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作者: 神無月 零

私は恋愛が分からない。

好きな人は数年に1回くらい出来るし、男の人を見て「あ、かっこいいな」と思える場面は生きていて何度もあった。

一応彼氏出来たことあるが、そいつは浮気するようなクソ野郎だったから全然長く続かなかった。

しかもそいつは悪びれる様子もなく、「だって女の子が可哀想だったんだもん!」と逆ギレをしてくる始末。

それ以来、怖くなって彼氏は出来てない。

残念ながら御歳もう20過ぎた。

周りが「彼氏」「結婚」と言い、家庭に入り仕事を辞める子が多くなって来た。

前はみんな私と普通に話してくれてたのに、《彼氏が数年いない、恋愛もしてない女》になると少し距離を置かれ始めた。

「この歳になって彼氏も好きな人もいないって…」

「もしかして最近流行りのレズ??」

なんて噂されるまでになってしまった。

私は人間として、欠陥なのではないかとその頃から悩み始めた。

苦手意識から無理だと認識が変わったのは、旅行に何度も行くくらい仲の良かった数少ない友人から

「彼氏がいなくて人生楽しいの?

本当に好きな人、いないなんて可哀想だね。」

と普通に会話していて急に言われたことだ。

突然のことに私は驚き過ぎて思考回路がストップした。

彼女に私は好きな人が出来ず悩んでいることをよく相談していた。

数年好きな人もおらず、芸能人にも興味がなくただ普通に日常を過ごしてる私だと知った上でそんな発言をした。

私は彼女と一緒に居れず、堪らずその場を駆け出した。

私が好きな人ができないって1番気にしてるのに。

それを充分彼女に伝えれてると過信してた?

でも、それでも、そうだとしても。

何故そんなことを言ってきたんだ。

私は頭の整理が着かず、道端で涙が溢れてしまった。

何で、どうして、私は好きな人がいない。

友人にまでそれを指摘されて、感情的になって。


情けない


私は涙を流しながら、自宅へと戻った。

そして真っ先にベッドへダイブ。

何も考えたくないのにさっきの出来事が頭を支配する。

友人関係でトラブルが起こると、いつも姉の言葉が頭を過る。

「所詮赤の他人。完璧に分かり合えないのは重々承知の上で、適度な距離感を保っとかなければいけない。」

私は適度な距離感を保てなかったのかと、己の未熟さに嫌気が差した。

私と違って姉は何でも要領よくこなす。

一般的に姉より妹の方が要領良いはずなのに、姉が天才肌のせいで妹の私は何も分からないのだ。

勉学1つ取ったって、姉は名門私立中学へ合格し高校も県内トップクラス。

そして国公立大学へ現役合格。

超大手会社へ就職し、大学で知り合った彼氏とは交際5年目で結婚。

今や2児の母だ。

姉とは普通に仲はいいが、私は距離を置いておきたい人間だった。

私に無いものを全て手に入れてる。

そう思えて仕方がないからだ。

姉のことを考え始めてしまい、良くない考えの方へ行こうとしたので雑音が欲しくなり、普段アニメを見る以外でつけないテレビの電源を入れた。

テレビの内容なんてどうでもよかった。

ただ1人でないと思いたくて、人の話し声が欲しかった。

その時、とても軽やかな音楽が私の中に流れ込んで来た。

画面に目を向けると、イケメン達が派手な衣装を着て歌っている。

よく分からないけど多分最近の男性アイドルだろう。

普段なら全く興味を示さない私だが、何故かこの時は彼らに釘付けになった。

『君は君のままでいい』

『周りなんて気にするな』

『前見て生きて行こうぜ』

とてもキラキラとした笑顔で、カメラに向かってウインクしたりダンスを踊ったりしている。

そして彼らが歌い終わった後、私は号泣していた。

誰かに、そう言って欲しかったのかもしれない。

私という存在を他の人に認めて欲しかったのだと思う。

普段の私なら在り来りだと鼻で笑っていただろう。

でもこの時は無性に心に刺さった。

そして沢山泣いた。

あんなに素敵な笑顔と歌で私を励ましてくれてるのではないか、自意識過剰だがそう思えてしまったのだ。

大人になってからこんなに泣いたのはいつぶりか分からず、目がパンパンになるくらい泣いた。

会社の人からは「え?目やばくない?」と軽く引かれてしまった。

その度に私は苦笑いをするしかなかったが、適当に花粉症と言い無理矢理納得して貰った。

そんなことよりも私に感情を引き出してくれたあのアイドル達の歌が私の頭をずっと駆け巡っていた。

曲名もアイドル名もまだ知らない状態だったから、お昼休みに片っ端から検索を掛けた。

メンバーの数、デビューはいつか、メンバーカラー、活動内容…今やネットで全て分かるようになっていた。

ネット社会有り難や。

その日から私の生活は大きく変化した。

まず他の歌は勿論、過去のバラエティ番組やドラマに出てないかも確認した。

以前の私なら絶対に用がないであろうCDショップに行き、CDを買ったり過去の番組に彼らが出ていると分かれば、レンタルビデオ屋さんへ重い足を伸ばして借りた。

知れば知る程彼らは私に勇気を与えてくれ、自然と笑顔にしてくれた。

彼らの活動を知るのがこんなに楽しいのだと、日々を生活を乗り切れる目標が出来た私は生き生きと過ごし始めた。

彼らが出てるバラエティ番組があれば、すかさず見たし映画に出演すれば最低でも3回は見に行った。

新曲が出ればSNSのアカウントを駆使して宣伝し、CDを全て購入した。

彼らが世間に求められていると証明するには、数字が不可欠だ。

私はそう信じて疑わず、行動し続けた。

縁を切った友人とは何も連絡を取らなかったが、別の友人から「最近雰囲気が以前と変わった」とよく言われるようになった。

というのも元々アニメを見る私は、生身の人間に興味を持ったのは声優さんを除くと初めてのことだった。

以前私が好きなキャラクターについて、SNSで「このキャラ好きな奴はブスが多い」とたまたま見かけたことがありヒヤヒヤしてるのだ。

推しが恥ずかしくないファンでいなければいけない、と同時にある程度オシャレに気を使うようになった。

以前まであまり興味がなかった化粧も、自分に何が似合うか研究したし自分の体型をよくするためにダイエットも行った。

そのお陰か、街を歩いていて声をかけられることがが増え自分に少し自信が着いた。

ある時ラジオでメンバーの一人がお便りの中で初恋について相談があり、

『恋かぁ…』

とポツリ呟き自身の恋愛観について語り出した。

『俺は周りが見えなくなるの。本当にその子だけ。

どんな時でもその子を考えちゃうし、俺はそれが恋だと思う。

やっぱりドキドキが収まらないしね。

女の子のタイプ?うーん難しいなぁ。

やっぱり守ってあげたくなる子かな。小動物的な。』

私はそれを聞いて、あれ?もしかして私が今アイドルに対して抱いてる感情は恋なのか等考えてしまった。

こんなに自分の時間を忘れて没頭出来たのは、高校くらいにハマったアニメ以来だ。

いつもならさっさと食事や掃除を済ませて寝るだけの休日も、推しが出てる番組を見たりCD発売日だったりととても活発的になっていた。

まさに生活に彩りが増したのだ。

でも冷静に考えて、もし仮に偶然アイドルに会えたとしても恐れ多過ぎてキスしたいとか抱かれたいとかは全く思わない。

そういうことがしたい人はリア恋と言って、本当に存在するらしいんだけど心情はよく分からない。

アイドルを好きになって違う視点でSNSを利用するようになったが、リア恋の人たちは自身と推しの妄想日記や、かなり偏った考えをよく見る。

関わらない方がいいと分かっているが、大体そういう人に限って古参ファンだ。

私が知らない彼らを知っている。

羨ましい半面、ああはなりたくないと思ってしまう。

推しは素敵な人と結ばれて欲しい。

最近のアイドルは好きなタイプをこんなに細かく教えてくれるのかと歓喜しながら、私は軽く絶望していた。

「え?」

私は自分の気持ちに驚いた。

推しが過去の恋愛の話をして、どういう人がタイプか言って胸が締め付けられているようだった。

もしかしてこれは…リア恋なのか?

私は更にモヤモヤとしてしまい、ラジオを途中で止めてお風呂に行った。

もし仮に結婚とかするんだったら伝え方はお願いだから、慎重に自分の口からが良い。

雑誌なんかに引き抜かれないで欲しいけど、やっぱり売れて来てるから難しいんだろうな…

そんな妄想をして、私はベットに入ったがなかなか寝つけれなかった。

死んだ顔で何をしたか覚えてない仕事を放棄し、帰宅した。

そしていつも通り、推しが出ているラジオをつけていると推しがまた恋愛について語り始めた。

『えー!恋を知らない人からお便りだって!』

内容は初恋が分からない人から恋とはなにか、という哲学的染みたものだった。

私は人並みに恋はした、と自負しているが果たしてそれが恋であったかと聞かれると分からなくなる。

その人のことについてめちゃくちゃエゴサするし、LINE画面見てニヤニヤしてしまうし何か話のネタはないかと常にアンテナを張るし、今何してるかとても気になる。

でも大体その行動は2ヶ月も持たない。

だから私は行動する前に恋は終わる。

多分恋する私が好きなんだろうという自己愛だ。

そして傷付きたくないから、何もしない臆病な私。

身体も重ねた経験もあるし、無性にしたくなることもあるがそんなにいいものか全く分からない。

処女膜を突き破ったって、見える世界は変わらない。

寧ろ私は汚く見えた。

これは私がいい恋愛をしていないからだろうか。

こんな風に答える訳ないよね…なんて言うんだろうと推しの声に耳を傾けていた。

『んー。初恋がまだだからって別に焦る必要は無いと思うのよ。自分のしたことないことに挑戦して、少し視野を広げてみてもいいと思う。その時、目に留まる人がもしかしたら居るかもしれない。もしかしたらその人、かっこよく見えるかもしれないよ?そしたらそれが恋、だね〜。

それにしても恋を知らないって勿体ない!

是非体験出来たら教えてね〜。』

私はそれを聞いて絶句した。

『恋を知らないなんて勿体ない。』

推しは私みたいな恋愛経験してないんだろうと、一瞬で分かったし推しは私に何故好きな人が出来ないのかと問題視してきた友人達と同類だと悟った。

まさか推しにそんなことを言われるなんて、思ってもなくて私はその言葉を最後に何も内容が入って来ず、ただただ呆然として涙が零れた。

好きだと思うものは沢山あるのに、何故人を好きになれないのか。

好きな物は増えていくのに、友人は離れていくばかり。

そしてやっぱり恋について話してる推しは嫌。

この気持ちはなんなの…?

そんな答えの見えない考えばかりが私の中をぐるぐると駆け巡った。

私は人間じゃないかもしれない…と思いながら、ベットにダイブしたが全く寝れずいつも以上に疲労が来た。

思わず私はコンビニに駆け込み、甘いものを大量に購入した。

そして帰宅して沢山頬張った。

最近のコンビニスイーツはこんなに美味しいのかと、涙が止まらなかった。

美味しい、美味しいと手が止まらず鼻水を流しながら食べた。

そして次の日、あの夜の私の行動を激しく後悔した。

夜中にコンビニに行き、甘いものを沢山食べ号泣した為顔は浮腫みまくり目も十分すぎるほど腫れている。

仕事に行きたくないと思いながら、少しでも顔がマシになるようにメイクを施した。

ここの所の私は何かおかしいと思い、久し振りに友人にあい近況を話した。

友人は驚きながらもしっかり聞いてくれ、少し考えて口を開いた。

「それって、同担拒否って奴なんじゃない?」

名前は聞いたことがあった。

自分が応援している推しに対して、別のファンの人が感想を書いてたり推しがファンサしたりすると攻撃してくる人間と認識している。

「そうなのかな…」

でもそう考えると腑に落ちる部分が多くあった。

私が推しのことを知れればいいと思ったし、自分の推しに対して他の人と話したいとも思わなかった。

「きっと推しのことを独り占めしたいんじゃない?

それはもうリア恋でしょ〜。」

友人は他人事だからとてもサバサバとした答えが来た。

「分かりたくないけど、とても共感してしまう…

そうかーー私同担拒否か。」

友人に指摘されてとても納得し、私は歳を重ねるごとに面倒な女になっていってるなと考えながら帰路に着いた。

これからは同担拒否と認識して、推し活をしていこうと思い私の中で色々変化が起きた。

まず、SNSのアイコンが推しの場合私の目に映らない様に片っ端からブロックをした。

ユーザー名に推しの名前が入ってる場合も同じ。

自分のものでは無いということは重々分かりながらも、私以外の人が推しているという事実が受け入れ難かった。

推しが幸せである為には莫大な金額とネームバリューを上げる必要があるのは分かるんだけどなぁ…

そんな矢先、重大発表があった。

『なんと!今度コンサートします!!!

場所とかの詳細は俺らのホームページ見てね!!』

私が推しのファンになって始めて、コンサートをすることになったらしい。

私は何としてもチケットを当てる為に、CDを重ね親名義友人名義を使いコンサートを応募した。

後は結果発表を待つのみ…

私は仕事も手につかないような状態で、天に祈っていた。




『速報です。あの人気アイドルグループとモデルとの熱愛が発覚しました。』

この時、神はいないと私は確信した。

私の後頭部に鈍器で殴られたような感覚が取れなかった。

ネットが怖くなって、携帯もテレビも触れず食欲が全然湧かなくなって7キロ痩せた。

そして精神の不安定からか、不正出血が何度も来た。

友人はとても私を気遣ってくれ、コンサートの結果については何も触れて来なかった。

私はこんなに推しに支えられてて、生活に彩があったのにモノクロにしか見えない。

私は推しを忘れるかのように、アニメにのめり込んだ。

やはり私を裏切らないのは次元が下の彼等だと。



やっぱり私は恋を知らない。

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