最終話、気が付けば、、、
「ん? くすぐったい」
突然、頬を舐められ俺は目を覚ます。
「つかささん、やめて下さいよ。急に頬を舐めるなんて」
「ん? なに?」
そこで俺の腕の中で眠っていたつかささんが目を覚ます。
「どうしたの、やしろくん。って何これ。どこよここ」
周りを見て急に慌て始めるつかささん。
俺も周りを見て、同じように驚く。
そこは森の中だった。
明らかに先ほどまでいた大樹の頂上ではない。
ただ、暖かいお湯に浸かり裸のつかささんを抱きしめていた。
「温泉?」
あまり綺麗ではない。
人の手の入っていない、森の中に突然湧き出た温泉のようだ。
その状況に二人して混乱する。
「そしてやしろくん。いつまで私のことを抱きしめてるつもりよ。そろそろ離しなさいよ」
「あっ、ごめんなさい」
つかささんのことを離したところで、透き通ったお湯の中のつかささんの裸体が目に入る。
「あっバカ! どこ見てんのよ」
裸を見られて恥ずかしいのか、つかささんはすぐにまた俺を抱きしめる。
見られるのは恥ずかしくて、身体が触れているのは恥ずかしくないのだろうか。
「ところで、さっき俺の頬を舐めました?」
「はぁ? そんなことするわけないでしょ?」
「ですよねぇ」
そう言って、俺は改めて辺りを見回す。そこで一匹の犬と目が合った。
柴犬だ。
嬉しそうに尻尾を振っている。
「おーい、タローよ。ワシを置いて、勝手に行くでない」
木々の奥から老人の声が近づいてくる。
「なんでい。何で、こんなところに人がおるんだ?」
タローと呼ばれた柴犬は老人の下へと駆け寄る。
そして老人は俺たちを見て目を丸くする。
「こんな山奥で裸で抱きしめ合うなんて、最近の若いもんは何を考えているのかわからんな」
そこで俺とつかささんは顔を見合わせる。
「「日本語だ。帰ってきたんだ」」
そして俺たちは、もう一度強く抱きしめあった。
了




