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離島の村②

 なぜこんなことになってしまったのか。

 俺は他の男たちと共に身体を縛られ甲板中央に座らされている。

 そして俺たちを囲むようにガラの悪い男たちがウロウロしている。

 俺たちは海賊に捕まったのだ。

 デルシアの街付近で海賊被害が多発しており、有志による海賊討伐隊が結成されていた。

 もし海賊を討伐できれば、離島の村に行き温泉に入れるのではと、討伐隊に参加したのだ。

 ちなみに参加したのは俺だけで、つかささんはデルシアの街で待っている。つかささんの「アンタ、参加してきなさいよ」の一言で参加が決まったのだ。

 しかし俺たちはこの有様。不意を突かれ、海賊にあっという間に制圧されてしまった。

 海賊たちの中から一人の女性が近づいてくる。


「お頭、船の制圧完了しております」

「そうか、ご苦労だった。しかし私たちにケンカを売ろうなんてバカな連中がいるとはな」


 露出度の高い服を着た長髪の女はニヤニヤしながら、捕らえられた俺たちの事を見ている。

 お頭と呼ばれていたが、彼女がリーダーなのか。それとも他にもいるのか。

 女が俺の下へとやってくる。


「なんかお前だけ雰囲気が違うな」


 指先を俺の頬に這わす。


「でも、弱い男に興味はないんでね」

「こいつらどうしますか? お頭」

「見たところ人質にしたところで身代金が期待できそうな連中もいなさそうだしな。魚の餌にでもするか」

「了解しやしたぁー」


 海賊たちに連れられて船のヘリまでやってくる。

 終わったぁー。こんなところで俺は死ぬのか。つかささん、さようなら。

 海に突き落とされそうになり、水面を見つめる。そこに海賊たちの乗ってきた船とは別の船が見えた。

 アレは、、、?


「頭ぁ、1隻の船が近づいてきます」

「何? こいつらの味方か?」

「いや1隻じゃねぇ。何隻もいる。囲まれてます!」

「落ち着け! どうなってるんだ!?」


 俺たちの乗っていた船はあっという間に取り囲まれ、武装した男たちが乗り込んできた。

 そしてその中にはつかささんの姿もあった。


「作戦成功ね」

「作戦だと!?」

「そう。囮を出して相手が油断したところを一気に制圧大作戦!」


 つかささんはドヤ顔でピースサインを出している。

 どうやら俺が乗っていたのは海賊討伐船だけでなく、つかささんに乗せられていたようだ。

 

「お前たち、わかっているのか? こちらには人質がいるんだぞ」


 海賊たちは俺たちに首元に刀を押し当て盾にしている。

 だが海賊たちもどこか怯えているようだ。そう、こんなことをした連中だ。きっとまだ何か隠しているのではないかと思っているのかもしれない。

 きっとそうだ。つかささんのことである。この状況も予測して何か策があるに違いない。


「あー、どうしよ。何も考えてなかったわ」


 マジかよ。

 苦笑いを浮かべながら頬をかくつかささんを見て、終わったぁという本日二度目になる心の叫びを行った。

 甲板上が静まり返り、波の音と船が揺れ船体が軋む音だけが響く。

 そこで誰かの叫び声が上がる。

 

「うわっ! 何だあれは!?」


 そんな叫び声が次々と上がる。

 今度は何だと言うんだ。正直、もうお腹いっぱいである。


「今度は何? もうお腹いっぱいよ!」

「えっ?」


 海賊の頭の女性が俺が思ったことと同じことをつぶやき、思わず目を合わせてしまう。

 それと同時に船に大きな衝撃があり、船体が傾く。

 海賊たちも助けに来てくれた人たちも皆、態勢を崩す。

 そのスキに俺たちはなんとか海賊たちの手から逃れる。

 

「よかった、やしろくん。何とか無事だったみたいね」

「いや、死ぬところでしたよ」


 つかささんが剣で縄を切ってくれる。

 

「しかし、さっきの衝撃はいったい、、、」

「うーん。あれ見たいね」


 つかささんの視線の先には、目を疑う光景があった。

 そこには巨大な化け物が海から姿を現していた。

 その身体は透明で、しかし黄色、赤、青と色をこまめに変えている。

 そして何本もの触手が船体やマストをガッシリと掴んでいる。


「なにあれ。イカ? タコ? それともクラゲ?」

「そのどれかだとしても大きすぎるでしょう」

「どれでもいいわ。とにかく逃げるわよ。この船はもう持たないでしょ」

「そっ、そうですね」


 見れば、海賊も討伐隊も皆、一目散に船から逃げ始めている。幸い、つかささんたちが複数の船で乗り付けてくれたので、なんとか逃げることは出来そうだ。

 俺たちも逃げようとしたとき、先ほどの女海賊が曲刀を引き抜くと、一人モンスターに立ち向かう姿が見えた。

 しかし、モンスターの振るう触手にあっさりと弾き飛ばされる。そしてその触手が彼女の身体を縛り持ち上げようとする。

 それを見た俺の身体は咄嗟に動き、彼女を縛りつける触手に切りかかる。

 触手は離れ彼女を開放する。


「大丈夫ですか?」

「何をやっている。お前も早く逃げろ」

「アナタは何で逃げないんですか?」

「いざという時に子分を守るのが頭の努めだろ。それに、あの程度の怪物にビビってて海賊なんて出来ねぇよ」


 いやあっさり捕まってたし。

 そう言いそうになったが、なんとか我慢する。


「わかりました。みんなが逃げるまでですよ? それまで付き合います」

「! 変わった奴だね。仕方ない、今日のところは手を貸してもらおうか」

「ちょっと、やしろくん。何やってるのよ!」

「あれ? つかささんも残ってたんですか?」

「アンタだけ残して逃げられないでしょう」

「つかささん、、、」

「さぁやるわよ。もしイカやタコの類いなら、あの足と胴体の付け根を攻撃して。でもあそこには口もあるから、1歩間違えたら飲み込まれるわよ」

「それって無理ゲーって言うんじゃないんですか?」


 迫り来るイカタコ野郎の太い足を剣で斬り払いながら、本体への攻撃を試みようとするが、不安定な船の上ではそんなことは無理そうだ。


「お頭ぁ。大丈夫ですかぁ!」

「アンタたち、逃げたんじゃないのかい!」

「お頭を置いて、逃げるわけには行きませんよ」


 船から真っ先に逃げたと思われていた海賊たちが、船で戻ってきていた。それを見た女海賊は少し涙ぐんだように見えた。


「アンタたちは、、、よし、お前ら、あいつを取り囲め。足と胴体の付け根を一斉に攻撃するんだ!」

「了解しやしたぁ!」


 彼らは巨大なイカタコ野郎の周りを船で旋回すると、銛や弓矢を大量に浴びせた。

 イカタコ野郎は悲鳴を上げ、海の中へと沈んでいく。

 こいつ鳴けるのか? モンスターだから?

 しかしそんなことを考える余裕もない。さらに船が大きく傾いていく。


「やばい、奴と一緒に海の中に引きずり込まれる!」

「つかささん!」


 俺はつかささんの手を握り抱き寄せる。

 しかしそのまま俺たち3人は沈みゆく船と共に海の中へと引き込まれていった。


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