温泉郷の村①
「こちらをどうぞ」
渡されたのは1本の鍵だった。
「ありがとうございます」
「ごゆっくり」
受付の女性に笑顔で手を振られ、俺たちは店を出た。
「ここも受付と泊まる部屋は別なのね」
「そうみたいですね。システム的には、この間行った渓谷の街に近いのでしょうか」
そう言いながらこの村の地図を開いた。
いくつかの建物があり、それぞれに記号が振られている。そしてキーホルダーに描かれている記号と同じ建物を探した。
「こっちですね。渓谷の村では崖をくり抜いて部屋になっていましたが、ここでは一軒の家を借りられるので、前回より広いみたいですよ」
「そう。それは広々とした部屋でのんびり過ごせそうね」
そんなことを話しながら、村の中を歩く。村は中央に川が流れており、その川の両サイドに宿泊施設や商店などが建ち並んでいる。
「綺麗な村ね。家もどれもカワイイ作りだし」
「確かに家というより小屋に近いですかね。でも十分な広さはありそうですけど」
すれ違う人々も、冒険者というよりは観光客の方が多いようだ。カップルや家族連れをよく見かける。
実は、ここサキノの村は近くに大きな街がありそこから乗り合い馬車も出ていた。完全に観光に全振りした村だ。
「食事と風呂は?」
「食事はいくつか食堂があるので、そのどこかで取る感じですね。あと風呂も、僕らが今から行く宿泊用の家の他に、お風呂だけある家がいくつかあって、そのどれかに自由に入れる感じですね」
「じゃあ、今までみたいな自然の中の露天風呂や大浴場のようなところはないんだ」
「そうみたいですね」
「あっ!」
そう言って、俺の相槌を最後まで聞くことなくつかささんが駆け出す。俺も、何事かと後を追う。
「ねぇこれ買っていい?」
つかささんは、大きな酒瓶を笑顔で掲げている。どうせ断ったら数日不機嫌になるんでしょ? と心の中で思いながら、小さくうなずく。
「やった。じゃあおつまみもいるわよね。どれにしようかなぁ」
もう夕飯食べる気ないでしょこれは。そんなことを考えながら、楽しそうにつまみになりそうな物を物色している彼女の背中を眺め、これは長くなりそうだなと、視線を外したところで見知った顔を見つけた。
「君は、、、」
「あっ、アンタは」
「久しぶり。元気だった?」
「えぇまぁ一応」
彼女は以前、旅の途中で知り合ったドワーフの少女、イエッタだ。
相変わらず大きなカバンを背負っている。
「どうしてここに?」
「アナタたちはどうしてここにいるんですか?」
「まぁ観光、かな」
と言っても、ずっと観光旅行しているようなものだが。
「へぇ、呑気なものですね」
「まぁそうかもね」
「相方の、あの女性はどうしたのですか?」
俺は無言で指をさす。
それに促され、大きな酒瓶とつまみを抱えているつかささんを見てイエッタは嫌悪感マックスの表情をあらわにした。
「そうだ。今日はこの村に泊まるんでしょ?」
「えっ、まぁそうですが、、、それが何か?」
「もう泊まる場所決めた? 一緒に泊まろうよ」
「はぁ? 何言ってるんですか。変態ですか?」
そして彼女は俺にまで、嫌悪の表情を見せた。




