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火山の村②

「ちょっと、やめときましょうよ」

「いやでも一応確認はしておかないと。万が一、凶暴なモンスターがいて、俺たちが寝ている間に襲われる可能性だってあるわけですから」


 そう言って、洞窟の奥へと恐る恐る歩を進めた。

 つかささんは俺の腕にしがみついて震えている。

 モンスターに恐れているというよりは、何が出るかわからないという恐怖に怯えているといったふうだ。

 にしても頼られているというのはちょっと嬉しいし、怯えて小さくなっているつかささんはちょっと可愛い。

 まぁかなり歩きづらいから、突然何かに襲われた時に対応は出来そうにないが。

 

「結構長いですね」

「そうね。それに、すこし暑くなってきたかも」

「そういえばこの山って活火山でしたよね。噴火した直後だから?」

「噴火したのもちょっと前だけど、それはあるかもしれないわね」

「ちょっと開けて来ましたよって、あれは!?」

「何よアレ!?」


 そこは巨大な空洞になっていた。

 しかもその奥は崖のようになっており、溶岩も見える。その熱波がかなり暑い。

 だがそんな熱波をものともせずに寝息を立てている生物がいる。


「ドラゴンだ」

「ドラゴン?」

「はい。ファンタジーモノの作品には必ずと言っていいほど出てくる定番中の定番モンスターです」

「まぁ聞いたことくらいはあるけど。プロ野球チームのマスコットだったりするし」

「あんな可愛いものじゃないですけどね。その爪は岩をも切り裂き、大きな羽で空を飛び回り、口から吐かれるファイアーブレスは鉄をも溶かすっていいますし。しかも鋼鉄よりも硬い鱗に覆われているとか」

「爪はいいとして、なんで炎を吐けるのよ。口の中やけどするでしょ。それに鋼鉄より硬い鱗って絶対重いじゃない。それで空飛べるってありえないでしょ。どんな軽い素材なのよ」

「だからファンタジーなんじゃないですか」

「ファンタジーって何? じゃあ目の前にいるアレはなんなのよ!」

「ちょっと声が大きいですよ」


 そう声が大きすぎたのだ。空洞の壁に反響したっていうのもあるのかもしれない。

 その巨体は、ゆっくりと身体を持ち上げ、頭をこちらへと向ける。


「やばい。逃げましょう」

「えぇ、そうしましょう」


 そう言って振り返った瞬間に地震が起こり二人そろってその場に転んでしまう。

 それが地震ではなくドラゴンが足で地面を叩いたせいだということをすぐに気づく。

 ドラゴンがこちらへとのそのそとやってくる。その1歩ごとに地面が揺れるのだ。

 やはりファンタジー作品でよく見るドラゴンだ。

 巨大なトカゲのような身体。牛のような大きな角。コウモリのような巨大な翼。すべてが威圧感を持って迫ってくる。

 もうすぐそこまで来ている。火を吐かれたら消し炭。いや鼻息だけで吹き飛ばされ壁に叩きつけられれば即死するだろう。

 そしてドラゴンがこちらへと顔を近づけてくる。

 そして声が聞こえた。


「何をしている人間よ」

「えっ? 喋った?」

「ホント、喋ったわね」

「何をしているのかと聞いている!」

「あぁすみません。まさか喋れるとは思いもせず、、、」

「言葉を発することができるのが人間だけだと思うな。なんならお主ら人間より脳の大きさは大きいぞ」

「そう言われればそうかも。って見たことあるんですか?」

「まぁな。まぁ言葉を発すると言っても人間の真似をしたら出来たってだけだがな。言葉を発することができないドラゴンもいるし」

「あぁ一応、固有名詞はドラゴンなんですね」

「自分たちのことをそう呼んだことはないが、人間どもがそう呼ぶのでな」

「やしろくん。なんか随分とよくしゃべるわね、このドラゴン? だっけ。こういうものなの?」

「いや、あんあり聞いたことないですよ」

「何をごちゃごちゃと喋っている。それより質問の答えがまだなのだが? やはりワシの寝首を掻きに来たのか? それにしては装備が貧弱のようだが」

「もちろん、そんなわけないです。そもそもドラゴンがここにいることも知りませんでしたし」

「あぁそうか。ではやはり迷い込んだだけか」

「そうです。旅をしてたら急に雨が降ってきて。それで近くの洞窟に逃げ込んだだけで」

「なるほどな。ならば何も言うまい。雨が止むまでゆっくりしていくがよい。何もないところだがな」

「はっはい。ありがとうございます」


 そこで初めて、自分が自然と敬語になっていることに気づく。

 ドラゴンは大きくあくびをすると、元いた場所へとのそのそと戻っていく。

 

「なんとか助かったわね」

「そうみたいですね」

「話のわかるドラゴンで良かったわ」

「まさかドラゴンと会話できるとは思っていませんでしたが」

「じゃあ戻りましょうか」

「そうですね。ここだとさすがに暑すぎてゆっくり眠れませんし、、、」


 そこでドラゴンさんが急に雄叫びを上げる。後ろ足二本で立ち上がり、翼を大きく広げ、咆哮を響かせる。


「えぇ、今度は何よ? 何もしてないわよ」

「いったい何が、、、」


 ドラゴンさんはこちらへとギロリと目を向ける。


「今のが聞こえたか!?」

「今の? 咆哮ですか?」

「違う! この耳の奥を突き刺すような大きな音を。それがうるさくて、ぐっすり眠ることが出来ん。寝不足でイライラする。やっと最近なくなったと思っていたのに、また響いてくる」

「大きな音、ですか。聞こえます? つかささん」

「そうね、、、」


 二人で耳を澄ませてみる。

 そこで微かに甲高い音が聞こえた気がした。

 

「あれかしら」

「かもしれませんね。あっちの方から聞こえてきます」


 それは俺たちがやってきた洞窟とは別の横穴だった。


「行ってみますか」

「そうね。放っておくわけにはいかないし。私たちの安眠のためにも」

「そうですね」

「じゃあドラゴンさん。ちょっと行ってきます」

「うぬぬ。すまぬな、見知らぬ人間よ。おうそうだ。ワシの名前はトルネルという。主らの名は?」

「自分がやしろでこっちがつかささんです」

「やしろとつかさ。変わった名だな」


 そりゃ異世界人ですからね。

 そう思いながら俺たちは、横穴へと入っていく。

 横穴を進むにつれ、甲高い音は徐々に大きくなっていく。


「これって、、、」

「そうね。これはやっぱり、、、」


 俺たちは駆け出す。

 すると洞窟を抜け、外へと出た。

 少し開けたその場所には、その甲高い音の犯人がいた。

 

「これっておそらく、、、」

「聞いていた特徴と一致するわね。きっとこの子たちがオッドよ」


 そう、そこには妙に長い二本足のモンスターが何匹もウロウロしていた。

 

「なんかニワトリみたいですね」

「ニワトリよりフラミンゴに見えない?」

「にしては茶色だし、飛べないみたいですけど。それならダチョウですかね」

「にしては小さいし、首も短いわね」


 そこでまた一匹が甲高い鳴き声を上げる。

 それに合わせて洞窟からトルネルの咆哮が響く。


「なるほどね。つまり消滅した村ではこの子たちを育てていたのね。それで数を増やしていくと、それに合わせて鳴き声も大きくなっていく。たまたま火山に住んでいたトルネルがその鳴き声に安眠を妨害され、暴れた衝撃で火山が噴火、村が消滅したのね」

「じゃあこのオッドたちは、、、」

「きっと一部が逃げたんでしょ。でも人間に育てられたオッドたちが人間たちから逃れたところですぐに野生化はしない。この辺をウロウロしていて、トルネルの住処へと続く洞窟のそばまでやってきた。そしてその鳴き声が洞窟の中を反響してトルネルの耳まで響いたのね」

「じゃあどうしましょうか」

「そうね、、、」


 そして俺たちはトルネルの下へと戻り事情を説明した。

 甲高い音がオッドの鳴き声だと言うこと。

 それが洞窟に反響していたということを。

 なので、トルネルには横穴を破壊して塞ぐように勧めた。それで少しは聞こえづらくなるはずだ。

 元々トルネルも出入りは上の竪穴から行っていたので横穴が塞がれることの影響はない。

 むしろなんでそんな簡単なことに気付かなかったのかと少し落ち込んでいた。

 俺たちが洞窟を出たところで、奥の方で大きな音が響いた。きっとトルネルが洞窟を破壊した音だろう。

 

「さぁ街に戻りますか」

「そうね。元の村人たちに生き残っていたオッドたちのことを教えてあげないと」

「きっと喜びますね」

「これでまた畜産業が再会できるからね」

「あと、火山には近づかないように言っておかないと」

「そうね。また村人たちとトルネルが揉めてもいけないし。今度村を作るときは火山から離れたところに作るようにいいましょう」

「まぁ言わなくても火山の恐ろしさを知った彼らなら勝手に離れた場所に作りそうではありますけどね」

「それもそうね。あっ、ちょっと待ってやしろくん」

「どうしたんですか?」

「ちょっと寄り道していい?」

「いいですけど」


 そう言ってつかささんの後を付いて行く。


「ここね。やしろくん触ってみて」


 つかささんについてやってきたところには水が流れていた。しかし川というわけではない。

 湧き水のように地面から水が出ているのだ。

 俺はそれにそっと触れてみる。


「あつっ! なんですかこれ。って温泉!」

「そう。火山の噴火で流れても、まだ湧いているところがあったわね」

「でもどうするんですか? さすがに入れませんよね? 風呂でも作るんですか?」

「そんなことしないわよ。これよこれ。じゃっじゃーん」


 そう言いながらつかささんが取り出したのは二つの白い球体だった。


「ひょっとして、オッドの卵ですか?」

「そう。さっき見つけたのよね。これをここに置いて、、、」


 そして俺たちはその球体をしばらく眺める。


「いけますかね?」

「そろそろいいんじゃない?」


 殻を割って中身を取り出す。


「できたぁ」

「じゃあいただきまーす」

「うわっ、おいしい!」

「めっちゃうまいですね」


 そうして俺たちは、オッドの温泉たまごを堪能してから街へと戻った。


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