幽谷の村⑤
「へぇー、いいところじゃねぇか」
「気に入って貰えて良かったです」
猫人の村にある温泉へとやってきた猿人たちは、嬉しそうな表情を見せると、さっそく次々と温泉へと入っていった。
それを見て、俺とつかささんもひと安心する。
「まったく、どんな方法を使って猫人たちを説得したんだ?」
どこからともなくやってきたジョニィは、俺たちの隣までやってくると不思議そうに聞いてきた。
おそらく成り行きが気になって付いて来たのだろう。
「実はね。彼らの生活習慣を見て、一つ閃いたのよね」
「生活習慣?」
「この村に来て最初に思ったこと。それは彼らの住む建物がけっこうみすぼらしいなってこと。作りが簡素だったり、ところどころ傷んでいたり。しかもここの温泉も見に来たんだけど、かなりの荒れ放題でまったく手入れもされていなかった」
「そりゃそうだろ、温泉嫌いなんだから。嫌いな温泉手入れしないだろ」
「でもね。彼ら、けっこう身なりは綺麗にしていたの。綺麗好きなのに、それ以外の手入れはされていない。つまり、実は彼らってとてつもなく怠惰なんじゃないかって」
「怠惰? そこ?」
「そう。本当は綺麗好きでいろんなものを綺麗にしていたいのに、面倒だからやらない。でもとりあえずすぐ手の届く自分の身なりだけ整える」
「でもそれと温泉となんの関係があるんだよ」
「そこで猫人たちにこう交渉したの。猿人たちに温泉を提供する代わりに、家を建てたり、修繕したりしてもらうっていうのはどう?って。そうしたら快くOKしてくれたわ」
「いや、でもそれ猿人たちはOKしたのかよ。猫人たちからしたらそれでいいかもしれないけどさ。猿人たちからしたら、今までタダで温泉に入れていたのに労働が増えるって、かえってマイナスだろ?」
「そうよね。だから猫人たちにも一つ条件を出したわ。さすがに使ってなかった温泉提供するだけでは割に合わないだろうって。それがこれよ」
つかささんがそう言ったところで、温泉に猫人たちが入ってきた。
「さぁ皆さん、おカラダ流しますから上がってきて下さい」
「///ハイッ///」
猿人は少し照れながら温泉から出ると、猫人たちに身体を洗ってもらっていた。
「こっこれは!?」
「身だしなみを整えるの好きな猫人ならこういうの出来ないかなって。このくらいのサービスはあってもいいでしょ?」
実際に身体を洗ってもらっている猿人たちはとても気持ちが良さそうだ。
そんな彼らの下へとつかささんが寄っていく。
「じゃあこれで交渉成立で大丈夫?」
「もちろんだよ。家の修繕でもなんでもやってやるって。それよりアンタたち、温泉に入るために旅してきたんだろ? 俺たちの仲を取り持つためにここまでやってくれたんだ。アンタたちも入れよ」
「そうです。ぜひ、温泉を楽しんでいって下さい」
「じゃあ、お言葉に甘えましょうか」
猿人と猫人に誘われて、俺たちもやっと温泉を堪能出来るようだ。
それを見ていたジョニィがふとつぶやく。
「なんか、いいなぁ」
「おう? なんだぁ犬公。お前は入れるわけねぇだろ。さっさと自分の村に帰れよ」
「なんだ猿公。ケンカ売ってんのか? あぁ?」
「まぁた始まったよ、、、」
彼らのやりとりを見て、俺とつかささんは呆れたように肩をすくめた。




