはなかったので、ロイははっきり断ることが出来ないまま今回の会合はお開きとなった。それよりもロイはこれから再会出来るかもしれない愛しの令嬢のことで脳内を花畑にすることに専念しようと思った。彼女のことを考えれば幸せな気分でいられる。例え振られてしまったとしても、お礼さえ言えればいい。
「来年度の新入生歓迎パーティーまであと少し。それまでに男を磨いておいて、彼女に少しでも気に入ってもらえるようにしないと!」
相手は自分より年上の女性だ。ならば学生気分でヘラヘラしているような男なんてきっと相手にしないだろうと考えたロイは、勉強に専念し、少しでも良い就職先が見つかるように卒業後の自分の進路にまで考えを巡らせた。
一人前の男として認めてもらえるように、頼りない年下の男だなんて思われないように、苦手なトークスキルも磨いておかなければ。そう考えるとパーティーまでの数ヶ月が短く感じられた。
***
パーティー当日、ロイは黒髪をオールバックにして大人の雰囲気が少しでも出せるように試行錯誤していた。その結果がオールバックというのも情けない話だが、身なりを整え、いつ再会してもうまく対応出来るように万全の状態でパーティーに臨んだ。
この日はまたしてもギャリーはガールハントに精を出し、セラはパーティーを欠席していた。
ロイはきょろきょろと周囲を見渡し、それらしい女性がいないかどうかずっと目を光らせている。そんなロイの様子に異常さを感じた女性陣は、ロイから避けるように他の男性出席者の方へと逃げていく。他の女性が自分をどう思おうと関係がない。まずは愛しの令嬢を見つけることが何よりも優先されることなのだ。
今回は絶対にお酒を飲むまいと決めていたロイ。ウェイターから差し出されるグラスを断りながらうろうろしていると、ふとベランダの方へと歩いていく女性が目に入る。そういえば初めて彼女に話しかけられたのもベランダだった気がした。あの時はロイが先にベランダで気分を悪くしていたところに、彼女が来てくれただけなのだが。
もしかしてと思い、ロイはウェイターからグラスを2つ受け取った。間違えないように利き腕で受け取った方がノンアルコールの方だと頭の中に叩き込む。二の舞だけは許されない。
それからドキドキと胸を躍らせながらベランダで佇む女性に近寄っていく。
うろ覚えでしかないが、彼女の雰囲気はあの時の女性を思わせた。
「あの、ロックハート男爵令嬢ですよね」
緊張で声が震えていないか、力が入りすぎて変に声が張っていないか、自分の一挙手一投足に全神経を集中させるロイ。人は第一印象が最も重要であることはよく理解している。だからこそ最初の雰囲気を壊してはならない。それによって彼女の自分に対する評価が大きく変わってしまう。そうなってはどうしようもない。ロイは今日ここで彼女に愛の告白をするつもりでいるのだから。
目の前の女性が振り抜くと、頬が紅潮している彼女の肌は月明かりに照らされて、まるで象牙色の肌が強調されているようであった。とても美しかった。美の女神とはまさに彼女のことを言うのかもしれない。
突然声をかけられて驚いた彼女が慌てふためきながら返事をする。その様子もとても愛らしかった。妙に落ち着いて男性との会話に慣れている女性が、ロイにとっては逆に苦手だった。自分の未熟さを見透かされているようで、子供扱いされているようで、どうにも居心地が悪くなってしまう。しかし彼女にそういった様子は見られない。
皮肉や嫌味ではなく、むしろロイにとっては好感度が増すばかりだった。
「突然声をかけて失礼しました。初めまして、僕はレイリック学院3年のロイ・オルファウスです」
緊張していそうな彼女を見ていたら、ロイ自身の気持ちが落ち着いてくるのがわかる。動揺を隠しきれていない彼女を見ていたら、自分がしっかりリードしてあげなくてはという変な使命感が芽生えてくる。
「初めまして、私はキャスリン・ロックハートです。よろしくどうぞ」
彼女の凜とした声を聞いてロイの心臓は早鐘を打つ。この声で間違いない。あの時自分を介抱してくれた女性で間違いがなかった。優しげでいて、どこかしっかりとした滑舌の良さ。この雰囲気の声でロイのことを心配し、何度も声をかけてくれた。運命の女性に巡り会ったような気持ちだった。
「少し僕とお話ししてくれませんか。ここで構わないなら、ですけど」
きちんと断りを入れておく。彼女の都合を最優先に考えて行動しなければならない。ロイは気を使うあまり、どんどん笑顔がぎこちなくなるような気がしてきた。そんな挙動不審な部分をなんとか会話をしながら誤魔化しつつ、ロイはキャスリンの様子を探りながら話し続ける。
しかしロイの脳内はすでに『告白』の2文字しかなく、どうにか上手く告白する流れに持っていけるように話をするが、話せば話すほどだんだんと自分が何を言ってるのかわからなくなっていき、やがて回りくどい話し方になってしまう。ロイの話を根気よく聞いていたキャスリン嬢は、ついにロイの言葉を遮って話の要点を聞き出そうとした。
「あの、ロイさん? ロイさんって呼びますね。私に何か用事があって声をかけてくれたのでしょうか? それとも何か、誰かと話がしたくて私を選んだのなら他を当たった方がいいと思いますよ。もうお気付きと思いますが、私はこの通り会話があまりうまくありません。なので楽しい会話をお望みなら、あちらにいる女性達の方へ行かれた方が……」
違うんだ!
ロイは慌てた。彼女を不快にさせてしまったのかと思い、どうにか機嫌を取る言葉を考える。しかし焦りが先に来てしまい、うまく言葉が出てこない。こんな時、自分の口下手が呪わしい。なぜこうも女性との会話が苦手なのか。
変にご機嫌取りの言葉を考えるより、ロイは自分の素直な気持ちを彼女にぶつけることにした。元々当たって砕けろの精神でここまで来たのだ。なるようになれ、だ。
「いえ、あなただから話しかけたんです! 僕はずっとあなたに会いたかったんですから」
「え?」
「去年のダンスパーティーで間違ってワインを飲んでしまった僕がこのテラスでぐったりしているところに、キャスリンさん! あなたが来て介抱してくれた。覚えてますか? それ以来、僕はあなたのことが忘れられなくて、今年も来てくれるかどうかわからなかったけれど、出席してくれてた。お礼が言いたくて声をかけたんです!」
正直な気持ちであったが、一部嘘を言ってしまった。
キャスリン嬢が今回のダンスパーティーに出席することは事前にミレイユ嬢から聞いて知っていた。しかしそんなことを素直に話してしまったところで何になるだろう。再会するずっと前から彼女のことを誰かに調べさせ、その情報を流してもらい、こうして会う為にパーティーに出席したのだと知れたらきっと自分は変質者と間違われてしまうだろう。そういったネガティブな情報は、卑怯かもしれないが彼女の耳に入れるべきではないと思った。
しかしそれ以外は全て本当の気持ちだった。
彼女のことがずっと忘れられなかった。ずっとお礼を言いたかった。もう一度、こうして会いたかった。
「あの時の、グロッキーな方?」
「グロ……、あっ……はい、そうです」
ロイにとっての運命的な出会いの印象とは裏腹に、彼女にとっては単にグロッキーになっていた若者程度の認識だったのだと、改めて実感した。それはそうだろう。終始吐きそうになりながら会話のひとつもろくに出来なかったような男なのだ。そんな程度の出会いと思われても仕方ない。彼女は何も悪くない。
しかし去年に一度会った者同士だということがわかったからか、彼女の表情はパッと明るくなり、先ほどとはまるで別人のように意気揚々と話し始めた。まるで水を得た魚のように饒舌になる彼女。
それまでお互い緊張しながらポツリポツリとしか出来なかった会話が自然に話せるようになってロイは安心した。こんな風に話してくれるなら、きっと彼女にとって自分はそれほど悪い印象を持たれなかったのかなと思う。
会話をしている間に時折笑顔になるキャスリン嬢を見ていると、ロイの胸は熱くなってくる。女性と会話をしていてこんなに楽しいのは、ドキドキするのは初めてだった。もっと彼女と話したい、もっと彼女のことが知りたい。
ロイの気持ちはどんどん大きく膨らんでいった。やがて昂った感情は自然に告白へと導いた。
「キャスリンさん、よかったら僕と付き合ってください!」
決死の覚悟で言い放った。出会う前から募らせていた想いは告白しようと決めていたのだが、こうして本人と会話をしていく内に、その告白は一生ものの告白へと成長していた。結婚を前提にしての交際。
ロイは男なので女性ほど結婚への深刻さを感じてはいなかった。女性は10代の内に結婚しなければ行き遅れ令嬢と蔑まされる。現にロイには1歳上に姉がいる。姉は自由気ままのわがまま令嬢として育った為に、未来の夫に巡り合うことなく社会に出た。今も様々なパーティーに出席しては男を掴まえようと必死になっているが、本人の性格の悪さから交際にすら発展出来ずにいる。そんな姉は周囲からいよいよ行き遅れ令嬢としてのレッテルを貼られる準備に入っているというのだ。
去年の新入生歓迎パーティーに卒業生として出席していたキャスリン嬢も恐らく、そろそろ20代になろうとしている頃合いだと推察する。そしてもし彼女に現在交際している男性がいないのであれば、お見合いなどでよほど運よく巡り合わせがなければキャスリン嬢もまた行き遅れ令嬢という汚名が着せられてしまうのだろう。
あくまでこれはロイの想像であるが、もしそうであるならば彼女さえイエスと言ってくれるのであれば自分が彼女と結婚を前提とした交際をして、ぜひ妻として娶りたいと思っていた。
思っていた気持ちが今は決意へと変わっている。だからこそロイはキャスリン嬢とは真剣な交際でなければいけない。彼女の時間を無駄にしてはいけないからだ。これ以上彼女が結婚の機会を逃してしまうようなことをロイがしてしまうのであれば、ロイは自分の一生を懸けてでも償うつもりでいる。
ロイにはそれほどの覚悟をもってしてキャスリン嬢に告白しているのだ。
そんな彼の告白の重さが通じたのか、年齢差のこと、そして行き遅れ令嬢である自分と交際してはロイまで後ろ指を指されてしまうことなどを示唆した。こんな時まで自分のことではなく他人であるロイの心配をしてくれることに感動さえ覚えた。姉ならこうはいかないだろう。きっと自分の利益しか考えていない。
そんな姉と同じ空間で育ったロイは、女性を比較対象とするのが姉しかいないせいで理想の女性のハードルがかなり下がりがちだが、『あの姉よりひどい女性』はよほどのことがない限りいないことだろう。
それだけ今のロイにとってキャスリン嬢が持つ女性としての素晴らしさは、この世のどこを探してもきっといないだろうと言わしめる。もしかしたら自分には高嶺の花だったかもしれないと思いつつ、そんな彼女だからこそ自分が幸せにしたいという想いがより一層強くなる。だからここで簡単に引き下がりたくはなかった。
多少強引と思われても構わない、それほど自分の想いは他の誰にも負けないのだと必死にアピールする。今までの人生でこれほど誰かを欲したことはなかった。こんなになってまでお付き合いをしたいと思える女性に会ったことがない。ほんのひとときの間の会話しかしたことのない関係だったとしても、ロイの直感が言っていた。
ここでキャスリン嬢の手を離してはいけない、と。
ロイの必死の告白にキャスリン嬢は根負けしたとでも言うように、困ったような嬉しいような複雑な表情を見せつつも、笑顔で告白を受け入れてくれた。
その後のことはロイは全く覚えていない。舞い上がって、調子に乗っていたかもしれなかった。どうか彼女に失礼なことだけはしていませんようにと、翌朝になって初めて神様に心の底から祈っていた。
更新がいつも遅れて申し訳ありません。
少しずつ書いて、それから投稿させてもらおうと思います。
よろしくお願いします。