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温泉郷の村③

 村の人々に話を聞いてやってきた鍛冶場は、山の中にある洞窟内にあった。

 長年使われていなかったようで、全体的にホコリまみれのサビまみれだ。


「やっぱりこれじゃ使い物になりそうにないね」


 鍛冶場に入るなり固まって動かないイエッタに、残念そうに声をかける。


「ん、大丈夫か?」

「すごい、、、」

「えっ?」

「すごいエネルギーを感じます。ここで間違いなかった」

「そうなの?」

「さぁやしろさん。片付けますよ。ここを復活させないと」

「本気かよ、、、」


 そして俺は、イエッタに言われるがまま鍛冶場内の掃除を始めた。

 なぜこんなことまでしなければならないのかはわからないが、イエッタに声をかけたのは俺だし、乗りかかった船だし最後まで付き合う。

 

「これくらいでいいでしょう。さぁ火を入れますよ」


 掃除が終わると、本格的な鍛造が始まる。もちろん製造方法などまったくわからない俺はイエッタの指示通りにことを進めていく。

 言われたことを「ハイッ! ハイッ!」と返事をしながら行うのは慣れている。今までつかささんの側でずっとやってきたからだ。

 見た目はずんぐりな少女のイエッタだが、テキパキとした動きは目を見張るものがある。

 

「ここの鍛冶場は、火山のエネルギーを利用した最高の設備。それに、私が旅の途中で手に入れたこの鋼を使うことで最高の剣に仕上がるはずです」

 

 イエッタは気合と共にそう語る。

 剣は徐々に形になってゆく。それはそれで男の自分としてはテンションが上がるものである。

 そんな時、突然の珍客が現れる。


「なんなのよカンカンッカンカンうるさいわねぇ。しかも急に熱風も来て、熱くなるし」


 そう怒りながら、細身の女性が鍛冶場へと入ってくる。


「せっかく木の上でのんびり寝ていたのに。寝起き最悪よ」


 彼女も、俺の見知った顔だった。


「エルじゃないか。なんでこんなところに? ってか木の上で寝てたの?」

「あぁ、アンタは森の温泉で私の裸を見ようとしてた、、、」

「裸を?」


 イエッタが俺の事を睨みつける。いや違うんだ。不可抗力で。と言い訳をする前に、以前エルフの村で会ったエルネスティーネとイエッタがにらみ合いを始める。


「一緒にいるのはドワーフ?」

「なんでエルフがこんなところにいるのよ」

「急に二人共どうしたんだ? 知り合いなのか?」

「知り合いなもんですか。ドワーフに知り合いなんているわけがない」

「こちらもです。やしろさんもエルフなんかと知り合いだなんて」

「ひょっとして仲悪いのか?」

「先祖の記憶かな。エルフはドワーフが嫌いなのよ」

「私もです。エルフはどうもいけ好かない」

「そういうものなのか。でもエルはどうしてこんなところに? エルフは森の中の村から出ないんじゃなかったのか?」

「アナタたちが去ったあと、村を出たのよ」

「追い出されたのか?」

「違うわよ。なんかアナタたちに会ったらさ、もっといろんなことを知るべきなんじゃないかって思うようになって。エルフってずっと森の中にいるじゃない? そういうの良くない気がしたんだよね。だから出てきちゃった。もちろん村長の許可は貰ったわよ。そのために魔法の勉強や弓の修行もやったしね」

「へぇ、なんか今どきの若者って感じがするけど、やることはやったんだな」

「今どきの若者?」

「いや、何でもない」

「ちょっと、話は終わった?」


 イエッタが不機嫌そうに割って入る。


「今は作業中なんです。用がないなら出て行って貰える? 正直、邪魔なんですけど」

「なによ。人の眠りを邪魔しといて、ずいぶんな言い草ね。まぁいいわ。邪魔者は退散するわよ」


 そう言って不貞腐れると、エルは鍛冶場から出て行った。


「まさかやしろさんたちがエルフとも知り合いだったなんて」

「まぁね。いろいろ旅をしてきたから」

「さぁうるさいのもいなくなったので続きをやりましょう」

「わかった」


 そう言って、作業を再開したところでエルが鍛冶場に戻ってきた。


「またアナタですか。今度は何の用ですか?」

「ごめん。なんか外にモンスターがウロウロしてるんだけど。ちょっとここで匿ってよ」

「ホントか!?」


 俺とイエッタは、入り口まで様子を見に行く。

 そこには赤いトカゲのようなモンスターが闊歩している。しかし一匹の体長は尻尾を含めると2メートル強はある。


「アレは?」

「フレイドですね。火を食う化け物って言われています。もしかしたら鍛冶場を復活させたことで集まってきたのかも」


 確かに数も3、4匹はいるように見える。


「どうしようか?」

「とにかくここの入口の扉は頑丈です。しっかり閉じれば入っては来られないでしょう」

「でもそんなことをすれば、ここから出られないし、蒸し焼きになっちゃうよ」

「ここの構造はそこまで計算されていて、そう簡単には蒸し焼きにはならないように出来ています。ですがここを復活させてしまった以上、あいつらがどこかへ行くこともないでしょう。倒すしかないですね」

「勝てるの? あんなのに?」

「難しいでしょうね。火を吐きますからね」

「えっ? 火を吐くの? やばいじゃん」

「しかもあいつらのウロコはけっこう硬くて、安物の剣では逆に折れてしまいます」

「そんな、、、じゃあどうしよ」

「剣を完成させましょう。きっとあの剣ならフレイドも倒せるはずです」

「なるほどね。でも上手くいくかな?」

「いかせるしかないでしょ。あいつらを倒さないと、どのみち私たちが死ぬだけです」

「エルにも手伝ってもらえないかな?」

「あのエルフにですか?」


 イエッタは腕を組んで少し考える。


「彼女、魔法が使えるんですよね? 魔法によっては剣を作る上で、より剣の強化に役に立つかもしれない」

「相談してみよう」


 そして三人での作戦会議が始まった。

 エルフの得意魔法は水と風を操ることらしい。エルフの森で霧を発生させたアレだ。

 それらを利用して、剣の製造の作業工程を見直す。

 はじめは渋っていたエルだったが、そうでもしないとフレイドたちを倒せないと俺が説得し、なんとか協力してくれた。

 そして3人がかりで急ピッチでイエッタの言う最強の剣を完成させる。


「これが、最強の剣、、、」

「まあ今のところはってとこですけどね」

「いやスゴイよ。なんか刀身に心が吸われそうなくらいキレイな剣だ」

「見た目だけじゃなく、切れ味、頑丈さ共に最高に仕上げたつもりです」

「ねぇいいからさ、はやくあのモンスター倒してきてよ」

「わかったって」


 そう言って剣を構える。

 正直、剣の製造で疲労困憊なのだが、そうも言っていられない。

 

「私もいきますよ」


 そう言ってイエッタは鍛冶で使っていた物とは別の、バトルハンマーを手に持つ。


「アンタも戦うのよ、エルフ」

「えっ? 私も?」

「当たり前でしょ? なんか魔法かなんかで援護くらいできるでしょ?」

「わっわかったわよ」

「じゃあ行くぞ、二人とも」


 そこで一気に鍛冶場から飛び出す。

 まずはエルの魔法により、この辺りに強めの雨を降らせる。

 それによりフレイドの動きが一気に落ちたように感じる。

 そこで俺は一番近場にいる一匹へと駆け寄ると剣を振り下ろす。

 その一撃は硬いウロコを突き破り、フレイドの巨体を切り裂く。

 あまりの切れ味に一瞬驚く。

 しかしそのスキにもう一匹が気づいて炎を吐く。

 炎は俺の身体をかすめるが、雨とその雨に濡れた服が俺の身を守る。

 その炎を吐いた一匹にイエッタは近づくとハンマーを振り下ろす。

 死にはしないものの衝撃で動きが鈍る。

 そこへ駆け寄り剣を突き立て止めをさす。

 そして俺たちは、それらを繰り返しフレイドたちを倒していく。

 なんとか最後の一匹を倒したところで、剣をフレイドに突き立てたまま俺はその場に座り込んでしまった。

 

「お疲れ様」

「さすがに疲れたね」

 

 イエッタのねぎらいの言葉に返事をする。

 フレイドたちを倒したことでエルも雨の魔法を解く。それにより雨は止み、剣から雨露が滴り落ちる。

 エルもその場に大の字に寝転んでいた。


「あー、疲れた。こんなに長いこと魔法使ったの初めてだよ。地面がぐしょぐしょで気持ち悪いけど、疲れて動きたくないよ」

「エルもお疲れさん」

「ホント、今日は災難だわ」

「エルフもなかなかやるのね」

「まぁドワーフのアンタもまあまあやるじゃん。ちっちゃいくせに」

「あぁ? なんか言ったかヒョロガリ」

「何だと!?」

「もうやめろって二人共」


 そこで茂みからガサッと音がする。

 まだいた?

 それは急いで起き上がると剣を構える。

 エルとイエッタもそれにつられて身構える。


「なんなのよ。急に雨降ってきて。びしょ濡れなんだけど」

「つかささん!?」

「あらやしろくん。イエッタも。鍛冶場は見つかったの?」


 そこで一気に緊張の糸が切れ、再度その場に座り込む。


「なんだ、つかささんか。どうしてこんなところに? 部屋でお酒飲んでたんじゃないんですか?」

「えっ? えーと、ちょっと飲みすぎたから酔い覚ましに散歩でもしようかと」


 その言葉に俺とイエッタは顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。


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