温泉郷の村④
「うおっ、あつっ!」
桶で湯船からお湯をすくい肩からかける。が、少し熱かった。
何か撹拌する物はないか浴室内を探すが見当たらない。
仕方ないので、桶を湯船に沈めて混ぜる。
最初は熱いがだんだんと慣れてくる。
「こんなもんか」
もう一度、お湯をすくい肩からかける。
まぁこんなもんだろう。
片足ずつ湯船へと突っ込む。
足から全身へと熱が伝わっていくのがわかる。
そしてゆっくり全身を沈めていく。
「あ゛ァァァァ~」
気持ちが良すぎると、気持ち良いという言葉すら出てこない。
全身に溜まった疲れが、頭へと集められ頭頂部から抜けていく感覚。人間が人生で感じる気持ち良い瞬間で打線組んだら俺は4番か5番に配置するだろう。
湯船のふちに後頭部を預けて力を抜くと、身体が少し浮かぶ。
これも風呂の楽しみ方だ。
「うっ、冷たい!」
見上げると、天井から水が滴り落ちてきて顔へとかかる。
これも風呂の醍醐味だ。
それほど広いわけでもない広さの湯船。しかし大人一人が全身を伸ばして入るには十分な広さがある。
サキノの村には、大浴場や露天風呂のある銭湯もあるのだが、建物の中にちょっと広めの湯船のある銭湯がいくつかあり、事前に予約することで数時間貸し切ることができる。
ここもその一つだ。
普通にここはあたりだったかもしれない。
しかし、、、
「いや、待てよ。本当に大丈夫か? いや大丈夫ではないのでは?」
それに気付くには少し遅かったようだ。
ガラッと木戸が開くと、みね麗しき3人の女性が入ってきた。
「まったぁ?」
「いや、待ってはないけど、、、」
「なんだよ。人を邪魔者みたいにっ」
エルが頬を膨らませながら湯船へと入ってくる。
「ちゃんと身体を流しなよ、そこのエルフ」
「大丈夫よ、ねぇ」
イエッタはちゃんと肩からお湯をかけ、それから風呂へと入る。
そして気持ち良さそうに両目を閉じて、温泉を感じている。
「どうしたの? つかさは入らないの?」
「そうだ、せっかく来たんだから入ればいいのに。そのためにこの水着とかいうやつも私たちの分を用意してくれたのでしょう?」
そう。イエッタとエルはつかささんが作った水着を着ていた。もちろん俺も着ている。そして同じく水着を着たつかささんが浴室の入口で困ったように佇んでいる。
「いやだって、、、私が入ると、、、」
やはりつかささんは自分が入ることで浴槽がいっぱいになることを気にしているようだ。
そうこの湯船は、広いといえば広いがそれほど広いわけではない。大人4人が入ればいっぱいになる広さだ。
エルは線が細いし、イエッタは子供くらいの体型なので、4人入って入れないことはない。
でもつかささんは気になるのかもしれない。
「あっ、じゃあ俺出ますよ。もう十分入りましたし」
そう言って立ち上がろうとする俺の手をエルが掴んで湯船へと戻す。
「いいじゃん。せっかくみんなで来たんだからさ。みんなで入ろうよ。ほらつかさも」
「わっ、わかったわよ。わかったからちょっと詰めてよ」
つかささんがそう言いながらこちらへ近づいてくるのに合わせて、エルとイエッタの二人が俺の方へ寄ってくる。そして俺の体に柔らかいものが当たる。
これは、気持ち良い打線が入れ替わるかもしれない。
「ちょっとなんで少しニヤケてるのよアンタ」
「あっいや、別に」
つかささんに睨みつけられ、慌てて真顔を必死に作る。が、なかなか上手くいかない。真顔ってどうやるんだっけ。いろいろわからなくなってくる。
そこで俺の正面に入ってきたつかささんが、身体の収めどころを探す。そして俺の両足の間に絡むようにつかささんの足が入ってくる。
「やっぱり狭くない?」
「まぁいいじゃない。ねぇやしろ?」
「えっ? あー、うん。えっ? なにっ?」
「ちょっとちゃんと聞いてる?」
いや何かもう頭の中が真っ白で何がなんだかわかりません。
きいてる? と聞かれたら効いてると思います。アナタ方の魅力で心がノックダウンしそうです。
「でもつかさぁ。やっぱりこの水着っての。なんか開放感に欠けない? 脱いじゃっていい?」
「はぁいいわけないでしょ?」
「大丈夫よ。森の時みたいに目隠しすれば関係ないから」
そう言ってエルはビキニタイプの水着の上の部分を脱ぐと、それを頭に巻きつけて目を隠した。
「ちょっ、なにやってるのよ。やしろくんも今すぐそれをはずしなさい!」
「あっ、はい」
「あっダメ! やっぱりはずしちゃダメ!」
言われて目隠しを取ろうとする俺の手を押さえる。その時につかささんが俺に覆いかぶさる形となり、全身につかささんの柔らかいモノが当たる。
「で、ちょっとなんでやしろくんは固くなってるのよ!」
「いや、これは、、、」
「イエッタも何か言ってよ」
「うるさいですねぇ。三人とももう少し静かに入って下さいよ」
いや俺もかよ。
何も見えないまま、俺はそう心の中でつっこんだ。




