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大樹の村②

「あの木は創世樹と言ってね」

「創世樹、ですか」

「そう。この世界が出来る前からあの木はあったと言われているんだよ」

「へぇ~」


 俺たちは宿屋に荷物を置くと、完全に観光地がしているニルの村を散策していた。そしてベンチに腰をかけ大樹を見上げるおじいさんに話を聞いていた。


「本当ですかね?」

「そんなわけないでしょ。よくある創作された昔ばなしよ」


 俺をはさんで、ご老人の反対側に座るつかささんに小声で聞くと、そう小声で返してくれた。

 つかささんは先ほど買った団子串を食べている。

 団子串と言っても、串に丸い団子がいくつか刺さっているわけではなく、木の棒に棒状に団子が塗りつけられているような状態だ。例えるなら五平餅に近いだろうか。そこに甘いみたらし餡のようなものがかかっている。

 創世樹をイメージしているそうだが、言われなければわからない。


「ところでこの辺りに温泉ってありますか?」

「温泉かい?」

「はい。自分たちはその温泉を巡って旅をしていまして」

「温泉ならあるよ」

「ありますか。それはどこに?」


 ご老人は大樹を指差す。


「この上だ」

「この上?」

「そうだ。温泉なら創世樹のてっぺんにある」

「てっぺん? 本当ですか!?」

「本当だとも。ならあそこにある受付で聞いてみるといい」

「受付があるんですか」

「あるよぉ。大樹を登って頂上にある温泉に入るのが、ここの観光の目玉だよ」

「マジですか!」

「なんじゃそのマジっていうのは。方言か?」

「まぁそんなところです」

「じゃがおそらくしばらくは無理じゃぞ」

「どうしてですか?」

「なーんも知らんのじゃな。夜になると月が見えるじゃろ?」

「あー、確かに言われてみれば、、、ありますね。気にしたことなかったですけど」

「あの月な。ずっと動いとるんじゃ」


 それは知っていた。この世界に来た時に太陽と月の存在を確認し、ここは地球なのかと思った。

 しかし軌道も違うし、何より月が欠けないのだ。常に満月状態である。

 なのでここは地球に似た別の場所なのだとつかささんと結論付たのだ。


「そしてな。その月が創世樹のてっぺんに最も近づく時期に頂上に登ると帰ってこられないと言われている」

「なるほど。そんなことになっているんですね。どうします? つかささん」


 再度俺はつかささんの方へと振り向く。

 つかささんは半分残った団子串を俺の方へと突き出す。


「もういいや。あと食べて」


 これだから女の人は。そう思いながら受け取ると、食べかけの団子を口に運ぶ。案外美味しい。


「まぁそういう理由なら仕方ないじゃない。登れるようになるまで宿屋で時間を潰すしかないでしょ。間が悪かったわね」


 そう言うつかささんの目線の先には、また別の甘味処を見ていた。



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