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離島の村③

「大丈夫か? 起きろ!」


 頬を叩かれ目を覚ます。

 目の前には女海賊の姿があった。


「ここは?」


 辺りを見ると砂浜だった。

 どうやら俺たちはどこかの砂浜に打ち上げられていたようだ。


「ここは私の島だよ」

「あぁあの海賊に占拠されているっていう、、、」

「占拠? まぁそうだね」

「そうだ、つかささんは?」

「一緒にいた女かい? それならそこで寝ているよ」


 つかささんは俺のすぐそばに横たわっていた。


「海に投げ出されたあとアンタたちを捕まえて、なんとかこの島まで泳いできたのさ」

「俺たち二人を?」

「これでも海賊だからね。泳ぎは得意さ。まぁ泳げない海賊もいるけど」

「助けてくれたのか。ありがとう」

「私のことを先に助けてくれたのはアンタじゃないか。海賊だって恩は返すさ」


 照れくさそうに言う彼女を見て、あんまり悪い人ではないのかなと思う。


「つかささん。起きてください」


 今度は俺がつかささんの身体をゆすり起こす。


「ここは?」


 さっきの俺とまったく同じ反応をする。まぁ当たり前か。

 そしてつかささんに、さっき聞いた事情をもう一度話す。


「ってことは、ここにはアナタたちのアジトがあるのね?」

「そういうことだ。しかし一つ残念なお知らせがある」

「残念なお知らせ?」


 申し訳なさそうに言う女海賊に俺は聞き返す。


「実はこの浜。後ろは崖になっていてな。アジトに行くには崖を登るしかないんだ」


 俺とつかささんはその崖を見上げる。


「それはムリそうね」

「そう。あとは海岸沿いに海を泳いで周りこむしかないが、もうすぐ日没だ。夜の海を泳ぐにはあまりにも危険すぎる」

「確かに」


 水平線を見ると、太陽が沈みかけていた。

 

「じゃあどうするのよ」

「あとは、このまま一晩明かして、明日の朝に考えるしかないわね」

「えぇ。こんなところで野宿ぅ?」


 つかささんの悲痛な叫びが上がる。

 確かに服も濡れてるし、このまま野宿をすれば風邪もひきそうだ。


「そうだな。なんとか火だけでも起こせればいいんだが」

「火起こしって言われてもなぁ」

「大丈夫だ。火の付け方ならわかる。材料となる木や草などを集めてきてくれ。出来るだけ乾いているものがいい」

「わかったわ。集めてくる。やしろくん行きましょう」


 そう言って俺とつかささんは立ち上がる。


「そういえばアナタの名前を聞いてなかったわね」

「ゾニアだ。お前たちは?」

「私がつかさ。こっちがやしろ」

「変わった名だな。異国の者か?」

「そんなところよ」


 そして俺たちは手分けをして、薪集めを始めた。

 しばらくして俺が薪を抱えて戻ってくると、つかささんとゾニアが焚き火を囲んで座っていた。


「やしろくん。遅かったわね、どこまで行ってたの?」

「あっ、いや、すみません」


 どんだけ早いんだよこの二人は。そう心の中でぼやく。


「まぁいいさ。薪はいくらあってもいい。ありがとう、そこに置いておいてくれ」


 ゾニアに促され、俺は近くに薪を置いた。


「そうだ二人とも。実は近くに洞窟を見つけたんだ」

「洞窟? この辺にそんなのあったかな」

「ゾニアも知らない洞窟? もしかしたら島の内側に繋がってるかも。行ってみましょう」


 そして俺たちは先ほど見つけた洞窟へと向かった。


「ここです」

「ホントだ。こんなところがあったんだ」


 さっき俺が一人で来た時は、奥の方が暗くてよく見えなかったが、ゾニアが先ほど付けた焚き火から松明を作って持ってきていたため、それで中を照らす。


「でも、やっぱりただの洞穴ね。島の内側には繋がっていないみたいだ」


 残念そうにゾニアが肩をすくめる。

 俺とつかささんもゾニアに続いて洞窟の中に入るが、やはり何もないようだ。

 何かサバイバルの手助けになるものでもあればと思ったのだが。

 そこでつかささんが何かを発見する。


「ちょっとこれ、、、」

「どうしたんですか?」

「これ。温泉だわ」

「温泉!?」


 俺もつかささんの方へと向かうと地面に溜まった水に手を付ける。

 それはほんのり温かく、ちょうどよい湯加減だった。


「やっぱりあったのね温泉」

「こんなところにあったんですね」

 

 俺も驚き何度も湯加減を確かめる。

 そして一人、ゾニアだけが不思議そうな顔で俺たちを見ていた。


「なんだ温泉って」

「あったかい水のことだよ。地面から湧いてくるんだ。俺たちはこれを探して旅をしていたんだ」

「へぇ、そんなもんがこの島にあったのか。ていうか、こんなもんのためにお前たちは旅をしているのか? 変わった奴らだな」

「まぁそう言うなって。とりあえずゾニアも靴を脱いでここに足を入れてみてよ」

「あっ、あぁ」


 俺に言われるがまま、ゾニアは恐る恐る足をお湯に浸けた。


「こっこれは気持ちがいいな」

「だろ?」


 ゾニアは初めての温泉を気に入ったのか、足ぶみをしてお湯をパシャパシャとはじけさせる。

 

「ちょっとやめろって」

「なかなか面白いな温泉というものは」

「これ、足だけじゃなくて全身を浸ければもっと気持ちいいんだけど」

「本当か!?」


 そういうとゾニアは洞窟内を探索し始める。


「つかさ、やしろ。ここけっこう深いぞ?」

「本当だ」


 そしてゾニアは上機嫌で温泉へと身体を沈める。

 しかしそこはそれほど広いわけでもなかったので、俺たちは彼女のそばに足だけを沈め、足湯を堪能する。


「すごいな、温泉というのは。こんなに気持ちがいいものがあるなんて」

「そうね。それに、この洞窟から見える景色がけっこういいわね」

「本当ですね」


 俺たちの位置からちょうど見える、水平線へと沈みゆく夕日の姿がとても美しかった。


「そうだゾニア。あんた海賊なんてやめて、これを商売にしなさいよ」

「どういうことだ?」

「ここをもう少し綺麗にして。温泉も広くしてさ。お客さんを案内するのよ。それでお代を貰うの」

「なるほどなぁ。そういうまっとうな仕事ってのもいいのかもな。なんか、アンタらに会えて良かったよ。ありがとな」

「まぁこっちは、一日でいろいろありすぎて、けっこう疲れたけどね」

「お? 疲れてるのか? じゃあつかさももっと入れよ」

「ちょっと、引っ張らないでよ。溺れるって」


 そんなことをしていたら、ゾニアの子分たちが小舟で迎えにやってきた。

 もしかしたら、焚き火の煙が目印になったのかもしれない。


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