表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/42

幽谷の村③

 人狼たちの村、シエロの村よりさらに山奥へとやってくると、その温泉はあった。


「お二人さん、あいつらです。クソッ、あいつらノンキに風呂に入りやがって」


 温泉まで連れてきてくれたジョニィは、温泉に浸かるモンスターたちを見て悪態をつく。

 しかし彼らの言うモンスターって、、、


「サル、ですよね?」

「そうね。サルね」


 そう、そこには気持ち良さそうに温泉に浸かるサルの群れがいた。

 しかしモンスターだけあって普通の動物園にいるサルとは違う。1頭? と言っていいのか、それらのサイズが普通のサルより圧倒的に大きい。2m弱はあるだろうか。直接戦って勝てるとは到底思えない。


「つかささん、どうしましょうか」

「そうね。話し、通じるかしら」


 そう逡巡していると、横で一緒に潜んでいたジョニィがおもむろに立ち上がる。


「すみません。もうガマンできねぇ」

「えっ、ちょっと待って!」

「やいテメェら! 俺たちの温泉に、のんびり浸かってんじゃねぇ!」

「おっ!? なんだ!?」


 ジョニィは勢いよく飛び出すと、牙と爪を出しサル軍団へと襲いかかる。

 それに反応しサルたちも立ち上がる。


「えっ、ちょっと!」


 つかささんが慌てて目を背ける。が、全身の毛量が多く、女性が見て恥ずかしがるようなモノは見えなかった。


「つかささん、大丈夫ですよ」

「ホント? あっホントだ。良かった」


 つかささんはホッとして、手で目を覆うのをやめる。

 しかし、ジョニィの方は大丈夫ではなさそうだ。

 ジョニィ自身、腕っ節には自信はあるのかもしれないが、さすがに多勢に無勢。すぐに防戦一方になる。

 だが、温泉の中で戦っているというのもあって、お湯に足が取られサルたちも上手く立ち回れず、ジョニィのことを捉えられないでいる。


「ちょっと、落ち着け! ジョニィ!」


 仕方なく俺も草むらを出る。


「うるさい!」

 

 ジョニィは完全に頭に血がのぼっている。なぜこうもイラついているのか。自分たちの縄張りを取られたから? それとも犬とサルだからだろうか。


「ジョニィ! いい加減にしなさい!」

 

 今度はつかささんが大声を上げる。しかしジョニィは全く言うことを聞かない。


「ジョニィ! ハウス!」


 えっ、そんな飼い犬を躾けるみたいな言い方で?


「ちっ! なんだよ人間の女ぁ」

「いいから、こっちに来なさい!」

「、、、わかったよ」


 言うことを聞いた!?

 ジョニィがしぶしぶこちらへとやってくる。

 ジョニィがこちらに戻ってきたことで、サルたちも手を止めたようだ。もしかしたら、俺たちが後から出てきたことで、混乱しているのかもしれないが。


「なんなんだお前たちは、、、なんなんだいったい、、、」


 やはりコイツらも喋れるのか。だが、知性があるのなら交渉の余地はあるかもしれない。しかし、すでにジョニィがケンカをふっかけたことで、うまくいくのかもわからない。


「すみません、入浴中に。俺たちは人間の旅人です。やしろとつかさと言います」


 それを聞いてか、奥にいた1頭の猿人がこちらへとやってくる。


「ほう、人間か。人間がなぜこんなところにおる。なぜ人狼なんぞと馴れ合っている?」

「それは、、、成り行きで」

「その人間が、俺たちに何の用だ? 人狼絡みか?」

「そうなんです。実は、、、えーと、どうしましょう? つかささん」

「ちょっと、もう終わり? 仕方ないわね」


 つかささんに助けを求めると、呆れたように肩をすくめながら俺の前へと出た。


「そうよ、話しっていうのは彼ら人狼絡みよ。彼らの話では、ここの温泉は元々人狼たちのものだったと聞いたわ。でもアナタたちに奪われて占拠されているって。それは本当なの?」


 そんな直球で?

 つかささんの交渉に驚くが、速攻でドロップアウトした俺には何も言えない。


「なるほどな。人間の女よ、お前の言う通りだ。この温泉は俺たちが奪った。だから何だというのだ」

「なら、返しなさい」

「嫌だと言ったら? それに、いきなり攻撃を仕掛けてきたのに返せとは。返して欲しくば、力づくで奪い取れば良いだろう。そこの若者のように。ここを奪った我々のように。なんならキサマらの仲間を連れてくればいい」


 チラリとジョニィのことを見る。ジョニィは牙を剥き、怒りに震えている。


「好戦的なのね」

「我々は長年こうやって生きてきた。そしてそれは人狼どもも同じ」

「話し合いをする気はないのね」

「そこの若者が頭を下げるなら考えてやらんでもない」

「誰が!」


 ジョニィが叫ぶ。


「ダメね」

「でも、ジョニィが頭を下げれば考えるって」

「そんな気ないわよ」


 猿人はニヤニヤと笑っている。

 その通りのようだ。


「出直しね。帰るわよ。ほら行くよ、ジョニィ」


 そして俺たちは猿人たちとの対面を終え、シエロの村へと戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ