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幽谷の村④

「うひゃぁぁぁああ! 見て、やしろくん! めっちゃ可愛いよ!」


 村の中を駆け回る人狼の子供たちを見て、つかささんが嬉しそうな表情を浮かべている。

 そう、つかささんのこの表情を見るのはこれで二度目だ。

 毛むくじゃらの人々が多くいるこの村は、先日までいた人狼たちの村、シエロ村ではない。

 かと言って、温泉で出会った猿人たちの村でもない。


「ほら、おいでぇ」


 つかささんはしゃがみ込むと、走り回る子供たちに両手を広げ呼び寄せるが、彼らは怪訝な表情を見せると家の中や建物の影へと隠れてしまった。


「あー、行っちゃったぁ」

「仕方ないですよ」


 落ち込むつかささんに慰めの言葉をかける。

 人狼の子供たちとは違い、かなりの警戒心を見せる。当然大人たちもだ。

 そう、この村は猫人の村だった。

 温泉での猿人たちとのひと悶着の後、シエロ村へと戻ってきた俺たちは、村長の家で作戦会議を開いた。

 しかし人狼の男衆は、やはり徹底抗戦の話ししか上がらず、かと言って平和的な解決ができないものかと考えていたつかささんもあまり良い作戦は思いつかなかったようだ。

 もちろん俺も、何も思いつかない。

 そこで村長から、シエロ村には村長よりも年上の人狼の女性がいるという話を聞く。彼女の話を聞きに行った俺たちは、そこである情報を得る。

 その情報を元にこの村へとやってきたのだ。

 警戒心を見せる猫人たちになんとか話を聞き、村長の家へとやってきた。


「人間がこんな村へやってくるとは、珍しくな。なんの用だ? 我々を捕まえようとしてやってきたようには見えないが?」

「お目通り感謝します。実はお願いがありまして、、、」

「お願い?」

「実はこの村には温泉があると聞いてきたんです。しかもアナタ方は温泉が苦手で普段は使われていないとか。どうかそれを譲って貰えないかと」

「アッハッハッ! 温泉か。そんなもの、あったな確かに。お主の言うとおり我々は温泉が苦手でな。まったく使っておらん。しかもあまりに使っていないせいで、村の若者はこの村に温泉があることすら知らないだろう。よく知っているな、どこで聞いた?」

「それが、、、」


 そこでつかささんは人狼と猿人が温泉を取り合っているという話をした。そこでシエロ村の女性からこの猫人の村に使われていない温泉があるという話を聞いてきたということを話す。

 もしその温泉を譲ってもらい猿人たちがこちらに移動して貰えれば、人狼と猿人が争う必要がなくなるというわけだ。


「なるほどな。話は分かった。山向こうの猿人と人狼はまた、ずいぶんと下らないことで争いをしているのだな。まぁ連中は昔から事あるごとに争いをしていたからな。今更と言えば今更だが、、、」


 村長は呆れたように肩をすくめる。


「だがな。それは出来ない話だ」

「なぜですか? 使ってないんですよね? しかも存在を知らない若者までいるって。じゃあ別に譲ってくれても」

「ちょっとやしろくん。落ち着いて」


 つかささんの後ろで黙って聞いていた俺は、断られたことに焦り、村長に食ってかかってしまったが、つかささんにたしなめられる。


「まぁな。気持ちはわからないでもないが。しかし我々猫人はな、誰よりも縄張り意識の強い生き物なのだよ。たとえそれが必要のないものでも、自分たちの物を奪われるということには強い抵抗感がある。今言ったように若者の中には温泉の存在を知らない者もいる。しかし、高齢の猫人にはその使われず寂れてしまった温泉を散歩コースにしている者もいる。我々はそういう生き物なのだよ。わかってくれ」

「なるほど、わかりました」

「えっ? 納得するんですか?」


 つかささんは口元に手を置き、少し考えると口を開いた。


「ところで村長。一つ提案があるのですが、、、」


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